19 理想の王子様①
たった半日でヒューイ・ノックスの噂は学園中に広がり行く先々を学園中が注目した。
「ほら、あの方よ」
「本当に王子様みたいですわ」
「帝国の皇子様なんじゃないの?」
「東の離宮に滞在中なんですって」
「やだ、あの人案内するって言いながらエスコートさせてるじゃないの」
「え、私が立候補したら良かったわ」
コソコソヒソヒソと噂話に大輪の花を咲かせる乙女達の前を横切るのは噂のヒューイ・ノックス。
彼がエスコートをしているのはクラス委員の伯爵家の御令嬢である。
ご令嬢自身は緊張し過ぎでギギギギッという擬音がしそうな様子でぎこちなく歩いているが、辛うじて前向きに進んでいけるのはヒューイ青年の巧みなエスコートのお陰らしい。
「レディ? 何故右手と右足を同時に出そうとするんですか? それでは転んでしまいますが?」
「い、いえ、歩こうとするとこうなるのですぅ・・・」
「あの、前に水溜まりが」
「へ?」
前日の雨のせいで多少まだ水溜りが残る小道を食堂に向かい歩いているのだが、彼らの行く手にはかなり大きめの水溜り。
そのままご令嬢は気が付かずに突進しようと足を動かした。
「「「「「「きゃああぁ♡」」」」」」
ハイヒールを水に突っ込む直前で伯爵家のご令嬢の身体がフワリと宙に浮く。
「流石にソレは避けないと駄目でしょう?」
彼女をサッと横抱きにして水溜りが無くなる辺りまで進むとストン、と煉瓦敷の小道に下ろす。
「さ、行きましょう」
そう言って白い手袋を着けた左手を差し出しニコリと笑う。
「・・・」
「あれ? どうしました?」
「「「「「「?」」」」」」
「あ」
「「「「「「あ・・・」」」」」」
ご令嬢は立ったまま気を失っていたようだ。
×××
「ボス、やりすぎッスよねぇ」
「まあ、変装させたの俺等だから仕方無いだろう。アソコまでイケメンにするつもりはなかったんだがなぁ」
黒い服の上下を着た男達が校庭の大きな楠ノ木の高い枝に隠れるように身を潜めて望遠鏡を覗き込んでいた。
「元が美形ですから仕方ないでしょう」
「女を軽々抱き上げるとかいうイケメン具合って、なんすかアレ? 天然?」
1人が細身の望遠鏡を降ろして自分の懐に仕舞って呆れ顔になる。
「ボス、馬鹿力だからな。鉄扇へし折る女だぞ」
もう1人が溜息をつきながら同じ様に望遠鏡を片付けた。
「そうでした。しっかし、男装っての凄いですけど誰も気が付かんて。貴族って呑気ですね」
「まあ、普通は考えんだろうよ」
「じゃあ、次行ってきます」
「おう」
黒い影の何人かが、木から飛び降り走り去る。
残った青年は、望遠鏡を覗き込み観察を続けることにした。




