121 ああ、めんどくさい……
翌朝、寝苦しくて目が覚めたりした訳であります。
原因は分かってるんだ。うん、クロなんだ。
いや、前回のお泊りの時と同様、またしても私の争奪戦が勃発しましてね? そして当然の様にクロが勝利したんだよ。例の如く超高速後出しじゃんけんで。
あれ、普通の人族が勝つのって無理じゃない?
【鷹の目】スキルのお陰で私は辛うじて見えるけど、反応速度と身体能力の差で途中で手を変えるのは無理だし、トリエラ達ではよっぽど所か、相当鍛えないとどう足掻いても負けると思う。種族の能力差ってかなりヤバくない……?
それはさておき何でこんなに寝苦しいのかと言うと、クロが私の正面からがっちりとしがみ付いて寝てるからでしてね。ええ、私、抱き枕状態です。
見下ろしてみればクロの顔は完全に私の胸に埋まってたりする訳ですよ。君、苦しくないの?
とは言えクロって猫系の獣人だから、寒いのは苦手なんだよね。孤児院に居た時も冬は時々私やトリエラの布団に潜り込んで寝てる事が有ったし、この反応はわからないでもないんだけど……いや、それはそれとして、離してくれないと私、起きられないんだけど!
その後、結局クロが起きるまで解放されませんでした。
食事の準備? アルルが用意してたよ。とは言っても起きるのは全員かなり遅かったから、かなり遅めの朝ご飯になったけどね。まあ疲れも溜まってたんだろうし、仕方ないと思う。
ご飯の後は帰路で狩ったオークの売却の為にギルドの出張所へ行く事になった。とは言っても私はそっちには付き合わないで工房に帰るんだけど。ちなみにオークの死体は私が収納してこの家まで持って来た。
え? 私が帰ったらトリエラ達はどうやってギルドにオークを持って行くのかって? いや、ほら……前に作ったキャリーカート、トリエラ達に譲ってあげたのがあるから、それを使って運んで行ったよ。
まあ、オークって大きいからカートからかなりはみ出てて、落ちないように全員でオークの手足抱えてひぃひぃ言いながらカート押して運んで行ったけど。
ほら、幾らなんでも事有る毎に何でも助けてたらこの子達成長しないから、この位は自分達でやらせないとね。
私も甘やかすばっかりじゃないよ? ……多分。
トリエラ達の家から工房に帰ると、工房の皆から総出でお出迎えを受けた。
あの、取り囲まれると身動き取れないんですが……親方に至っては凄まじい力で背中をバンバン叩いてくる始末。痛いから止めて! いやマジで! 痛い痛い! 止めて!
……夜に自室で姿見を出して確認したら、でっかい手形が付いてて涙目。上級ポーション飲んだら何とか消えたけど。
でもアレ、消えなかったら本気で洒落にならなかったよね。危うくお嫁に行けなくなっちゃう所だったよ。別に行く気無いけど。
そして翌日からやっと鍛冶修行再開! と言う訳で早速カンカンとやってたんだけど……昼休憩の時にご飯食べに行こうとした所で、練習用の鍛冶場から出てきたエドが声を掛けてきたんだよ。
「先生! お願いがあります!」
え、ヤだよ。
うん、返事を口にするよりも先に思いっきり顔に出てたらしい。物凄い顰めっ面をしてしまった模様。
そしてそんな私の表情を見たエドが泣きそうな顔で、頭を下げながら必死になって色々説明してくれたんだけど……いや、別に事情を話せなんて言ってないし、知りたくも無かったんだけど? 人の話聞いてないね?
えーと、エドが言うには鍛冶師に限らず大体の職人の類は、冬になると仕事が減るんだって。で、その冬の間は仕事場も空く時間が多くなるから、その空いた時間を使って見習いや駆け出し、後は若手の職人達なんかが色々作って切磋琢磨する、腕を上げる為の修行期間みたいな感じになるんだそうな。
そしてそんな若手達の作った作品の各ギルド主催の品評会みたいな催しが新年早々にあるらしく、私にへこまされて改心したエドはその品評会に出品する為に剣を打っていたとの事。
所が打てども打てども納得できる剣が打ち上がらず、上手く行かない憤りと焦りからスランプになってしまったらしい。
そんな時に以前私にぼこぼこにへこまされた時の事を思い出して、あの時と同じ様に助言と言うか監督と言うか、そんな感じの事をしてもらおうと思いついたらしいんだけど、待てども待てども私が帰って来ないから滅茶苦茶に焦っていたんだってさ。そんな事言われても知らんがな。
「つまり、私に横で見ていて欲しいと?」
「はい! 前の時の様に相槌を打つのでは自分の仕事になりませんし、先生の手を煩わせる訳にもいきません。助言をくれとは言いません! ですから、横で見ているだけでも、なんとかお願いします!」
えー……手を煩わせたくないって言うけどさぁ……横で見てるだけでも私の修行時間なくなるよね? それだけで時間無駄に使っちゃうじゃん。
私の反応が芳しくないのも有ってエドも必死にぺこぺこ頭下げまくってお願いしてくるんだけど、私としてもやっと鍛冶修行再開した訳で、それ以外に時間を使いたくないと言うのが正直な所。
「取り敢えず、時間も時間なので先にご飯にしませんか?」
「あ、はい! すみません、そうしましょう!」
このままここでうだうだやってたら食いっぱぐれちゃうから、話の続きはご飯を食べた後で、と言う事に。
だと言うのにお昼を食べてる時にも延々お願いを続けるエド。ご飯くらいゆっくり食べさせろ! 寧ろ唯でさえなかったやる気が一層無くなるわ!
