123 品評会、結果はっぴょー!
1月も一週間が過ぎた頃、私が監督してたひよっこちゃん達のそれぞれの作品が打ち上がった。出来は、まあ……悪くは無いんじゃないの? 良くわからないけど。
いや、こう言っては何だけど私が自分で造ってる物の基準で言うと、どれもこれも格下な訳でして……だから工房で販売してる物と比較した場合で、となるんだけどね?
そう言う観点で見ると、見習い二人の打ったナイフは、ぎりぎり及第点? 工房の作品としては売れないけど、見習いが造った物と考えると出来は良い方なんじゃないのかな?
親方も品評会に出品していいって許可を出してたから、多分良い物なんだと思う。
駆け出し君は、一応売物として許容できる品質の見本剣が打てる様になった。とは言え毎回安定してその品質の剣を打てると言う訳ではないので、ここから更なる精進を、と言う評価。それでも数打ちの剣を打つ仕事を許されていたみたいなので、後は場数をこなして経験を積む感じ?
で、エドはと言うと……なんと『高品質』の剣を打ち上げてしまったのだ。『高品質』と言えば武器の品質としては上から数える方が早い出来になる。
私が監督してる間にエドの鍛冶スキルのレベルは5に上がってたりするんだけど、それでもレベル5で『高品質』の剣は普通は打てない筈なんだよね。まったく、これだから才能がある奴は……!
ちなみに武具における品質は剣の場合は下から『粗悪』『最低品質』『低品質』『普通』『良品質』『高品質』『最高品質』『名剣』『剛剣』となる。そこに『粗悪』以下の悪い意味での『規格外』を加えての十段階。エドが打った剣は十段階で上から四番目となる。
更に加えると上位二つのランクの品質を打てる鍛冶師は別格と言っても良いので、その二つを抜けば実質二番目。ホントに、これだから才能のある奴は……!!
え? 私だって半年くらいで名剣を打てるようになったって? いや、それはスキルの成長が早い天人族の種族特性のお陰だからだし? それが私の地力なのかって言うと、それはちょっとねえ?
そう言うチート能力で下駄履いてる私はある意味ズルしてるのと一緒だもの、あんまり自慢できる事ではないと思うよ? いや、それでも成長が早いってだけで相応に努力は必要だし、実際にしてるつもりだけどね? でもねえ……
まあいいや、あんまり卑下してても始まらないし。
とまあ、そんな感じにそれぞれの作品が出来上がって数日後、品評会の日がやってまいりました。
私としては別に行かなくても良かったんだけど、親方やエド達に是非に、と言われて渋々見に行く事にした。まあエド達の監督もしてたし、どういう結果になるかはちょっと気にもなる所でもあったし。
いや、うん……正直な所、割りと普通に気になってたりするんだよ。
非常に言い難いんだけど、その……監督業も後半になると、自分の作業そっちのけで監督してたりしまして……ちょっと熱が入りすぎたと言うか何と言うかね?
あー……うん、正直に言うと、絆されたと言うか何と言うか……いや、あれだけ真面目に取り組んでるのを見ると、流石にねぇ? 色々助言すると素直に言う事聞くし……
最初の印象は最悪だったけど、本来のエドは今の素直な性格だったんだろうね。ちょっとしつこすぎてうざったい所はあるけど、ああも真っ直ぐに慕われると、ずっと塩対応するのも流石に気が引けると言うか? ……あああ、もう! 別にいいじゃん! 私だっていつもツンケンしてるわけじゃないよ!
ちなみに品評会の会場は闘技場だったりする。何でこんな場所でやるのかと言うと、展示される物品が基本的に武具の類である事と、実際に出来を比べる為の試し斬りなんかが行われるからだったりする。
後は見に来るのが鍛冶師だけではなく、騎士や冒険者、商人なんかも来る為、広めの会場じゃないと収まりきらないかららしい。
商人であれば将来の仕入先を探す為に、冒険者であれば良い武器を打つ鍛冶師に唾をつける為に。それぞれ生活がかかってるしね。
で、そう言う関係上、商人からは独立や資金援助を餌にしての囲い込みの場であったり、冒険者と鍛冶職人との互助契約が最も多く結ばれる場でもあったりするとか何とか。やっぱり世の中、色々と世知辛い……
とは言え【鑑定】スキルでも持ってない限りは第三者には良し悪しなんて中々判らない訳で、仮にそう言うスキルを持ってる人でも実物を見ながら新人の腕も見られるこの場は割りと人気があるらしい。
でも熟練の鍛冶師や冒険者、目利きの良い商人ともなるとそれなりには良し悪しが分かったりするのだ。そう、それなりに。
つまり、仲の悪い鍛冶師同士とかになると自分の方が上だ! と喧嘩になったりするのである。そしてそう言った事態を防ぐ為の試し斬り、と言う訳だったりするそうで。
