119 フラグ? そんなものは無い!
と言う訳で帰りの車中のレンです。
まあなんと言うか、寝坊したお陰でトリエラ達を待たせて風呂に入ったり皆に見られながら一人でご飯食べたりと、中々気まずい空気の中の出立でしたよ、ええ。
皆の視線の痛い事……全力でスルーしましたが。
尚、野郎共は諸事情により森の外で待機してました。
帰りの馬車移動は来る時と同じで野郎共は御者席、女子は車内。雪道歩かないでいいんだからまだマシでしょ?
ちなみに野郎共は二日酔いでグロッキーになってたりする。さっきの諸事情と言うのがこれ。頭が痛くて動きたくなかったらしい。
なんでも、冬の主討伐のお祝いと、かなりの額の討伐報酬が入ったお陰で羽目を外してしまったらしく、孤児院で飲み会になったのだとか。
ケイン達も調子に乗ってお酒を飲んで騒いでいたらしいんだけど、調子に乗りすぎて飲みすぎてしまった様子。ザマァである。
まったく、お酒大好きな私が成人まで我慢してるというのに、アホ共め……羨ましいのを通り越して妬ましい。
ちなみに、飲酒は成人の15歳から認められてるけど、未成年が飲んでても厳しく取り締られると言う事は無い。何分この国の冬はかなり寒いので、体温を上げると言う名目で子供でも多少の飲酒は見逃されるのだ。実際は逆効果だけど。
そんな因習と言うか悪習のお陰か、冬以外の時期の飲酒も祭りの時なんかは割と見逃してくれる。
とは言っても調子に乗って馬鹿みたいに飲んでれば顔を顰められるので、その辺りは個人の良識の範疇で、なんだけどね。
とまあ、そんな事情も有ってついついやらかしたんだろうけど、自業自得なので私は面倒は見ない。
色々なサスペンションのお陰で私の馬車はかなり乗り心地がいいけど、それでもこの悪路を走っていれば時折揺れる。そして揺れるたびに苦悶の声を上げ、呻く男子連中。鬱陶しい限りである。
……言っとくけど、吐いて馬車を汚したら殺すから。
尚、トリエラ達は飲まなかったらしく、馬鹿をやったケイン達を白い目で見ていた。ちなみにケイン達に酒を勧めたのはボブだったらしい。ボブ、なにやってんの……
これでケイン達が悪い遊びを覚えた糞餓鬼みたいになって、無駄な出費が増えない事を祈る。トリエラ頑張れ。
と言うかマリクルまで一緒になって飲んでたと言うのだから、呆れるしかない。いや、その位冬の主の討伐成功が嬉しかったって事なんだろうけど……
尚、飲酒した連中は全員翌日の朝に二日酔いの頭を抱えたまま院長先生に説教されて悶絶していたらしい。ホント、なにやってんの……?
途中の昼休憩の頃になると野郎共も大分体調が戻ったらしく、多少元気になったみたいだった。
ちなみに帰路の食事番はトリエラ達で、私は完全にノータッチ。来る時は流石に手を出しすぎてしまったらしく、色々経験する為にも帰りくらいは自分達がやる、との事だった。お陰で私が手を出そうとすると怒られる。
昼は軽めに済ませるので、スープとパン。二日酔いにスープは効くだろうね、アルルぐっじょぶ?
