32 た~まや~ッ!!
「くっそぉ、お嬢に知らせる暇がねえぞ」
ヴァルティーノ王国の軍服を着た公爵家の諜報員が、隣にいた同僚に向かって小声で愚痴をこぼした。
「こんなに大勢が国境目指して動くなんて考えてなかったからな」
彼らはワイアット・ボーフォートの見張り役だが仲間と交代し、情報を得るためにヴァルティーノ兵に紛れて国境近くの廃教会に向かっていた。
しかし街道沿いを移動していたアンドリュー達とヴァルティーノ兵が鉢合わせをしてしまい、突然戦闘が始まってしまったのである。
「アンドリュー殿下がこのままだとやべえぞ。何とか逃がす方法は・・・」
飛び交う矢はもうどちら側の物なのかも分からない状態だ。
不幸中の幸いなのはヴァルティーノ側の兵士達が一般兵ばかりで銃を持っていなかった事と、指揮官もいないので弓矢の応酬にしかなっていない事である。
アンドリュー達の小隊は王子を中心にタワーシールドで四方を囲み弓矢を防ぎながら応戦しているが、どう考えても数が違いすぎる。
「あと2時間もしない内にボーフォートがこっちまで来ちまうぜ。あいつの周りの士官達は銃火器持ちだからな」
「こいつら、ただ闇雲に矢を射って足止めしてるだけだから・・・って、なんだアレ?」
「ん? え?」
木の上に身を潜めていた同僚の声で、慌てて振り返るともう少しで着く予定だった教会の尖塔が崩れていくのが目に入った。
「な、何で崩れてるんだよ?」
突然轟音と共に崩れていく建物に驚いて、その場の全員が戦闘中に関わらず、呆然とそちらを向いた。
もうもうと土煙を上げ、尖塔の鐘が『カラーン』という間抜けな音をさせながら崩れていく教会。
続いて『ドカーンッ』という爆発音がし、更にヴァルティーノの兵が固まっている辺りで
『うわあぁぁあ』『敵襲ーッ』『後方より敵襲ッ』『ドカーンッ』『ひえええぇ』
という叫び声がして、爆発音と共に地面で花火が弾けた。
「おい、確かこの兵士達火器は持ってなかったよな、って、花火?!」
「ああ。でもアバルティーダの国境方面から近づいてくる兵とか見えねーぞ・・・って、うわ、何だありゃ、やべぇ木に掴まれッ!!」
覗いていた細い望遠鏡を放り出し、辛うじて木の幹に2人が掻き付いた次の瞬間、
『ドッカーーーーーンッッ!!』
高い木の根本に黒くて丸い爆薬が当たり、打ち上げ花火が地面で炸裂した・・・
×××
「何よアレ、何で花火ッーーー?」
「何でもいいんだよ脅かすのが目的だからッ!! ヒャッハーーーッ! 花火だと煙幕になるから都合もいいだろッ♡」
鐙に足をかけて膝で栗毛の馬の胴を挟み込み操りながら、手に持ったスリングショットに次の得物を引っ掛けると思い切り遠くへ飛ばすヒューイ。
敵兵の前方の地面で又もや花火が弾ける。
花火は普通の爆薬と違って何度も色を変えながら火花を散らして煙を上げる為、物凄いスピードで視界が悪くなっていく。
慌てて逃げるヴァルティーノ兵に向けて
「そうそう、サッサと逃げていけッ」
とゲラゲラ笑う爆弾魔。
ヒューイと同じようにオフィーリアも膝立ちになり片手で手綱を握り、もう片手には真っ赤なロングウィップを握ると
「いい案だわッ! 突っ込むわよッ」
「おうッ!」
胸ポケットから又もや小さな黒い玉を取り出すヒューイは、再びスリングショットを敵兵に向けて構えたのである。
×××
「一体何が?」
離れているとはいえ、周りを取り囲まれて旗色の悪かったアンドリュー王子達は突然始まった地面で弾ける打ち上げ花火に呆然としていたが、真っ直ぐこちらに向かってくる馬の足音に気が付いた。
「アンディーッ! 無事なのッ?!」
「え? リア?」
何故か愛しい婚約者の幻聴まで聞こえてきたせいで、アンドリューは思わず耳を疑った。




