28 報告
「報告です」
オフィーリアが東の離宮内の執務机に座って書類にサインしている所に、執事姿の青年がやって来た。
彼は学園内で学生に化けて王女の身辺を調べている諜報部隊の1人である。
どこにでもいそうな平凡顔で、茶髪に色素の薄い茶色の瞳をしていて印象が非常に薄いタイプなので人の記憶に残りにくい。
「・・・地で報告して良いでしょうか?」
「ん? 珍しいわね。いいわよ、許します」
サインするのを途中で止めて顔を上げるオフィーリア。
「では」
彼は、コホン、と1度咳払いをして
「成績は地を這う勢いで向上心はまるで無し。特に数学、外国語、地理は赤点確実です。男前は常に物色してるようで特に騎士科のヤローに食指が動くようです。仮婚約すらしてない状態なのに何故かアンドリュー王子の婚約者気取りで女子生徒には色々指図してますが、どういう訳か男装のお嬢の嫁になったら帝国の皇太子妃になれるかもっつって考えてるのが発言の端々にダダ漏れです。学園内にはヴァルティーノ王国関係者はいませんでした。世話役の侯爵令息は完全にシロです。例のお嬢との会話以降は他の男子生徒は距離を置き始めました。女生徒には総スカン中ですが本人は全く気がついてません。これと言って怪しい動きはありませんが、何故かハンカチを廊下に落としまくりますので、ゴミ箱に全て処分しておきました」
そう言いながら紙の束を執務机の上に置いて首をコキコキ鳴らす青年。
「・・・相当ストレス溜まってるわね。担当の交代をしていいわよ」
呆れ顔になるオフィーリア。
「ありがとうございます。それと国境付近の担当がこれを」
大きな書類用の封筒を差し出し、
「コチラは動きがあったそうです」
オフィーリアは封筒の中の書類に素早く目を通すと
「将軍が逃げたわね。廃教会の見取り図を入手するよう伝えなさい」
と指示をした。
「了解です」
彼はその場で音もなく消えた。
×××
「リア、さっきの部下どうしたの?」
床で腕立て伏せをしていたヒューイが声を掛けてくる。
「えらくキレてた気がすんぞ?」
「ああ、ヴァルティーノの例の王女の側で女装して張り付かせてたから、ストレスが溜まったんでしょ。アレと付き合うとああなるわ。私も短時間で彼と近い状態になったから、長時間だとおかしくなるのも当然でしょうね」
「間諜がキレる位酷いのか?」
「彼女の侍女は、きっと東洋の仏神の悟りの境地を得てると思うわよ」
迷わず2人は西の離宮に向かい両手を合わせる。
「侍女をクビになったら彼女をスカウトしようかしら? きっとどこでもやっていけるわねぇ」
顔を上げてそう呟いたオフィーリアであった。




