112 幾つになっても不審者は不審者
と言う訳でやってまいりました、森の奥。
結構奥まで来てるから平気だと思うけど、魔物を警戒しつつ周囲をきょろきょろ確認。うん、外からは完全に見えないね! 安心安心。
と言う訳で自宅を出す為にまずは整地。一帯の雪を収納し、邪魔な木も何本も収納して回る。いつもなら薬草とか生えてればそれも一緒に収納する所だけど、今の季節だとそんな事はほぼ無い。
次に土魔法を使って一帯を平らに均し、自宅を取り出して設置。最後に魔物除けを大量に撒いて作業完了。
んー、こう、魔物除けを自動で振りまく灯篭みたいな感じの置物でも作ろうかな? 補充すれば使いまわせるような奴。今回みたいな場合は等間隔で設置すれば色々楽な気がする……ああ、ついでに結界魔法も付与すればもっと安全になるかも? ふむう、後で作ってみよう。
っと、考え込んでないで早く家に入ろう。全属性装備の私は兎も角、ノルン達は寒いだろうし。え? 寒さに強い種族だから別に平気? ああ、そうなんだ……
結局ノルン達は屋内には入らず、庭スペースで寝る事にした模様。ご飯は自分達で獲って来るとの事なのでいらないらしい……折角の機会だし、カレーを出そうと思ってたんだけど、要らないんだ? へー?
カレーの事を言い出す前に二匹揃って駆けて行ってしまったので伝えそびれてしまい、なんだか非常にバツが悪い。かと言って私一人で食べるのも気が引けるので今晩は適当に別の物を食べる事にしよう……
流石に長距離移動で疲れてるので、食事の後は日課もしないで今日は早めに就寝。今日の分は明日に纏めてがっつりやればいいんじゃないかな! ふへへ!
そんな訳で翌日。別段やる事も無いので早速昨日思いついた灯篭でも作ってみる事にした。そして午前中で完成。
うーん、色々とスキルレベルが上がった恩恵なんだろうけど、もっとこう、研究とか実験っぽくそれなりに時間をかけてさあ……? いや、便利だからいいんだけど、いいんだけど! でもなんか釈然としないものがある!
さて完成したこの灯篭、安易に『結界塔』と命名してみた。
単体だと周囲半径3m程の結界を展開しつつ、一定時間毎に魔物避けを霧状にして振りまく。元々が灯篭なので当然灯りも灯せる。
また、三つ以上の複数設置をした場合、同期する事で『結界塔』で囲ってる内部も結界によって守られるようになる。ついでに結界の強度も高くなる。
ついでに小型化出来ないかどうか色々やってみたけど、【結界魔法】自体がレアスキルな所為か、盾サイズよりも小さくは出来なかった。装飾品……たとえば腕輪とかにできれば常に身に付けて目立たないで携帯できる様になるから、色々と便利だったんだけど。
午後は早速完成した『結界塔』を設置して回り、そのついでに周辺の探索。ちなみにこの灯篭は自宅の石垣の四隅にも設置した。結界が二重になって強度もさらにドン! 安全第一!
二年前にもこの森には何度かこっそりと食べ物を採取に来たことがあったけど、ここ迄奥深く潜った事はなかった。街に居た冒険者もゴブリンやはぐれオークの討伐がメインで、採取をしてるような低ランク冒険者も森の奥までは行かない、とか言ってた気がする。
なんでそんな話聞いてたのかって? そりゃあ、孤児の行く先なんて冒険者ぐらいしか無いんだから、情報を集めておいて当然でしょ?
先に孤児院を出て行った年上の孤児達も自分が集めた情報を教えてくれたりしてたので、その辺りの冒険者事情に関しては色々と聞き及んでいたのだよ?
ちなみに孤児院にいるうちに冒険者登録をして薬草採取で小銭を稼ぎ、12~14歳位になったら街をでて王都を目指すのが定番コース。
私も10歳になったら冒険者登録して、お金を貯めて孤児院を出るつもりだったんだけど、10歳になった時に【鑑定】を覚えてしまったのが運の尽き。あれよあれよと身売りコースに乗ってしまった訳だ。
いや、身売りとは言ったけど、実際には雇用契約を結んで奉公に出ると言う建前は一応あるんだよ。孤児院の出資者でもある例のカエル顔の商人の所で働いて恩返し、と言うね?