昼休憩の時に後続の馬車が何台か追いついてきたけど、先行してるのが私達だった事に驚いているようだった。
あー、何となくだけど、理由は分かる。
雪道を進む為、馬車の前面部には雪を掻き分けながら進む為の菱形の器具がある。
馬に繋ぐ長柄に取り付けるこの器具は馬の前面にあるんだけど、私はこれを魔道具化して高性能化してるんだよね。
複数属性を持たせた事でさくさくと雪を掻き分けて進む事が可能になって、その上、地面を舗装して平らにする機能も付いてたりする。
これにより馬の進行も楽になり、馬車の車輪も泥や轍に取られる事なくするすると進んでいけるのだ。
私達の進んだ後を付いてきた馬車はさぞかし楽に進んでこられた事だろう。
ちなみに、往路の隊商の馬車は30分から1時間位のタイミングで、交代で先頭の馬車が入れ替わっていた。その位に雪を掻き分けて進むのは馬の負担になる。ちなみに往路の時の私の馬車は常に真ん中辺りに居たとだけ言っておこう。
とまあ、そう言った諸々の事を鑑みるに、先行してる馬車が私達みたいな子供が駆ってる馬車一両だった事に驚いてるって事だと思う。
何にせよ、揉め事は困るのでご飯が終わったらさっさと先に移動再開するんだけどね。
あ、ちなみに王都からオニールに向う馬車とは何台かすれ違った。と言うか、結構な数とすれ違った。
オニールに残ったままの騎士団も居るし、冒険者達もかなりの数が残ってるはずだから、その分の食料の輸送も馬鹿にならないんだろう。
その後も順調に進んで行き、今日は適当な野営地で夜営。村に入っても嫌な顔されるだけだから別にどうでもいいんだけど。
食事番はアルル達に取られたし、薪集めは野郎共の仕事。私は最初に土魔法で竈だのを作った後は特にやる事が無くなってしまって暇だったりする。
あ、一応馬を囲う為の屋根つきの簡易厩舎も造ったかな。
これ、往路の最初の頃は造らなかったんだけどね。ほら、私の馬ってゴーレムだから、馬専用の大きなテントとか張る必要なかったし。
でも、隊商と同道するようになってからは毎回造る様にしてたんだよ。どうやらゴーレム馬って今迄無かったらしくて……目立たない為に魔法を使って厩舎を造って、別の意味で目立つというね……はい、結局目立つと言う結果になりました。
特にすることも無いのでぼーっと焚き火を眺めていたら、何故かケインが近づいてきた。
「なあレン、ちょっと付き合ってもらっていいか?」
「嫌です」
お前と話すことなんて何もねーよ。往路でも一言も話さなかったのに、一体なんのつもりだ。
「……いや、直ぐ済むから、少しだけでも駄目か?」
「駄目です」
「……」
お前の為に使う時間は存在しない。目障りだから早く消えてくれないかな? そう思って無視していたらトリエラとマリクルが話しかけてきた。
「すまん、レン。少しでいいからケインの話を聞いてやってくれないか?」
「私も一緒にいるから、少しだけ聞いてやってくれない? とは言っても私もあんまり気乗りしないんだけど」
二人が非常に申し訳なさそうに頼んできた。むーん、この二人が頼んでくるなら、少しは時間を使ってもいいかな……トリエラは不本意っぽいし、多分ケインの我侭とか得意の独善とかだろう。時間の無駄なんだけどなあ。
仕方ないので馬車の陰の方に移動し、ケインの話を聞く事にした。
「それで、なんですか?」
「そのな、俺、もっと頑張って金を貯める事にした」
……要は、私がトリエラに持たせて孤児院に色々と支援したのを見て、自分も、と思ったと言う事らしい。
私はトリエラ経由で毛布代わりの毛皮や湯たんぽ、食料を買う為のお金などを支援していた。そういった私からの物資を見て、自分もお金や冒険者稼業で得た物資を孤児院への支援に回せるんじゃないかと思ったらしい。
まあ……それはそうなんだろうけど、パーティーを組んでる以上、その稼いだお金ってケイン一人の意思でどうこうしていいものじゃないって分かると思うんだけど?
それにさあ……
「だから、頑張って金を稼いで、孤児院の為に色々しようって思ったんだ」
「はあ、そうですか。それで?」
「え? だから俺、これから頑張るから」
「はあ、だから?」
「え? だからって……その……」
いや、そんな話聞かされても、だから何? としか言いようがないんだけど。好きなように勝手にやればいいんじゃないの?
