106 親方! 空からフラグが!
はい、収穫祭も終わっていつも通りの平和な日々が戻ってまいりました。嘘です。ハハハ。
いや、実際は平和ですが。
青空教室も終わったし、トリエラ達の家に行く用事も特に無いので毎日適当に剣打ったり他のスキル鍛えたりして過ごしてたりするわけですよ……うん。秋に入って気温も低くなって雨降ったりする日も増えたし、家から出るの億劫だから、引き篭もりですよ。
それにほら、収穫祭の最終日で知りたくも無い厄ネタを知ってしまったのでね……平和って尊いよね、マジで。
それはさておき冒険者でベクターって名前、聞き覚えがあるなーって思ってちょっと記憶を掘り起こしてみたんだけど、該当一件有りました。
『赤髪のベクター』。
確か三年位前に一気に名前が売れた冒険者で、暗い赤色の髪と瞳の剣士。うん、ベックさんと言うかあのベクター氏の外見と一緒。当時15歳とか聞いた気がするから、年齢的にも多分同一人物だと思う。
この国って結構北の辺りらしくて冬は割りと雪が多いんだけど、冬季に氷系の強力な魔物とか魔獣とかが山岳地帯とかに出現すると降雪量が半端無く増えるんだよね。
ちなみにそういう降雪量増やすような特殊な魔獣は冬の主とか言われてたりする。倒せなくても春が来るとどこかに隠れて力を蓄えて、翌年また現れる。
で、まだ私が孤児院に居た頃、三~五年位前にもそう言う魔獣が現れてて、三年前の討伐戦で漸くその魔獣を倒したんだかで有名になったのがベクターって冒険者だった筈。ケインとか三馬鹿が騒いでたから良く覚えてる。
私が孤児院に居た二年前の最後の冬は特に雪は増えなかったから、ちゃんと前年に倒したかしたんだと思う。
でも翌年、森に引きこもってた時は増えたからまた別の奴が出たんだろうな、多分。
でまあ、その有望な冒険者が実は王族だった、とか……死んだらどうするつもりなのかと聞きたい。いや、知りたくも無いけど。
ちなみに王族の髪と瞳の色は明るい赤系とか薄い茶色系が多いらしい。最近の王族で暗い赤色って聞いた事が無いので、多分【偽装】スキル使ってるんだと思う。ステータスの名前表記も多分同じ方法かな。
覗き見た情報で他にも色々知ったことはあるけど、忘れたいので敢えて語りません。悪しからず。
あと、【解析】スキルでステータスが覗けた事で分かった事がもう一つ。【解析】スキルについての色々。
【解析】って【鑑定】の上位互換で詳細情報とかも見られるようになるだけかと思ってたんだけど、どうやら【隠蔽】や【偽装】も見破れるっぽい?
【隠蔽】や【偽装】を見破るには【看破】スキルが必要なんだけど、【解析】はどうやらそれも内包してる、と言う事ではないかと……【解析】スキルを【解析】してみた所、『複数の【鑑定】系スキルを内包する【鑑定】系最上位スキル』と言う事らしい。
【鑑定】系スキル、私が知ってる限りだと下の方から【目利き】【看破】【鑑定】【解析】だったと思うんだけど……うん、良く分からん。他にもあるかもしれないし。
名前聞くだけでも何となく順番は納得できるような出来ないような……ああ、でも【看破】と【鑑定】は同程度の高位スキルだったっけ? どっちにしても【解析】覚えた今となっては【看破】いらないけど。
あー、でも同系統効果スキルは複数持ってると効果が累積するんだったような……? となると一応覚えておいても損は無いのかな? でもどうすれば下位スキル覚えられるのか良く分からない……また今度ギルドの資料室行くしかないかなぁ?
と、そんな感じで適当にスキル考察もしつつ鍛冶修行に明け暮れてたある日のお昼時。
その日はちょっと早めに午前の作業を切り上げて食堂に移動してみたりしたわけなんだけど、案の定女将さん達以外は誰も居なかった。
皆が集まってきて食事開始するまでゆっくり待ってようかなーとも思ったんだけど、皆を呼んできて欲しいとお願いされたので快く了承。毎日美味しいご飯食べさせてもらってるのでこれ位はしますよ。
と言う訳でそれぞれの作業場を回っていって順番に声を掛けていったんだけど、親方さんと丁稚の子がいない。
おっかしーなー? あ、でも丁稚の子は店番だから店舗スペースか。というわけでそちらへ向ってみたら発見。予想通りに居たね。
「あ、レンさん。どうかしたんですか?」
「ご飯ができたので呼びに来たんですが……親方は知りませんか?」
「親方は今そっちでお客さんと商談中と言うか相談中と言うか……」
丁稚の子が商談用の椅子とテーブルが置いてある一角を指すので見てみると、親方も発見。なるほど、たしかにお客さんとお話中。丁稚の子は給仕も兼ねて待機してたっぽい。ううむ、どうしよう?
