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108 はぢめての鍛冶依頼


 はーい、翌日ですよー。早速剣作成ですよー。わー、かったるーい。


 え? いやいや、ちゃんとやるよ? 孤児院のみんなの命が懸かってるし、お金貰って受ける初めての鍛冶依頼だし? やりたくないけど。

 ……はあ、愚痴っても仕方ないし、さっさとやっちゃおう。とはいえ、いきなりぶっつけ本番っていうのもちょっと問題があるかな? それならまずはスキルレベルを上げようか。

 という事で、青空教室を始めた少し前辺りから作り溜めしてた素材剣320本を一気に魔剣化して経験稼ぎといきますか。

 ポーション片手にどんどん魔剣化していく。MPが切れたらポーション! ぐびー! げふぅー!

 …うん、丸々三日もかかったけど、お陰で魔剣作成や付与スキル他、ついでに属性魔法スキル諸々がレベルアップ。よし、これで一応下準備はおーけー。



 さて、今回作る魔剣には武器固有の特殊な必殺技を付けようと思います。


 一応は既に剣の形状や基本的なスキル構成なんかは概ね決まってる。相手もわかってるのである意味特化型の構成なんだけどね。とはいえ、もう一押し欲しい。

 いやね、色々と考えて後詰めも兼ねて私もこっそり討伐に参戦するのも手かな、とは思ってみたりもするわけですよ? ノルンに乗って遠距離から超長距離狙撃とかね? でも相手の強さを考えると弾は全属性とはいわないにしても、高レベルの火属性剣とか使わないといけないでしょ? でもそれを回収する方法がないんだよね。

 証拠隠滅の方法が無い以上は身バレの危険性がすこぶる高くなるので、私が行っても意味がない。【ストレージ】で回収? あれの回収可能距離は視認可能な状態で大体50m位までだから、超長距離射撃した場合だと回収はちょっと無理。

 装備品や所持品の類であれば200m位までは可能だったけど、その場合も視認してないと無理。という訳で遠距離支援攻撃は不可能。

 そもそも騎士団も出るという話だから、私みたいなのが周囲をふらついてたら怒られる。スキルで隠れて行動しても騎士団側にもスキル持ちの斥候とか居るだろうし、普通に見つかりそう。

 直接参加するのも無理。まず、まともな近接戦闘能力が無い。そもそも私はまだEランクだし、それ以前に討伐依頼の年齢制限に引っかかる。

 以上の理由により、直接間接問わずに私自身が行っても何も出来ない。そうなると依頼品の強化をするしかない。

 で、属性諸々をつけた上で更なる強化となると、後は武器固有スキルをつける位しかない、と。


 武器固有スキル、正確には【ウェポンスキル】と呼ばれる特殊な付与スキル。これは武器固有の特殊な能力や必殺技なんかが使えるようになるスキルで、伝説の聖剣だの有名な魔剣だのにたまに付いてたりする強力なスキルだったりする。武器の性能が微妙でも有用な【ウェポンスキル】が付いてる場合も有ったりする。

 当然そんなスキル付与は初めてなので、最初は【創造魔法】でごり押し。何となくでも感覚が掴めたら後は【魔剣作成】との併用で何とかなる筈? ……なるといいなあ。

 今回の相手は氷属性なので刀身から火柱が出るような感じのスキルが欲しい。という訳で早速適当な剣で試作………………んー、一応は出来た。出来たけど、火力がしょぼそう?

 そこからは色々変えてみたり試してみたりしながら実験を続ける。


 んー……なんか思うように高火力の攻撃系スキルが付かない。スキルレベルが足りないのだろうか……?


 何度か試してみたけど、現状の私のスキルレベルだと素材剣の属性が火のみの単一属性じゃ無理っぽい感じか……となると、複数属性にするしかない? んー、ちょっとスキル構成を弄るかな……。

 うーん、火属性だけじゃなくて風属性との複合にして、風で煽って火力を底上げする、というイメージが無難な所かな……火属性をLV6位でつけて、風をLV3位? おまけで光辺りをLV1位で……で、【ウェポンスキル】を付けて? いや、これでもかなり自重してるからね? 属性付与、今ならLV8まで付けられるからね?

 とはいえここまでやっても何となく不安が残るので【攻撃強化】、素材がアダマンタイトで重いので【重量軽減】、ついでに【耐久強化】も付けておこうか。この三つは全部LV3位で……いや、耐久強化はLV5にしておこう。戦闘中に壊れるのは怖い。


 剣への付与の構成はこんな所かな? 次は盾の構成か……んー。


 こっちはそんなに難しく考えないで【無属性LV5】【防御強化LV3】【耐久強化LV3】【重量軽減LV3】位でいいかな。

 むむむ、自重を放り投げたい……全部、今の限界レベルまで付与したい……いや、自重、自重。自重を捨ててはいけない。


 さて、構成は決まったし、スキル付与の練習も終わった。お次は新素材の扱いの練習。

 報酬分のアダマンタイトも前渡で受け取ってるので、そっちを使って練習する事にする。

 取り敢えず片手剣から……あー、なんと言うか、確かに変な癖がある。妙に硬い? 粘りがない訳じゃないけど、なんというか……うん、兎に角、慣れるまで頑張ろう。

 完成したら鋳潰して、また打ち直して、と繰り返し。途中で報酬の鋼材の残りを追加してバスタードソードや両手剣、槍の穂先や斧も作って色々練習してみる。


 んー、硬さに癖があるけど、慣れてくると意外と扱いやすい気もするなぁ……?


