13 新学期
2国間協議が難航する中、突然中立派の伯爵達数人が共に行った派閥内の昼食会で提供されたハインド領特産の生牡蠣で食中毒を起こし連日欠席するという騒ぎがあった。
――今は春。牡蠣は冬だよね。
その数日後、国境を動かすというヴァルティーノ王国側の案が取り下げられた。
難航する国境線問題に対して普段は国政に口を出さない辺境伯が態々王城にやって来て、睨みを効かせたらしい。
同様にアンドリュー王子をフロイライン王女の婿にという訳の分からない折衝案も取り下げられる事となったのだが、代わりにフロイライン王女をアンドリュー王子に嫁がせるというヴァルティーノ側からの提案があったが、それも丁重にお断りする結果となった。
一方で王城勤めの近衛騎士が一人、辺境伯の長女に見初められ婿入する事となり辺境伯騎士団に破格の待遇で迎えられる事が決定した。彼は嬉々として辺境伯領に伯爵と共に向かったらしいが、婚姻は半年後に決まったそうだ。
この近衛騎士に対し国王陛下だけでなくアガスティヤ女公爵も騎士としての長年の労をねぎらい、高価な祝の品々を贈ったらしい。
色々な方面からの圧力があったらしいヴァルティーノの使節団もやっと終わった協議にホッとしたらしく、『何の変更もなく終わって良かった』と胸を撫で下ろしていたというのは公爵家の間諜の報告である。
その後無事会談も最終日を迎え恙無く使節団は帰国した。
当然ピーチピンク姫も帰国である。
そのすぐ後ハインド伯爵家が領地の牡蠣の販売不振により税収入が一気に低下した。
――皆己の腹は大切である。
これにより王国官史による厳正な監査が入り偶々見つかった脱税から、更に10年前に帳簿を遡りスティール王国との武器の違法取引が判明。
ハインド伯爵は国家反逆罪で逮捕され世間を騒がせた。
ハインド伯爵家と繋がりスティール王国との間の戦争で私腹を肥していた中立派の貴族家が軒並み検挙され法定で裁かれるという事態になったが、奇しくも元ハインド伯爵と共に食中毒になった貴族家当主ばかりだったため、戦死者の呪いなんじゃないかと噂の的になった。
この中立派グループは新たにヴァルティーノ王国の将軍との武器の裏取引も明るみに出た為、自国の汚名を晴らす為にも彼の国の国王も、事実関係を調査する為に乗り出したらしく、現在ヴァルティーノ王国の将軍は自邸にて軟禁中らしい。
×××
「で。何故貴方様が此方にいらっしゃるのですか?」
――今、ヴァルティーノ王国って武器の密輸騒ぎで大変なんじゃ無かったっけ?
淑女の微笑みを顔に貼り付けたオフィーリアが鉄扇を広げて口元を隠しながら首を傾げる。
今日から貴族学園の新学期。
最終学年の教室で何故かフロイライン王女が教室のど真ん中の椅子に鎮座している。
「あらぁ、貴女こそ何で最終学年に?」
コテンと首を傾げる王女の頭にはデカいピーチピンクのリボンが乗っている。
「私は、この国に興味が湧いたので留学したのですわ~」
腹の中でチッと舌打ちしたオフィーリアだが、それは顔に出さず
「私は飛び級制度を利用したのです。王女殿下」
「あら、アナタって意外に頭が良いのねぇ」
はっきり言うと学習面では何1つ苦労はないオフィーリアだが、当主の仕事と学生の両立が面倒なので飛び級制度を利用したのである。
出席日数も関係なく試験さえクリアすればいいのだから彼女にとっては飛び級など平気の平左である。あんまり忙しいのでその辺りがスッポ抜けていて、入学の時点で実行すれば良かったと後日悔やんだが、貴族学園は卒業後の社交も兼ねているため全然通わないというわけにもいかない辺りが世知辛い。
――しかし、コイツと1年間同じクラスかよ!?
と、これからの1年間を考えると頭が痛いオフィーリアであった。
自国の一大事はピーチピンク姫の憂いには全くならなかったようである。




