115 実はちゃんと戦うのは初めてな気がする今日この頃
ノルンの背に掴まりながら【鷹の目】を使い、視力を強化。遠くに見えた城壁周辺が良く見える。
今、向っている東側の城門は閉じられており、その周辺には少数の兵士と思しき人達が見える……トリエラ達から聞いた話によると襲われてるのは北側、向って右の方だったか。
ノルンに指示を出して進行方向を変更し、北門側を目指す。ノルンの移動速度ならあと十分もしないうちに着く筈だ。今の内に変装をしておこう。
数日前に試していた【偽装】スキルを使用しての染髪、及び瞳の色の変更を行う。髪は銀髪に。瞳の色も同様に銀色に変えた。
次に、ノルンとベルの毛並みの色も変更する。
ノルン達は二匹とも真っ黒い毛並みに変えた。黒系の毛並みの狼型魔獣となると、凶悪極まりない『黒魔狼』とか、嘗てどこぞの国を滅ぼしたとか言う『魔狼王』とかが有名だ。
それに比べてフェンリルは銀系の毛並みなので偽装には持って来いだろう……間違われて攻撃される可能性もあるんだけど。
とは言え変装の為とは言えそんな悪の化身みたいな色に変更してしまう事は非常に申し訳ない。ちょっとの間だけだから我慢してね?
と、そんな事を考えてたんだけど、何故かノルン達はご機嫌の様子。何で? ……私が銀で、ノルン達が黒。いつもの私達と逆の色と言う事で、嬉しいらしい。
んー、気にしてないなら別にいいんだけど、こんなちょっとした事でそんなに嬉しいのか……愛い奴よのう。
ノルンに乗ったまま移動する事、数分。北門が見えてきた。
既に戦闘中の様だ、大量の魔獣と、それらを相手にする冒険者や騎士っぽい人達も大勢居る。
進行方向上で白い狼型の魔獣数体と戦う冒険者らしき人が数人。完全に囲まれてしまっており、劣勢のようだ。取り敢えず助けておこうか。
土魔法で錘状の石礫を複数生み出し、周辺中空に浮かせる。そして、射出。
この空中待機や撃ち出しは【操剣魔法】で行っている。【操剣魔法】と言っても剣しか扱えない訳ではなく、色々と応用が利くのだ。元々最初は【創造魔法】で色々な現象を併用して石を撃ち出していたものがスキルになったのだから、普通に考えればそれが出来なくなると言うのもおかしな話。なのでこれは何もおかしな事では無い。
ちゃんと自由時間中に色々検証しておいたからね!
いや、【操剣魔法】覚えたのはいいけど時間が無くて中々調べられなくてね……いいタイミングで時間が取れて助かった。
空中待機やオプションの様に追従させるのは魔法による念動力っぽい現象みたい? ちなみにこの能力は『バレット』と命名した。銃弾って意味と召使とか従者って意味の2つをかけてたりする。剣を追従させる場合は『ソードバレット』? うーん、中二心が疼く……。
他にも元々のエアバレルでは弾道安定の為に別途風魔法で銃身を拵えたりして色々やって運用していたんだけど、【操剣魔法】では風魔法による弾道安定をしなくてもあらぬ方向に飛んで行ったりはしなくなった。寧ろ若干ホーミングして命中する。
ついでに元々のエアバレルも普通に使える。というか、前までは【操剣魔法】を複数並行使用して面倒臭い同時処理をしながら撃っていたのが、そういう負担が無くなってサクッと撃てるようになって利便性が増した。更に高速回転させた時に弾丸が空気との摩擦で削れたりしないように魔力で保護させるようになったっぽい。こちらの旧エアバレルを強化した能力の方は今まで通り『エアバレル』と呼んでいる。
ちなみに石礫を使ってるのは目立たない為。剣なんて飛ばせば悪目立ちする。とは言え私は他の攻撃手段がないし、攻撃魔法も使えない。
でもこうして石礫を飛ばして攻撃するのであれば、傍からは土系の『矢』魔法にしか見えない。