エドがぐだぐだと言葉を重ねるにつれて自分の眉間の皺が深くなっていくのが分かる。そんな私の反応に焦ってさらに言葉を重ねていくエド。そして更に不機嫌になる私。悪循環だ。いいからまず先にご飯食べさせろよ。
そんな私の反応を見ていた他の面々がこれは拙いとエドを黙らせた事で、やっと静かにご飯を食べられる様になった。
その後、イライラしながらも何とか食事は終了。そして途端に口を開くエド。いい加減にしろお前。
とは言え私は大人なので、ちょっと冷静に考えてみる事にする。
……私にへこまされた以降のエドは色々真面目に取り組むようになって、大分鍛冶の腕を上げたようだった。腕が上がればそれを試したくなると言うのはよくある話。そんなエドの気持ちも分からないではないけど、私としてもこの冬で鍛冶スキルのレベルを10にしちゃいたいし、はっきり言ってお断り案件だ。
あと、ゆっくりご飯食べさせてくれなかったのが非常にむかついたので更にマイナス評価。と言う訳でお断りします。
と私が拒否の言葉を口にしようとした所で親方が混ざってきた。
「おいエド、いい加減にしろ。しつこくしすぎだ、嬢ちゃんが嫌がってるだろう」
「親父……」
「お前の気持ちもわからんではないが、それにしたって相手の都合も考えずにしつこく言いすぎだ。はっきり言ってこの嬢ちゃん相手には逆効果だぞ」
「え……?」
そこでまたも顔を青くするエド。親方に諌められてやっと冷静になったらしい、私の顔をみてキョドキョドしだした。
「う……俺、そんなつもりじゃ……」
無反応の私である。本気でイライラしたからね。食事をする時はね、誰にも邪魔されずになんと言うか……幸せじゃないと駄目なんだよ。それを邪魔したお前は敵なのだ。
「はぁ……すまなかった、嬢ちゃん。こいつはまだまだ餓鬼でな……とは言え、俺も親としては何とかしてやりたくはある。こいつには大分イラついたんだろうが、何とか頼めんか? もし引き受けてくれるなら何かしらの形で礼はする。だから、頼む」
ぐわ、親方に頭下げられちゃったら断れないじゃん! やめてよ、ほんと……
うーん……………………………………………………………………………………
…………はー、親方には色々良くして貰ってるからなあ……仕方ない。
「はあ…………分かりました、引き受けます。でも、見るだけです」
盛大に溜息。もう、ホントやりたくない。あれだ、見てるフリして適当に何か内職しよう。炸裂弾の増産とか。
「本当か! ありがとう嬢ちゃん!」
「レンです」
「そうだったな、レンだったな! おらエド! お前も礼を言え、馬鹿たれが!」
「あっ、ありがとうございます、先生!」
乗り気じゃないからやりたくないけどね。
とは言え、引き受けた以上はそれなりにはちゃんと監督はするよ。親方も何かお礼はしてくれると言うし、その内容に期待してそれなりにね。やりたくないけど。
そんな事を考えて居ると視線を感じたので、何となくそちらを見てみると見習いの少年が何か言いたそうにこっちを見つめていた。んー?
……ああ、もしかしてあれか。自分も見てもらいたいとか、そう言う事かな。
たしか、エドが使ってた練習用の鍛冶場は小型の炉が複数並んでる部屋だった筈だから、見習いの少年達も一緒に作業してた筈。
となると……あー。
まあ、いいか。一人見るのも二人見るのもそんなに大差はない。それに見習いであれば2~3人増えた所で大した負担にはならないと思うし、この際だ。少し多目に親方に恩を売っておこう。
「なんなら、そっちの子も一緒に見ましょうか? 助言はしませんが」
「何? 嬢ちゃん、いいのか!?」
「見てるだけでいいなら一人二人増えてもそんなに変わらないと思いますし、まあ……」
「なら、頼む! いつも通りなら俺が見ようと思っていたんだが、ちょっと面倒な依頼が幾つか入っててなぁ……アルや他のベテランは俺の補佐に入れないと間に合いそうにないし、どうしたもんかと悩んでたんだ。こっちの手が空き次第俺も見に行くから、それまで半人前共を頼む!」
あら、思ったよりも恩が売れそうな感じ? 想定外に良い効果が出たっぽいね、これは。
でも面倒な依頼ねえ……? 冬の閑散期とはいえ依頼がなくなるわけじゃないって事か。と言うか、むしろ暇な時期だからこそ面倒臭い依頼が来るのかな?
平時だと手間がかかり過ぎるからって理由で断られるような細かい仕事とか、時間が掛かる割りに地味な仕事とか……まあ、私がやるわけじゃないし、別にどうでもいいや。
もう鍛冶依頼を受ける気は無いし。
まあいいや。
それで、えーっと……アホのエドと見習いの少年が二人と、あと駆け出しっぽい感じの人が一人の、合計四人か……面倒だけど見てるだけだし、まあ何とかなるでしょ?
いや、気が向いたら助言位はするよ、多分。
とまあ、そんな感じで適当に監督業に精を出す事になりましたとさ。
……ああ、本気で面倒臭い。







