ただ、試し切りに参加した場合は剣が折れる事もある。こう言ってはアレだけど、所詮は見習いや駆け出しといった若手や新人の打つ代物。強度やらなんやらに問題がある事も多かったりするらしい。
だから試し切りに参加するのであれば場合によっては折れる事も了承しないといけない、との事だった。
ちなみにアルノー工房の職人は全員試し斬り参加。みんな凄い自信だね……なんて言ってみた所、例え結果が出せなくても近隣諸国でも1~2を争う人気のアルノー親方の工房で働いてるという事への自負と言う事らしい。
そうそう、最初、斜向かいの工房の跡取りは試し斬りへの参加を渋ってたらしいよ? でも試し斬りにも参加しないで口だけで自分の方が上だなんて言うような鍛冶師は誰にも相手にされないようになるらしくて、渋々参加する事にしたみたい。アホか。
後、会場では軽食も取れるようになってて、端の方には飲食できる場所もあった。とは言え所詮はおまけみたいなものなので、軽食の出来はお察し。ちょっと見てきたけど、うん……別に無理に食べなくてもいいかな。
軽食の確認をした後はふらふらと会場を見て回った。とは言っても流石に一人ではない。なんとクロが一緒だったりする。
いや、クロって雪掻きの雑用であんまり役に立たないらしいんだよ。寒いのが苦手だから動きが緩慢になるし、獣人の中でも猫獣人ってそんなに腕力がある方じゃないから、重労働の雪掻きは不得手なんだとか。それにクロって私よりも年下で身体も小さいしね。
それにこの会場に体格の大きなノルンを入れるのはちょっと難しかったので、クロが一緒に来てくれたのは非常に助かった。いや一応ベルは一緒に来てくれてるんだけどね。どっちにしても私の守りが厚くなるのは有り難い。
場所柄、フードを被りっぱなしにする訳にもいかなかったんだよ。不審者扱いされちゃうからね。
でもマフラーで顔の下半分を隠すのは問題ないと言う事だったので、それで何とか……とは言え、最近はこんな風にノルンが一緒に来られない状況が増えて来ていて、ノルンの機嫌が余り宜しくなかったりするんだよね。
うん、今度ノルンにカレーをご馳走しよう、そうしよう。
ちなみにクロに引っ付かれながら会場を見て回ってる時にベクターさんやニール、ギムさんを見かけた。ギムさんに聞いてみた所、どうやら試し斬りをする為に雇われてるらしい。
どんなに良い剣だったりなまくらだったりしても、腕のいい剣士や戦士じゃないと公平に結果が出せないとかなんとか、そう言う理由で各種武器ごとに扱いに長けてる冒険者に依頼してるらしい。なるほどなー。
尚、ベクターさんは意味ありげな笑顔でこっちを見ていたりしたんだけど、スルーしました。魔石の事はすっとぼける予定だしね! だからお願いします、こっちに近づいてこようとしないで下さい!
後、ベクターさんから逃げ回ってる時にマリクルとリューにも会った。何でも男子メンバーは全員来てるらしい。おいこら、ゴブリン狩りや雪掻きはどうした。
とは言ってもちゃんと理由があっての事なのでサボりではなかったりする。実は品評会に出品された武器は購入できるのだ。しかも、相場より少し安めのお値段で。
マリクル達の狙いはそれで、可能であれば安価な値段でケインとボーマンの武器を手に入れ、出来ればその武器を鍛えた鍛冶師とお近づきになりつつ、以後その鍛冶師が働く工房から武器や防具の購入をするようにしたい、と言う事らしい。うーん、ちゃんと考えてるね。
理想を言えば互助契約まで結びたい、との事だったけど……互助契約は鍛冶師側のリスクも大きいから、難しいんじゃないかなあ? とは言えマリクル達もそう思ってるらしく、あくまでも可能であれば、と言う事だった。ちなみにこれらはケインの発案だとかなんとか。
嘗ては互助契約狙いで職人街通いをしていたトリエラを馬鹿にしてたと言うのに、ケイン……いや、成長した、と言う事にしておこうか。何でも悪く取るのは私の悪い癖だ、少しは直すようにしないと。
とまあ、そんな感じで知り合いと顔を会わせたり駄弁ったりしている内に試し斬りが始まった。
最初はナイフやダガーと言った短身の刃物から始まり、徐々に刀身の長いものや重量系の斧や槍と言った物へと移っていく。
ナイフやダガーはなめし皮へ切りつけたり突き込んだりしていた。短剣なんかも同じ様になめし皮。そういった刀身が短いものが終わると、割りと沢山のオークの死体が運び込まれてくる。なめし皮の次はこれを使うらしい。
このオークの死体、秋の繁殖期に狩った物を凍らせて保存しておいたものだそうで、槍や斧、片手剣や両手剣はこれを使って試し斬りを行うとの事。ざくざくと刻まれていくオークの死体……割と普通にスプラッターな光景だわ……正直ちょっとグロい。
順調に進んでいく試し斬り。槍では幾つか刃が折れたり欠けたりしていたものの、斧は重量で叩き斬る為か特にそういった事はなかった。