むーん、お客さんは二名で男性二人……って、おっふぅ。
ああ、いや。うん、ベクター氏でした。あと、ニール。
もうさあ……なんなのこれ? フラグ? フラグが立ってたの? って言うか私顔丸出しだし。最悪だわ……
逃げるかどうか躊躇したのが失敗だった。ニールがこっちに気付いた。そして私の顔を見て固まった。
ばれたな、これ。さっさと逃げればよかった……
「ニール? どうかした?」
「え? あ、いや……」
ベクター氏がニールの異変に気付いて声を掛けて、それで私に気付いた親方が声を掛けて来た。
「ん? ああ、嬢ちゃんか。どうした?」
「あ、いえ。食事の用意が終わったので呼びに来たんですが……お邪魔してしまったようで、すみません」
「あー……すまんな、まだ取り込み中だ」
「はい……」
うん、凄い気まずい。
「ニール? なにか気になるの?」
「あ? あー、うん。その……あー」
「あの子がどうかしたのかい? 凄く可愛い子だね……あれ? あの子、どこかで……?」
私に気付いたベクター氏にニールが耳打ち。暫くすると私を見てたベクター氏の表情が驚愕に彩られていく……あーあ、マジ最悪。
「おう、ベクターよ。その子はうちの大事な客だ、ちょっかい出さんでくれ」
「え? いやだなあ、そんなつもりはありませんよ」
ははは、とか胡散臭い笑顔で笑うベクター氏。誤魔化そうとしてる様にしか見えない……知りたくも無い事実を知った今となっては、この人、凄く胡散臭い。あと、腹黒そうに見えてきた。
「はあ……話を戻そう。はっきり言って今回の依頼は無理だ、諦めてくれ」
「そこを何とか出来ませんか?」
「そうは言うがなあ……」
親方が無理矢理商談に戻してくれたお陰で何とかこちらから意識は逸れたっぽいけど、なんだか揉めてる? と言うか親方が無理って一体どんな依頼?
「今使ってるこの剣、前回アルノーさんに打って貰ったものですが……この剣の出来が悪いと言うことではないんです。これだけの剣を打てる鍛冶師は今この国には殆ど居ません。ただ、これほどの剣であっても今回の討伐には不安があるんです」
「それはさっきも聞いた。だがな、それ以上の剣が欲しいと言われても流石に難しい。そいつは当時の俺の最高傑作と言っても過言じゃない。とは言え純粋に剣の出来だけを考えれば今の俺ならそれ以上の物を打つ自信はある。だが、魔力剣としてそれ以上のものを、と言われるとな……俺の付与ははっきり言っておまけ程度だ。素材としての剣を打つのは別に構わんが、付与は別の人間に頼んだほうがいい」
「僕の伝手に、これ以上のレベルで武器へのスキル付与が出来る錬金術師はいません」
「……斜向かいのあいつはどうだ? アイツの魔力剣作成の腕は間違いなく俺以上だぞ?」
「それは……いえ、そうですね。付与されたスキルのレベルだけ見ればあちらの親方はアルノーさん以上でした。でも、剣そのものの品質が足りません。お二人の技法では素材剣の持ち込みでの後天的な付与は無理だとお聞きしました」
「そうだな……俺達のやり方だと後付は出来んからな……」
「お二人は独立する際のいざこざで仲が良くないとも聞きました。協力して剣を打ってもらうのは無理でしょう?」
「無理だな。俺はともかく、アイツが受けるとは思えん」
んー、話を聞いてると、どうやらベクター氏は魔力剣が欲しいらしい? でも親方は氏が希望するレベルの物は打てない、と……って言うか、前に打ってもらったのは、とか言ってたし、親方って魔力剣打てるのか! 知らなかった! って、秘伝の類だろうし教えてもらえなくて当然か。
で、テーブルに乗ってるあれがその剣かな? 【鑑定】……えーと、見た感じやや刀身長めの片手剣で、最高品質のミスリルソード。付与は【火属性 LV2】……ふーん?
「なら、付与は同じもので構いません。新しく打ってもらえませんか?」
「だがそれだとその剣と大した差はないぞ? 会心の出来だったとしても、付与が同程度では難しい相手なんだろう?」
「それは……確かにその通りです。ですが、それでも可能な限り準備をしておきたいんです。それに今回は素材も用意しました」
「前の剣はミスリル製だぞ? それ以上の素材なのか?」
「はい、アダマンタイトを用意してあります」
「アダマンタイト!?」
「ええ……流石にオリハルコンは無理でしたが」
「それは流石に無理だろう……しかし、アダマンタイトか……」
「扱った事が無いと言う訳ではないんでしょう?」
「以前何度か扱った事はある。ただ、付与向きではない素材だからな……以前と同等の付与をするのは俺には難しいかもしれん」
「そんな……ですが、他に頼める人が居ないんです! 何とかお願いできませんか?」
アダマンタイト! 思わず声が出そうになったけど、何とか堪えられた。
レア素材弄れるとか、羨ましい……親方、受ければいいのに。そして素材を見せてもらえたりしたら超嬉しい。触らせてくれたりしたら小躍りしちゃうね! そうなったらお礼に美味しいもの食べさせてあげてもいいのよ?
なんてことを考えてたら親方と目が合った。なんすか?
くてりと首をかしげて対応。そんな私を見た後、暫く考え込んでたと思ったら私に向って話しかけて来た。
「……なあ、嬢ちゃん。お前さん、魔力剣打てたりしないか?」
……はい?







