 さて、アダマンタイトの扱いも概ね分かったので、とうとう実際の作成に取り掛かろうと思います。練習だけで三日も掛かったのでここからは巻きで。おりゃあ。


 とまあそんな感じで出来上がったのがこちらになります。



『無銘の魔剣』

アダマンタイト製・剛剣・魔剣

【火属性LV6】【風属性LV3】【光属性LV1】【攻撃強化LV3】【耐久強化LV5】【重量軽減LV3】【ウェポンスキル:火焔竜】


『レックレス』

アダマンタイト製の魔法の盾

【無属性LV5】【結界魔法LV3】【防御強化LV3】【耐久強化LV5】【重量軽減LV3】


『隠蔽のマント』

【隠蔽LV3】【偽装LV3】【隠身LV5】



 うーん……色々自重したつもりなんだけど、ちょっとやりすぎた感が否めない気がする。とはいえ、この位やっておかないと不安が残るのも事実なので、非常に悩ましい。ちなみに作成には丸二日掛かりました。

 剣はいい名前が思いつかなかったので特に命名していない。というか前世の頃からネーミングセンスに自信がないので……。

 剣自体は運が良いのか悪いのか、うっかり剛剣なんて出来上がってしまった。

 ウェポンスキルは火を竜巻で煽って火力を上げる感じと言う事でこんな名前にしてみた。本来は範囲攻撃スキルなんだけど、今回は剣をぶっ刺して体内から焼き殺してやんよ! って感じで使う。

 ちなみに【ウェポンスキル】は剣に込められた魔力か、使い手のHPかMPを使って行使する。

 スキルの強さにもよるけど、【火焔竜】の場合は一発使うと剣の魔力がほぼ空になる。回復には1ヵ月以上掛かる位に燃費が悪い。使い手のMP消費で使ったとした場合だとその場で昏倒する可能性もある。

 一発で仕留められればいいけど、そうならなかった場合はほぼ間違いなく死ぬ事になるので、ちょっとギミックを仕込んでみた。

 鍔の裏側辺りに350ml缶位のサイズの円筒状の物体が二つ取り付けられてたりする。これは魔力電池みたいなもので、この電池に込めた魔力を消費することでスキル行使が可能になる。

 この電池もどき一つでスキルが1回使える。つまり、電池2個、剣の魔力、使い手のMPと最大で四連発出来る。4回も使えれば流石に倒せると思いたい。

 ちなみに電池に込める魔力も満タンにするのに1ヵ月以上は掛かるので、乱発するのはお勧めしない。というかそもそもの話、火力がかなりやばい事になってるので使うにしてもかなり状況を選ぶ。

 電池の予備? いや、材料の魔石、私の持ち出しだから……電池一つにコカトリスの魔石2個も使ってるのでこれ以上の数は作りませんでした。他にも作りたいもの沢山あるし……。

 あ、『電池』とか『充電』ってのは過去の天人が電池の概念を説明する時にこの単語を使って説明したのが始まりなので、そういうものとして普通に使われてるからね、一応。

 でもまあ、紛らわしくはあるか……『カートリッジ』は、色々まずい気がするので、うーん……『バッテリー』? 意味的には電池と同じだけど。暫定で取り敢えず『バッテリー』にしておく? あー……なんか言いづらいし、もう『カートリッジ』でいいや。


 盾は新たに【結界魔法】を追加。【解析】で剣のウェポンスキルを調べた感じだと、火力が強すぎて色々まずい事になりそうだったので、自衛の為に付けてみた。

 竜殺し戦法で行くとなると、腹の下にもぐりこんで剣をぶっ刺して体内を【火焔竜】で焼く訳なんだけど、ゼロ距離だと剣の使い手も焼かれる事になってしまうのですよ。いや、【火焔竜】って元々中・遠距離用なので……ここはどうやっても上手く調整できなかった。だから盾の方で自滅対策。火属性を付けて無効化を狙うのも有りだったんだけど、一応依頼主の希望を優先した。それに無属性なら汎用性もあるしね。

 だけどそんな馬鹿丸出しの作戦に使う盾なので、『無謀(reckless)』の盾。皮肉全開で我ながらどうかと思う。

 マントはおまけ。こそこそお腹の下を目指して移動するのに便利かなー、と。


 ……いや、これでも本当に自重してるからね? 全属性じゃないし、属性付与もLV8までいけるし、属性以外の他のスキルも今はLV6まで付けられるから、かなり抑えてるからね?

