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36 幼き狂詩曲③

 その日以来オフィーリアは変わった。


 いや、元々の性格が出せるようになっただけだろうが、感情の無いお人形や冷静な大人のように振る舞う少女はもう何処にもいなくなった。


 楽しければ笑い、怒れば癇癪を起こし、悲しければ涙するようになったのだ。



 勿論アンドリューが側に居てこそ、ではあったが。



 それはアンドリュー第2王子も同様で、いつも貼り付けた様な笑顔で物事を淡々と卒なくこなす王子は何処かに消えてしまった。


 その代わりに彼は自分のやりたい事や、伝えたい気持ちを正直に家族や周りに向けて吐露出来る少年になった。



 此方もオフィーリアが居てこそだったのは間違いない。






 何故そうなったのか、どうして突然変わったのか、本人達にもよく分からない。――だだ、2人共がお互いに一緒に居る事で息が自然に出来る様になった気がすると思った事は確かだった。



 そして過去、何処か冷めた所のあった似たような少年と少女は、互いを認め合い、励まし合い、競い合い、労り(いたわり)合う仲となり、気が付けば誰よりもお互いを欲する様になっていた。


 国王陛下とアガスティヤ公爵閣下は彼らの変化に半ば驚き、半ば喜びの気持ちで見守ってきたが、オフィーリアが9歳、アンドリュー王子が11歳の時に婚約を整え、神殿はその届けを快く許可したのである。




×××




 しかしその出逢いの4年後、2人が婚約した翌年にスティール王国との戦争が勃発した。



 スティール側からの一方的な宣戦布告。



 穀倉地帯への侵略は未然に防ぐことが出来たが軍の総帥でもあったアガスティヤ公爵が軍を率いて戦地へと赴くことになった。


 小競り合いが長引く中、冬に悪い風邪が流行り母が高熱を出してしまう。 


 元々あまり身体が丈夫では無かったオフィーリアの母は父が戦場から帰還する間もなく儚くなったのである。


 20歳になった兄が喪主を務め、花に埋もれた母を泣き崩れながら弔うオフィーリアの横にはアンドリュー王子の姿があった。


 その1年後。終わりの見えない戦いを繰り返す中で公爵が銃弾に倒れ危篤状態で搬送され、帰ってくるなり息を引き取った。


 皮肉な事にその途端戦争は終結し、アバルティーダ王国は王太子オースティンが軍の総帥を急遽肩代わりして国として対外的には体面を保った。


 何も得ることが無かったスティール王国が、何故戦争など仕掛けてきたのかという謎は残ったがアバルティーダ王国の戦力は確実に削られたのは確かだった。


 特にアガスティヤの精鋭達はかなりな数を失い当主まで失った。


 そんな中、又もや父親の葬儀の喪主を務める兄とオフィーリア、そして側には涙目になる彼女を支えるアンドリュー王子の姿。



 葬儀が終り母の眠る横に父を埋葬し終わると、兄は突然オフィーリアに次期当主としての教育を始める。


 当時21歳だった彼には婚約者はおらず独身のまま公爵家を継いだ。



 王太子の親友で眉目秀麗でもあった彼はこの国の数少ない公爵家の次期当主であり貴族子息の中でもかなりな優良物件だったので、元々婚約者候補は何人かいたが絞りきる前にスティール国との戦争が勃発しそれどころでは無くなり婚姻が遠のいた。


 そのままでは公爵家の存続が危ういと彼なりに考えた上での行動だったのだろう。


 戦後処理に追われた兄は当主としてますます忙しくしていたがオフィーリアが14の歳になる直前にスティール王国との国際補償会議の帰り、国境付近の谷底に馬車が転落し死亡した。


 この事故のせいでアガスティヤ公爵家は中継ぎの当主を立てるのかと思われたが、そのまま14歳のオフィーリアが国王陛下の後ろ盾で公爵家当主となった。


 当主になった最初の仕事が兄の葬儀ではあったが、その時も変わらずアンドリュー王子が彼女を守るように側に居続けた。


 こうして2人が紛れも無くお互いを唯一の伴侶として認め、家族として常にあろうとしている事が周知されていき、『アガスティヤの両翼』として、よく知る者には囁かれる様になっていく――







 ヴァルティーノ王国との交渉で国王派は勿論だが、貴族派がアンドリュー第2王子の婿入りという案に首肯くこと無く中立を保ち、最終的には国王派と同様反対の立場を取ったのは、そういった経緯が貴族達の間で知られていた事が背景にあったのだった。



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