「えっと……頑張って金を貯めて、それで、最終的には孤児院の経営権を買取ろうかなって……」
「そうですか。まあ、好きにすればいいのでは?」
普通に考えても売る筈が無いと思うけどね。商人の方になんにも利益無いし。はっきりいって、経営権を買取れるだけのお金は私は既に持ってる。でも、お金を持ってても実際に買取れるのかは別の話。こういう所がケインは馬鹿なんだよなあ……まあ、私の場合は更に契約書とかも絡んでくるんだけど。
多分、お金は貯められるというか、貯めると思う。それもかなり早い時間で。でも、お金を貯める事と商人が経営権を売ることは別だって事に気づかない辺りが、ケインが駄目なところ。
後、そう言うことを態々私に先に言う辺りがもっと駄目。黙って貯めて、実際に買い取ってから言えばいいのにね。
「それで、頑張って孤児院を支援して、お金を貯めて経営権を買い取って、それで?」
「え? いや、それで……」
多分あれだ。頑張ったっていうところを見せて私に謝罪を受け入れさせたいって所なんだろうと思う。でも、そう言うの先に言うのってどうなの? 宣誓といえば聞こえはいいけど、ただの格好付けに見えるんだよね、ケインの場合。孤児院に居た頃もそうだったし。
態々これからやる事を先に言って、それを実行して成功して賞賛を浴びる、みたいな事を良くやっていた。それを知ってる身としては、ただ白けるだけだよ。
「いや、えっと……それだけなんだけど……」
「はぁ…………まあ、好きにすればいいんじゃないですか?」
大きく溜息一つ。多分頑張れって言って欲しかったんだろうけど、正直どうでもいい。
経営権の買取は実は私も考えていた。その場合は間に信用できる仲介人を挟まないといけないんだけど、その信用できる相手を見つけるのが問題だった。
次に考えていたのは、冒険者として活動してランクを上げ、信用を高めてから王都の詰め所に商人の事を報告する事。
オニールの詰め所では揉み消されるし、それは商人の本拠地でも同様だろう。だから王都で直接、と言う訳だ。
ただ、この方法は信用がないと難しい。普通なら一介の下位冒険者が何を言っても無下にあしらわれて終わるだけだ。だから、高位冒険者となって信用を得ないといけない。
最後に、権力者にコネを作る方法。実は今はこれを実行してる最中だったりする。
簡単に言うと、件の商人以上の権力者にコネを作って、優先的に商人を裁いてもらう訳だ。私の場合はベクターさんだ。
最初は唯のウザイ奴の仲間だった。でも、身分を隠して鍛冶依頼をして来た時に恩を売って利用できないかと考えて、色々恩を売る事にしたのだ。
一つ一つは小さい恩でも、幾つも重なれば無理も通せるかもしれない。魔剣作成の時も盾やマントをサービスしたし、フロストジャイアントの件でも恩を売れた筈。
このまま恩を着せていけば、それなりに近い内に商人の事を何とかしてもらえるんじゃないかと思ってたりするんだよね。
とは言え、向こうもこっちにコネを作ろうと思ってる節があって、フロストジャイアントの魔石を寄越してきた辺り、中々食えない相手だとも思ってたりするんだけど。
「その……それが言いたかっただけだから……」
「そうですか」
そう言うと、ケインは肩を落としてなんだか落ち込んだ様子で焚き火の方に歩いていった。
「レン、もうちょっと言い方があったんじゃないか?」
マリクルが眉をひそめてそんな事を言ってきたけど、そっちの事情なんて知らんがな。
「正直、どうでもいいです。孤児院に関しては私も色々考えてましたし、ケインもなにかしたいというなら好きにすればいいのでは?」
「何かって、何するつもりなの?」
トリエラも混ざって来た。何かって言われても……取り敢えずさっき考えてた事の要点を掻い摘んで説明する。
「レンも色々やってたんだ……そうなるとケインは空回って終わりそうだね」
「ケインに余計な事言わないで下さいね」
余計な事して邪魔されたり、一緒に頑張ろうとか言われても困るので、釘を刺しておく。
「一緒にやった方がいいんじゃないのか?」
「一緒にやりたくないから言ってるんです。そんなことになったら直ぐに調子に乗りますよ」
「……」
ケインと一緒とか、普通に嫌。そう言うとマリクルは黙った。奴の過去の行動を振り返れば私の言ってる事に反論は出来ない。
「まあ、やりたいというなら好きにやらせておけばいいと思いますよ。でも、パーティー資産の遣り繰りもありますから、その辺りは厳しくしておいた方がいいんじゃないでしょうか? ケインがやりたいと言うのならケインの個人資産からやらせるとか、話し合った方がいいと思います」
その辺りきっちりしておかないと、あの馬鹿は間違いなくパーティー資産に手をつけると思うよ? 私がそう言うと二人は難しい顔をして黙り込む事になった。さもありなん。
ちなみに二人も個人資産から孤児院の支援にお金を出すつもりで居たらしい。あ、そう言えば前にトリエラも孤児院に仕送りしたいって言ってたっけ。
と言う事は前々からこの二人はその辺りの事を色々考えていたと言う訳で、そこにしたり顔でケインが混ざってきた、と言う感じだったりするんだろう、多分。
その後は晩御飯を済ませて就寝。翌日もさくさくと進んで行った。早く王都に帰って鍛冶修行の続きやらないとね。







