とは言えただの石を飛ばしても攻撃力に不安がある。だから石礫の形は錘状にし、更に回転させる事で弾速と威力を上げてみた。
……まあ、いざとなれば炸裂弾位は使うつもりだけど。
高速で撃ち出された全ての石礫は狼型魔獣の頭部に命中し、爆砕させた。狙撃スキルはLV7、この程度の相手なら百発百中だ。
いきなり目の前で魔獣の頭部が弾けた冒険者達は戸惑っている様だったけど、私の方に気づくと俄かに騒ぎ始めた。
「でかい!? しかも黒い狼の魔獣だと!?」
「まさか、黒魔狼?」
「畜生、あんなのまで居るのかよ……」
……予想通り、敵の増援と勘違いされたらしい。とは言えこれは想定内。ノルンの移動速度を落とさせて、ゆっくりと近づいていく。
「……待て、誰か乗ってる?」
「まさかとは思うが、味方か……?」
漸く私に気付いた様で、一応警戒のレベルが下がったみたいだ。
「無事ですか?」
「ああ、なんとかな……あんたは味方か?」
「一応そのつもりです。知り合いに頼まれまして」
「そうか、助かった……しかし、コイツはスゲェな。こんな魔獣を従えてるとなると、アンタ相当上位ランクだろ?」
「えー、まあ……」
「なあアンタ、知り合いに頼まれたって言ってたが、一体誰に頼まれたんだ? この後も手を貸してくれるのか?」
「えっと……」
あー、どうするかな……んー、今のやり取りで上位冒険者と勘違いされてるみたいだし、トリエラ達、と言うのはちょっと無理があるか……よし、ベクターさんに頼まれたって事にしよう。あの人も偽装スキルを使ってるんだから、私が同じ様に変装してる事に気づく筈。後は色々察して口裏を合わせてくれると信じよう。
「ベクターさんに頼まれました」
「ベクター!? 『赤髪』か! あの野郎、まさかこんな強力な保険まで掛けてたとは!」
んー、何とかベクターさんとだけ接触できればいいんだけど、大丈夫かな……無理だろうなあ。不安だ。
「今、どんな状況か教えて貰っても?」
「おお、悪い。今は……」
話を聞いた所によると、状況は思ったより悪いみたいだ。まず、魔物側のボスと思われる魔獣はホワイトファング。大型の狼型魔獣で氷属性の、かなり強い魔獣だ。どの位強いかと言うと、歳を重ねた場合は冬の主になっていてもおかしくない位には強い。
最初、そいつが大量のアイスウルフを引き連れてやってきたらしい。アイスウルフは同じく氷属性の狼型魔獣。本来はそこまで強い魔獣ではないけど、冬場に戦うとなると1~2段階は手強くなる。それが統率されてるとなると更にヤバイ。
連携して襲ってくる狼の集団に梃子摺ってた所に、時間差で別の魔獣化した獣が現れたらしい。主に猪や鹿。
当然氷属性の魔力で魔獣化しているので、こいつらも手強い。氷属性になってるのは恐らくフロストサラマンダーの影響だろう、と言う話だ。
更に困った事に、連携してくる狼達に加え突進による突破力がある相手が増えた所に、更に時間差で今度は熊型の魔獣もおかわり。高火力も追加され、何とか互角に戦えていた所が徐々に押され始めたらしい。
重傷者や死傷者はまだ出ていないけれど怪我人は多いらしく、治療に下がっては入れ替わり立ち替わりで何とかぎりぎりで戦線を維持してる状況との事だった。
私が助けたこの二人は、北以外の門に向っていった魔獣を抑える為に防衛線から離れていたみたいだ。
「冬の主討伐に出てる戦力が戻ってくれば何とかなるとは思うが、このままだとその為の時間稼ぎすら出来るかどうか怪しい……だが、アンタの従魔が居れば何とかなるかもしれん! 頼めるか?」
「善処します」
一応その為に来たからね、何とかするつもりでは居る。時間稼ぎくらいなら、何とか?
