閣下
そして、法廷が開かれる事となり、
「被告、レジウス・フォン・クローム。貴公はネビル男爵家次男の、ジェームス・ネビル・トウワに対し不当に暴行を加え、ネビル男爵家を侮辱したとの嫌疑がかかっておる。申し開きがあるか?」
この言葉を発したのは、ウィンクル司法次官である。
金色の長髪オカッパ頭と二重……いや三重顎と言った方が良いだろう贅肉の付いた顔つきに、当然予想される身体付きである。
「ウィンクル司法官、私レジウス・フォン・クロームは不当にジェームス・ネビル・トウワに暴行を加えた事はありませんし、ネビル男爵家に対して侮辱した覚えもありません。それと申請した証人がこの場に居ないのは何故でしょうか?」
レジウスがそう返答すると、
「証人と申請された者が出廷を拒否したからだ。では、告発人のジェームス・ネビル・トウワ。告発内容をこの場で改めて話すように」
と、ウィンクル司法次官はジェームスに発言を促す。
「は! 私、ジェームス・ネビル・トウワは、先日都にて冒険者ギルドの前を通りかかったところ、ギルドから出てきたここにいるレジウス・フォン・クロームにいきなり頭を掴まれ一方的に暴行を受け、我が家を侮辱されました」
ジェームスがそう述べると、
「被告人、これに対して返答を」
ウィンクル司法次官がレジウスに顔を向けて言う。
「私の使役魔物を盗もうとしていた輩を止めるために、頭部を掴んだだけであります」
とレジウスが言うや否や、
「盗っ人呼ばわりするな!」
ジェームスがレジウスに怒鳴る。
「盗っ人でなければ盗賊か?」
レジウスがジェームスに言い返すと、
「被告人は許可なく発言しないように」
ウィンクル司法次官がレジウスに注意をしてから、
「ジェームス・ネビル、レジウスの使役魔物を盗もうとしましたか?」
と、ジェームスに尋ねる。
「言い掛かりです。私は貴族です。人のものを盗むような真似は致しません」
白々しくもそう言ったジェームスに、
「よく言うぜ。俺のザックでケニーを殺すとか言ってたくせに」
と小さく呟いたレジウスだったが、静かな法廷にはその声が良く通った。
ケニーの顔色がみるみる変化し、ケニーの眼はジェームスを睨んでいた。
「被告人は勝手に発言しないように! では次にネビル家を侮辱したことを被告人は認めますか?」
ウィンクル司法次官が言うと、
「盗っ人をするような子供に育てた、ネビル家の教育の仕方を批難しただけです」
レジウスぶっきらぼうに言うと、
「盗っ人ではないっ! 準男爵の分際で!」
ジェームスが叫び、
「貴様はただの男爵家の子供だろうが。跡取りでもないくせに」
と返したレジウスに、
「やかましい!」
ジェームスの叫びと同時に、
「静粛に! 被告人、先程言った事を忘れたのか? 次に勝手に発言すれば、有罪とするぞ。では、ジェームスに怪我を負わせたのは、被告人である事を認めますか?」
ウィンクル司法次官の質問に、
「その返答の前に『真実の水晶』の活用を要求いたします。コレは私に無実の証明をせよと言われているのに等しいと考えますので、貴族法廷法第31条の行使を要求いたします」
と答えたレジウス。
真実の水晶とは、直径20センチほどの青い水晶の球で、その水晶に手を触れながら嘘の発言をすると、青い水晶が赤へと色が変化するという、貴重な水晶である。
「その必要は無いと考えるが」
「何故です?」
「真実の水晶は我が国の至宝でもあり、この程度の事で持ち出すべきでは無い」
「ジェームスが私に言い掛かりをつけ、不当に罪をなすりつけようとしているのにですか? そもそも真実の水晶の活用は、貴族裁判においてどちらかが活用を願い出れば、活用すべきとなっているはずですが、コレは正式な裁判では無いという事でよろしいか?」
レジウスが問うと、
「この程度の裁判では必要無いと、私が判断した」
ウィンクル司法次官が冷たく言う。
「そもそもこの裁判は、正式な裁判なのですか?」
「それに準ずる裁判である」
「準ずる? おかしな事を申されては困りますね。 調停ならば調停官がこの場に居るはずなのに一人もいないし、裁判ならば貴族の裁判は裁判官が3人居るはずなのに、貴方一人しか居ない。到底裁判と認められないと思いますが? そもそもこの裁判、アームストロング司法長官が認めた裁判でしょうか?」
「司法長官であられるアームストロング侯爵に、わざわざ準男爵家を裁く裁判のような些事にお手を煩わせる必要などない。何度も勝手に発言するなと注意したにも関わらず、発言を繰り返す被告人を有罪に処する。処分は貴族籍の剥奪、および犯罪奴隷に身分を落とし、20年の労働を命ずる」
ウィンクル司法次官が、そう言うと、
「ザマアミロ! 私にあの時ブラックウルフドラゴンを素直に渡さないからだ! ワハハ!」
ジェームスがそう言って高笑いをする。
だが、
「てな事言ってますけど、アームストロング侯爵閣下はどう思われます?」
と言ったレジウス。
「は?」
その声は誰のものだったのか。
だがそのすぐ後にに、原告側の傍聴席の一番後ろから、
「非常に問題だ」
と声がした。
「え?」
と言ったのはウィンクル司法次官。
「ウィンクル伯爵、いったい誰の許可を得て貴族裁判を開いておるのか? 貴族裁判は私の許可無しには開けないはずだが?」
原告側傍聴席の一番後ろに居た人物が、席からスクッと立ち上がると、頭に被っていたフードを後頭部にずらした。
その人物の顔を見たウィンクル司法次官が、
「あ、アームストロング侯爵閣下っ?」
と、声を漏らした。