で、それらが終わったら次は最も出品が多い片手剣。使い手が多い分、出品数も最も多くなるらしい。使い手が多いって事はそれだけ売れ線って事だし、納得でもある。ちなみに次に出品が多いのは両手剣らしい。槍の方が便利な気はするんだけど……やっぱり剣の方が人気があるって事なんだろうなあ。
剣の試し斬りはオークの鎖骨目掛けて縦に唐竹で振り下ろして行われた。鎖骨から肋骨を何本まで断ち切れるかで切れ味を試す、と言う事らしい。オーク一匹で剣二本の試し斬りが出来る。ちなみにオークの肋骨の数は豚と同じく15~16本との事。
オークの骨はその巨躯に見合った太さと堅さを誇る。お陰で何本もの剣が折れまくっていた。つまり涙目になっている若手鍛冶師が量産されるのである。ご愁傷様です。
ちなみに片手剣の試し斬りは全てベクターさんが行っていた。何でも今、王都に居る剣士の中でもかなり上位と言う事で依頼されたらしい。
とは言え冒険者ともなれば剣の腕だけではなく総合的な強さが重要なので、単純に剣士として強いと言うだけでは駄目とかなんとか……いや、剣士として強ければそれだけで十分強いって事になるんじゃないの? まあ私は前衛じゃ無くて後衛だからよく分からないけど。
何はともあれ試し斬りは順調に進んでいき、斜向かいの工房の跡取りの剣やエドの剣でも行われていく。流石のベクターさんも終わりの方では大分疲れている様子だった。
で、エドの剣の結果は、と言えば……刀身は折れる事無く肋骨を12本断ち斬った所で斬撃が止まる、と言う結果になった。ちなみにこれは今回の出品された片手剣では最も優秀な結果だったりする。
なんと言うか……ちょっと誇らしい気分になって、少し涙目になってしまったのはここだけの話。秘密だからね?
尚、斜向かいの工房の跡取りは、6本目の肋骨に当たった所でへし折れていた。残当。ただね、彼が打った剣って……火属性が付与された属性剣だったりしたんだよね。
あの工房って魔力剣や属性剣を販売してる事で利益を上げていた訳で、それが今回跡取りが打った剣がこんな結果になった事で大分評判が下がるのではないか、とか何とか……鍛冶師ギルドのお偉いさんっぽいおっさん達がそんな感じの事を話し込んでいた。
しかも、ライバル店と目されていた工房の親方の息子であるエドが優秀な結果を残してしまった事で、更に評判は落ちる事になりそうだとか。その上そのエドが打った剣は何も付与されたりしていない普通の剣な訳で……うん、悲しい事になりそうだ。
でもまあ、色々指導した身としては実に誇らしい。
片手剣の試し斬りが終わった後は両手剣の試し斬りへと移って行く。両手剣の試し斬りはベクターさんではなく別の人が行っていた。流石に腕が痛いらしい。
試し斬りが全て終わった後は剣や他の武具の売買や商談等が行われる。この頃になると見物に来ていた商人以外の冒険者や剣士、騎士と言った人達は帰り始めていた。
今回息子が結果を出した事でアルノー親方は沢山の人に囲まれて忙しそうな様子だった。当然エドも囲まれていた。今年は沢山依頼がきそうだねえ……頑張ってくださいね?
親方達が忙しそうだったので私は一足先に工房へ帰宅。なんだかあのままあの場に居たら面倒な事に巻き込まれそうな気がしたんだよね……
夕方になって帰ってきたエドに話を聞いた所、私の嫌な予感は当たっていたらしい。なんと、アルノー親方が前に私が譲った刀を披露していたのだとか。勘弁してよ……
刀、と言うか蓬莱刀は非常に高値で取引される為、とても稀少価値が高い。その為に使い手も少なく、今回の品評会には刀術スキルを持っている剣士も居なかった為、刀での試し斬りは行われなかったらしいんだけど、色々と盛り上がっていたとの事。
ちなみに親方は以前のベクターさんの魔剣と同じ様に伝手とコネで手に入れた、と言う事にしていたらしい。何にしても刀を手に入れ、それを調べる事でアルノー親方の工房はこれから更に技術が上がるのではないか、と大盛り上がりだったらしい。
実際の所、親方はレアな蓬莱刀を手に入れた事をただ自慢したかっただけなんじゃないかなーと思うんだけど、むーん……いや、一応誤魔化してくれてはいたようだし、ぎりぎりセーフ? ぎりぎりアウト? どっちだ?
他にも色々とエドに話を聞いた所によると、いきなり腕を上げた事で同年代の若手達に囲まれて色々聞かれたと言う事だった。
ただ、エドは質問に対して全て『先生のお陰』と答えていたらしくて……いやホント、マジで勘弁してください。
あー……品評会、行かない方が良かったかも。あ、でも監督した結果のエドのあの剣だし、親方も刀自慢はしただろうから、行っても行かなくても同じか。ぎゃふん。







