ノルンに跨ったまま前線に移動しようとした所、助けた冒険者達も一緒に来るとの事だった。さっきの自分達の様に敵と間違われないように、と言う配慮らしい。
ありがたいけど、移動速度が落ちるのが悩ましい。とは言え面倒な事にならないで済むなら断然そっちの方がいい。
冒険者達の走る速度にあわせて前線に向かって移動。途中襲ってきた魔獣は全て石礫で撃破。倒した魔獣は一応全て収納してたりする。
いや、場合によっては私は途中で逃げる可能性もあるし、そもそも防衛成功しても最後まで残るつもりは無い。とは言え戦闘に参加した以上は何かしら収入も欲しい。そんな訳で自分で倒したものに限り、死体を回収してたりするのだ。とは言え【ストレージ】の回収可能距離の問題も有るので、その内漏れは出ると思うけど。
と、そんな事をしてるうちに防衛線が見えてきた。木材等で作った簡易の障害物も散見する……とは言え、大分押し込まれてる様子。一先ず加速してこのまま突っ込む事にした。
「先に行きます」
「頼む!」
このまま押し込まれていくと不味い事になりそうなので、何とか魔物の群れを逆に押し返すか、下がらせるかしたい所。取り敢えず突っ込んで大暴れして怯ませてみようか。
まずは押されてるっぽい所から。石礫を連射して大暴れしてる熊達の頭部を狙撃、爆砕させる。次に突破力のある猪と鹿。
戦場を東から西へ真っ直ぐ真横に駆け抜けながら只管撃ちまくる。当然ノルンとベルも大人しくはしていない。
私を乗せているノルンは飛び掛ったりは出来ないので、雷魔法を使いピンポイントで魔獣を吹っ飛ばしていく。密集地帯で風魔法を使うと冒険者も真っ二つになりかねないので一応配慮してくれてるらしい。
逆にベルは大暴れ。次々に飛び掛っては喉を食いちぎるわ風魔法で首を刎ね飛ばすわ……この子、何時の間にこんなに強くなってたの?
ノルン達の無双っぷりにちょっと引くものを感じつつ、実は私、かなりびびってたりする。
ノルンに騎乗してるから安全とは分かっていても、直ぐ側まで飛び掛ってこられたりすると流石に怖いんだよ。ノルンが回避してくれるから大丈夫だけど……大体、今までの戦闘らしい戦闘って全部遠距離からの狙撃しかしてないし、多少近くに敵が居た場合でもノルンかベルのどちらかが護衛してくれてたからね。
それが今回は大量の敵の中に突っ込んでる訳で……幾ら【精神耐性】スキルが有っても怖いものは怖い。
鉄火場に慣れるには後どれだけこんな事を繰り返さないといけないのかと考えると、割とへこむものがある。
……そんな事を考えていると、後ろの方で私が助けた冒険者が大声を上げているのが聞こえる。どうやら私は味方だと言ってるみたいだ。
そのまま真っ直ぐに戦場を突っ切り、後ろを振り返ると魔獣側が若干下がり始めてるように見える。一旦下がって立て直しかな? とは言え切り替える事にまだ迷ってるようにも見える。
防衛側も立て直しした方がいいだろうから、もう一度真ん中を駆け抜けて魔獣側と防衛側を完全に切り離す事にした。
さっきと同じ様に駆け抜けながら熊を優先的に狙いつつ、真っ直ぐに戦場を突っ切る。再び振り返って見てみると、どうやら魔獣側と防衛側の切り離しには成功した様子だ。
さて、最初に吶喊を開始した地点に戻ってきた訳だけど、私はここでノルンから降りて待機。とは言ってもここから遠距離狙撃で雑魚を狙い撃つ。その代わりにノルンとベルには再び魔獣の群れに突っ込んで大暴れしてもらいつつ、ボスのホワイトファングを倒してもらう。
ノルン達と離れて大丈夫なのかって? 大丈夫大丈夫、そこは結界魔法を使って何とか凌ぐから! まあ、レベル4だからそれなりに何とかなると思うんだけど……そこは近づかれないように狙撃で対処。
元々この防衛戦の勝利条件は討伐戦力が戻って来るまでの時間稼ぎだから、それまでなら何とかなる筈。
ノルン達と別れて固定砲台を始めてから三十分程すると、後ろの方からトリエラ達が走って来た。
「はぁっ、はっ! レン、大丈夫!?」
「大丈夫です」
全員ぜえぜえと息を切らせてて、どうやらここ迄ずっと走ってきたみたいだ。会話をするのも侭ならないので一先ず先に息を整えさせる。
「ふう…………それで、どうなったの?」
「取り敢えず大暴れして敵を下がらせました。その後こっち側も少し下がって戦力を整えなおしたようです。その後は割といい勝負になってると思います」
遠目に見た感じだと、時折ノルンが広域攻撃魔法を使って纏めて魔物を吹き飛ばしたりしている。そのお陰か思ったよりも善戦してると思う。とは言え、実は魔獣側は後から後から増えてるので、収支としては余り減らせてない。
私も休まずに狙撃してはいるんだけど、正直焼け石に水の様な気がする。早い所ノルンがホワイトファングを倒してくれるといいんだけど……ここから見てる感じでは、取り巻きが多すぎて中々近づけないみたいだ。
何か打開策は無いかな? 思い切って
炸裂弾でも撃ち込む?
