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12 育児書

 はたき落とされたのはアーチェリーに使う様な金属製の矢で、当たれば確実に大怪我をしていただろう・・・


 あまりに早すぎるオフィーリアの動きに護衛騎士達も息を呑んで驚いたが直ぐ様矢が飛んできた方角に何人かが走って行き、残る騎士らも警戒態勢を取った。


 近衛は王女を横抱きにしたまま周囲に視線を巡らせるが、王女本人とその侍女は押し問答に夢中だったせいか気が付かなかったようで、



「え? 何? 何かあったの?」



 と不思議そうな顔をする。


 彼女を横抱きにしたままの近衛騎士が侍女に向かって先程の出来事を耳打ちすると、青を行き越して白くなった顔の侍女が



「王女殿下。既に帰城のお時間ですので馬車までお戻りを。これ以上視察を理由に公務を放棄するのであれば国王陛下にお知らせする事となります」



 と決定事項を告げた――




×××




 全員が走る直前の早足で馬車溜まりまで戻ると、未だに嫌がる王女と宥める侍女の二人を急いで馬車に押し込める。


 出発間際まで王女が文句を言って煩わしかったが、護衛の為にとお気に入り登録されたままの近衛騎士を同乗させたので、騒いでいた王女も大人しくなったようだ。



 皆が、ちょっと近衛がかわいそうだな~と思ったものの、背に腹は変えられない。



 ――尊い犠牲も場合によっては目を瞑ることが肝心である・・・



 馬車の周りは騎乗した護衛騎士達で厳重に囲み、アンドリューとオフィーリアは近衛騎士の馬を搔払って(かっぱらって)・・・ゲフン・・・じゃなくて、譲ってもらい相乗りで並走する事になった。


 アンドリュー王子は武人だが、実のところオフィーリアは多分周りの護衛や王子よりかなり強い。


 王子が手綱を握り馬を操るその前に跨った彼女の片手には、金属の芯の通った迎撃武器(ロングウィップ)がしっかり握られており、彼女自身は周りを油断なく見回している。


 要するに女公爵自ら王女を護衛しながら帰城する事となったのだ。


 アンドリュー王子がフロイライン王女と一緒の馬車に同乗するのを拒否して婚約者と共に騎乗する事を選んだのは、アガスティヤにもうすぐ婿入りする身なのだから肩を並べ要人を護衛するのは当然だからと、周りを説き伏せたからである。




 そして勿論帰城後、フロイラインは速攻で離宮に押し込められた――




×××



 「この矢は、我が国の物ではなくスティール王国のものですわね」



 オフィーリアが叩き落したモノを確認したが、5年前まで争い今は停戦条約を結んだ国の刻印の入った矢であった。



「今は、条約で互いに不可侵となった国だ。何故今更あの国が・・・」



 アンドリュー王子が難しい顔になるが、その顔を眺めながら、



「こんなモノいくらでも手に入ります。あの国は今更戦争などできるような国力はありませんわ。恐らく濡れ衣を着せたかったのでしょう」



 ――フン。子供騙しの様な小細工ですわね。



「うん。確かに君の言う通りだと思う」



 苛立つオフィーリアは顔にこそ出さないが両手で1本のロングウィップを二重にして握ったまま、伸ばしたり縮めたりして『バチンッ! バチンッ!』と音をさせる。



「至急調べ、処理しますので。この事は殿下より直接国王陛下と王太子殿下にお伝え下さいませ」


「ああ」



 久々に完全にキレる直前まで()ている婚約者に情けなく眉を下げるアンドリュー王子。




「リア? 無茶しないように」


「ええ、分かっておりますわ」



 彼女の美しい柳眉の片方だけがピクリと上がる。



「アンディ。ワタクシ、今日から愛読する書籍を決めましたの」


「え、何? 急にどうしたの??」



 にっこりと美しい笑顔で



「育児書を読もうと思いますのよ」


「え?」



 その言葉に若干顔を赤くするアンドリュー王子。



「将来、我が子が愚かに育たないように()()()()()()()学びますわ」


「あ、ああ、うん。いいと思うよ」



 若干どころか真っ赤になったアンドリューを他所に、周りにいた護衛騎士達が思わず真顔で頷いた・・・




×××




 帰り着いた王城の居室で今朝途中で止めてしまった書類の確認をマッハで進めるオフィーリアの元に侍従姿の青年が現れた。



「例の伯爵に関する資料と始末書の写しです。自供はありませんでした。()()()で吐かせますか?」



 渡された資料の束をパラパラ捲り



「真っ黒じゃないの・・・」



 次に始末書にパッと目を通す。



「資料は王太子殿下に。()()は捕縛後、処理」



 そう告げた後、彼女は次の書類に手を伸ばす。



 青年は何も言わずにお辞儀をして退室した。




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