 ちなみに、今回色々やってる最中に【魔法効果増幅】と【魔力圧縮】なるスキルを覚えてた。簡単に説明するとどっちも魔法の威力を向上させるスキル。うーん……MGCもMPもかなり伸びたし、大分人間離れして来た気がするなあ……。



 それはともかく、さっさと引き渡して御役御免となりましょうか。そうと決まれば即行動! 親方に連絡して貰って、ベクターさんを呼んで貰った。


「完成したって聞いたけど、本当かい? 頼んだものの仕様とかを色々考えると、もの凄く早い気がするんだけど?」


「えーと……頑張ったので?」


 おうっふ、自分の製作速度が速すぎる事を忘れてた! とはいえ練習に6日、作成に2日の計8日、剣だけなら実質1日で作ったなんてとても言えない。よし、いつもの様に首をかしげて誤魔化し顔だ。よくわかりません! わたし、子供なので!


「そう? ……そうだね、頑張ったなら……ある、のかな? ……うん、それじゃあ見せて貰えるかい?」


 うんうん、細かい事は気にしたら駄目だよ。


「はい。こちらになります」


 ベクターさんは剣を受け取ると早速鞘から抜き放ち、刀身を眺め始める。そしてその顔が見る見るうちに驚愕に彩られて行く。


「こんな……こんな凄まじい剣は、見た事が無い……それに凄く手に馴染む……これを、本当に君が?」


「ええ、まあ。お陰で色々と苦労はしましたが、何とか。そしてこちらが盾になります」


 次に盾も渡す。こっちも目を見開いて驚いてた。


「こちらのマントはおまけです。それぞれの能力についてですが……」


 畳み掛けるように性能も開示。聞いていた戦法に合わせる様に色々調整してあるので、その辺りも説明した。この辺りは嘘吐いたりするのも拙いので包み隠さず伝える。魔剣の魔力電池の説明ではもう目が飛び出るんじゃないかと不安になる位に驚いていた。というか『カートリッジ』で通じる事に私が驚いた。


「討伐は12月の頭頃と言っていたので、扱いの習熟期間を置く為にも急いで作りました。【ウェポンスキル】の試し撃ちはしておきたいでしょうし、カートリッジへの魔力の再補充にも一月以上掛かりますから」


「それは助かるけど……いや、しかしこれだけ強力なスキルを複数回使えると言うのは凄まじいね……なるほど、魔道具とかも魔力充填式だし、少し考えてみれば思いついてもおかしくは無いか……でもそれを実際扱えるレベルにまで落とし込んであるというのは……」


 お褒めに預かり恐悦至極。でもまあそれはそれとしてー。


「依頼の品はこれで問題ないでしょうか?」


「うん、想像以上だよ。問題ない所か色々と作戦を上方修正しないといけない位に素晴らしい出来だよ!」


「では、約束どおり……」


「分かってる、こちらもきちんと対応するよ。君の事だからニールの事が気になってるんじゃないかなと思うんだけど、彼に関しても問題ないよ。他の仲間達に関してもね。だからそっちのほうも安心してもらって構わない」


 あー、そっちもちゃんと対応してくれてるのね。それは助かる。


 それと、実はここ最近工房の周辺に微妙に怪しい人物達が居たりするんだよね。こっそり【解析】で確認してみた所、どうやらベクターさんが手配してくれた王族護衛の隠密っぽい人だった。私がたまたま気付いたのもノルンのお陰だったりするので、流石という他ないくらいに優秀な人達の模様。所持スキルも凄かった。というか、剣が出来上がらないうちから周辺警護の手配をしてもらえていたとなると、それなりに信用しても大丈夫じゃなかろうか? いや、でも、うーん……一応逃げる覚悟はしておこうか。


「ところで、この剣に名前は付けないのかい? よかったら是非付けて欲しいんだけど、駄目かな?」


 ええー? ネーミングセンスに自信ないんだってーの! 自分で付けていいのよ!? ああああ、じゃあなんだ、あれだ、燃える剣なんだから……えーっと、えーっと、火、炎……『ファイア』? 『フレイム』? 『ブレイズ』? あー……造語になっちゃうけど……。


「では、『ブレイザー』で……」


 ブレザーじゃないよ! ブレイザーだよ!


「『ブレイザー』か……いいね」


 はい、満足そうなイケメンスマイルいただきましたー! と言っても全然嬉しくない! まったくもってどうでもいい!

 というかこう、どこか気恥ずかしい命名に厨二心が刺激されて過去の黒い歴史を思い出してしまう……! 心が痛い! 誰か助けて!




 その数日後、王都近郊の外れの方の平野部で巨大な火柱が立ったそうな。あー、試し撃ちしたのね。

 更に数日後には冒険者ギルドはベクターさんの魔剣の噂で持ちきりだったとか何とか。ちなみにアルノー親方の伝手でダンジョン産の強力な魔剣を運良く手に入れた、と言う話になってるらしい。

 なお剣の性能については色々誤魔化してる模様。うん、ばれたら色々面倒な事になるからね、私が。


 このまま平和だといいなあ………………はぁ。


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