実際はその雇用期間の間に契約魔術や隷属魔術を強制されて奴隷の様に扱われるようになる、と言う話を私は支店の従業員や丁稚の会話から盗み聞いていたので、人生終わった! と絶望しちゃってたんだけど……まあ、それが今じゃあこんな状態になってたりして、人生何が起きるかわからないものだね、本当に。
ちなみに雇用契約の話をされた時に契約書も書かされているので、私は商人に見つかるとその時点でアウト。契約書自体はなんら問題がない正式なものなので、生存が判明するとその時点から労働の義務が発生してしまうのだ。
ただね、契約書の文面が就労開始は『商人の下に着いた翌日から』になってて、それはまあいいんだけど……就労期間については『いつからいつまで何年働く』って内容じゃなくて、ただ『働く』ってだけ、書いてあったんだよ……。1日の労働時間についてすらなにも書いてないってさあ……つまり無給で寝る間も惜しんで文字通り奴隷のごとく働かされるって事だよ? だけど恐ろしい事にそれでも効果があるというね……。
前世の記憶が戻った後にその事に気づいてね? もう、本気で嫌になっちゃう。
そんな訳なので私は例の商人に見つかる訳にはいかないのだ。そして死んだと思われてる今の内に色々力をつけて、国外逃亡するなり契約書を何とかするなりしないといけない、という訳ね。私が今まで追っ手を気にしたり問題の商人に近寄らないように気をつけてたのはそう言う理由からだったりする。
この約2年の間である程度戦う力を身に付けはしたけど、物理的に排除とかするとこっちが犯罪者になってしまうので、それは最後の手段。
常日頃からいざとなれば逃げればいいなんて考えてるけど、逃げるにしても程度はある。犯罪者になっていきなり国外逃亡は、流石に敷居が高い。
閑話休題。
鬱になりそうな商人関連の事を思い出してしまい、微妙な気分になりながらも周辺探索を続ける。当然ノルンとベルも一緒で、時折駆け出しては獲物を銜えて戻ってくる。
時折変な視線の様なものを感じた気がしたりするけど、そう言う時にもノルン達が走って行って獲物を獲って来るので、野生動物とかの類が警戒してる気配か何かっぽい?
順調に探索を進めていると、なにやら人の気配が近づいてくる……大分前から【探知】には引っかかってたんだけど、どうやらあちらもこっちに気付いた、って所かな? 狩人か何かで、獲物の競合を防ぐ為に話に来た、って所?
立ち止まって暫く待っていると、茂みががざがざと揺れて大柄な人物がのっそりと姿を現した。
外套に身を包んでるので格好は良く分からないけど、でかい。2mは無いにしても180cm以上は確実にある。そして手には布が巻かれた長い棒。長さ的に長槍か何か? 【鑑定】は……駄目だ、抵抗された。
続けて【解析】を使おうとした所で相手が一歩前に出た。私が警戒して一歩下がるとノルンとベルが私の前に出て、唸り声を上げながら威嚇し始める。
「おっと、こう見えても怪しいものじゃあない。そう警戒しないでくれ」
体格的に男性だとは思ってたけど、何処と無くしわがれた風な声? 結構な高齢の人? 警戒を解かずに身構えていると、相手はフードを上げて顔を晒した。
頭髪は真っ白で長く、後ろに撫で付けている。完全に白髪になってるので年齢的には60~70位? いや、鋭い顔つきを見るにもう少し若そうにも見える気がする……若作り? いや、ジジイだけど。顎鬚も生えていて、胸元まで伸びてる。
外套から垣間見えた格好は黒い甲冑。装飾も凝ってるし、なんだか魔力も帯びてる様子。背筋はぴんと伸びてて姿勢もいいし、腕や足にもしっかり筋肉が付いてるっぽい。
「そうだな……俺はこう見えても猟師だ。だから安心してくれ」
……猟師? お前の様な猟師が居るか! 一言で例えるなら『歴戦の勇士』でしょ!? いや、だってこんな只者じゃない気配纏ったジジイの猟師が居てたまるか! って感じだよ!? あれ、私もしかして色々ピンチ?