段々面倒になってきて少し物騒な事を考え始めた頃、さっき助けた冒険者が数人近づいてきた。
「おお、こっちは大丈夫そうだな……アンタの従魔はすげえな、お陰で助かった!」
「そうですか」
戦場の状況を聞いてみると、一先ずは優勢と言う事らしい。とは言え完全に押し返すにも、怪我人が多くて中々難しいとの事。んー……
「分かりました、これを持っていってください」
だらだらと持久戦をするよりも一気に押し返した方が楽だろう。と言う訳で【ストレージ】に大量に入ってる回復ポーションを取り出し、適当な皮袋に詰めて渡す事にした。取り敢えず300本もあれば足りるかな?
「これは、ポーションか? しかもこんなに大量に!? いいのか!?」
「状況が状況ですから」
とは言っても作成の手間を除けば元手はほぼゼロ。減った分はまた作ればいいし、材料の薬草もまた採取すればいい。そもそも、【ストレージ】内の在庫を考えると今渡した位の量では減った内に入らないので何も問題はない。
「全て中級ですが、足りますか?」
「中級!? マジか! 足りるなんてもんじゃねえ、これだけあれば一気に押し返せるかもしれねえ!」
ほほう。なら早く戻って何とかしてくださいな? こう言う状況に慣れてない所為で精神的な疲労がつらい。早く帰りたい。
冒険者達が走って戻っていく姿を眺めつつも、狙撃の手は休めない。一応私の周囲ではトリエラ達が警戒してくれてるけど、トリエラ達が戦わないといけないような距離までは近寄らせるつもりはないし、そもそもみんなも結界内に入ってるので危険はない。多分。
「レン、あんなに沢山いいの?」
「大丈夫、まだまだあります」
トリエラがまだあるんだ、とか呟いたり、リコとアルルが私の狙撃を真剣に見てたり、クロが周囲を警戒したりしてると、怪我人の回復と陣形の再編成が終わったのか防衛戦力の皆さんが一気に攻め始めた。
【鷹の目】で観察してみると、どうやら一点突破でホワイトファングに攻撃を仕掛けようとしてるっぽい。
狙撃で援護しつつそのまま様子を窺ってると、ノルンとベルが大きく飛び上がったのが見えた。多分、ホワイトファングに襲い掛かったんだろう。
すると、それから間もなく歓声が上がった。どうやらノルンがホワイトファングの首を刎ねたらしい。こっちにまでそんな声が聞こえてくる。
魔獣側のボスさえ倒してしまえば後は楽なもので、一気に掃討戦の様相になった。統率が取れてなければこんなものだろう。
一番やばそうな熊は私が優先的に狙撃していたので、よほどの事がない限りはこのまま勝てるんじゃないかな。
時間稼ぎどころか倒してしまったけど、別に構わないよね?
そんな戦勝ムードが漂い始めた時、何やら北門のあたりで騒ぐ兵士の人達が数人現れた。何かの伝令? その人達の話を聞いた冒険者や他の兵士達が困惑している様子が伝わってくる……何か問題でも起きた? どうしよう、聞きにいこうか……むーん。
あちらの方まで話を聞きに行こうか迷ってると、さっき助けた冒険者の人が凄い勢いで走って来て、教えてくれた。
……どうやら、街に向ってきた魔獣達のボスはホワイトファングではなかったらしい。昏倒していた伝令が目を覚まし、正確な情報を伝えたのだそうだ。連中の本当のボスは、そいつはホワイトファングどころか……
その時、遠くから地響きが聞こえ始めた。遠く、とは言ってもそんなに離れた距離ではなさそうだ。
その地響きは一定のリズムで響いて来る……まるで、人が歩いているかのようなテンポで。そんな音が聞こえてくる方角には、森がある。良く目を凝らしてその森を見てみると、一本だけ大きな木が見えた。
その木は、徐々にこちらに近づいてる様にも見える……いや、間違いなく近づいてきている。
あれは、木じゃない。あれは……
「……巨人」
周辺の木々を薙ぎ倒しながら現れたそれは、私の何倍も大きな体躯の巨人だった。
戦闘描写とか無理







