「今日の食料を狩ろうとここに入ったんだが、さっぱりでな……すまんが、なにか食うものを分けてくれないか?」
ノルンと連携して何とか逃げられないか算段を立てていると、またも胡散臭い事を言い出した。いやいや、猟師なんでしょ? なんで坊主なのよ?
「……冬の主討伐の参加者の方ですか?」
「いや、猟師だ」
「……」
「……」
「……」
「猟師だ」
いや、なんかもう……こういう手合いはまともに相手するのが馬鹿らしくなってくるんだけど……?
こういう人はどれだけ問い詰めても本当の事は言わないだろうからなあ……何となくだけどこっちを見る視線には含むものはなさそうだし、一先ずは信用する?
ノルンとベルも居るし、最悪の場合は出し惜しみ無しで全力で抵抗すれば逃げる位は出来る筈。
「……はあ、分かりました。猟師ですね? いい歳して碌に獲物も取れない腕の悪い猟師」
「うむ、腕の悪い猟師だ。だから何か食うものを分けてくれ。そうだな、何か珍しくて美味い物がいいな!」
図々しいジジイだね、この爺さん。
「分かりました、じゃああっちに家があるので付いて来てください」
この様子だと多分私の自宅の事も知ってそうだし、無駄な抵抗はやめておこう。とは言え家の中に入れるつもりは無い。
自宅に着くと爺さんを外に待たせて私一人で中に入り、そこで【ストレージ】から適当に幾つかの料理を取り出して準備。珍しいものって言ってたので、取り敢えず親子丼と味噌汁とおしんこ。デザートにフルーツゼリーもつける。
あそこまで怪しいのも逆に清清しいので、こっちも恩を着せて行く方向だ。それで駄目なら後は雨霰と魔剣を打ち込むだけだ。
「用意できましたよ」
「おお! ありがたい!」
庭にテーブルと椅子を出してそこで食事。折角なので私も一緒に食べる。フードは上げないけどね。
「おおお、これは美味いな!」
そーだろー、そーだろー。でも爺さん、いいから黙って食え。
結局爺さんは三回もお代わりした。一体何処にそんなに入るの? そして食後に暖かい麦茶も振る舞い、一服。
「いやあ、実に美味いものを食わせてもらった、感謝する! そうだな、お礼にこれをやろう」
そう言い、なにやら布に包まれた物体を取り出す爺さん。これ、何?
「これはな、竜の翼膜だ。昔々、俺がぶっ殺した奴だな」
えっ。
「出来れば鱗もくれてやりたいが、今は手持ちが無くてな……これで勘弁してくれ」
は? 竜? ぶっ殺した? え、この爺さん、ドラゴンスレイヤー? えええ!?
「見たところ、お嬢さんの外套はミスリルメッシュだろう? それだけでも相当に珍しいが、こいつも一緒に使えばもっと防御力が上がるだろう。あとは胸当てなんかにもいいんじゃないか?」
「え、こんな、貰えません! たかが一度のご飯でこんな!?」
いやいやいや、馬鹿じゃないの? このジジイ、本気で馬鹿じゃないの!? ご飯のお礼に竜の素材って……頭おかしいんじゃないの!?
「くくく、いいから貰っておけ。すぐとは言わなくとも何かしらの役には立つだろうよ……さて、腹も膨れたしぼちぼちお暇しようか。縁があればまた会う事も有るだろうさ、鱗はその時にでも持ってこよう。ではな」
言うだけ言うと爺さんは足早に去っていった……そしてテーブルの上に残された布包みが一つ。
えええええ、なんなのあの爺さん!? 一体どういう事なの!? 意味分かんないんだけど! って言うか、縁があったらまた会うの? つーか討伐参加者じゃないって言ってたけど、参加しろよ! 竜殺しなら参加しろよ!? 亜竜退治にマジモノのドラゴンスレイヤーが参加しないでどーすんのよ!?
謎の怪しい爺さんとの遭遇に混乱し、あまりにもイライラしたので、その日は早目に不貞寝することにした。
いや、マジで意味分かんないから!







































