恩返し2
ザビーンの手練れ達は、一気に見張り塔に向けて走りだす。
城の警備をしていたスネークスの兵士が対抗するが、本城全体を警備していたため、別棟である塔という目標を知られてしまった事態に、遅れを取る事になってしまう。
塔の警備をしていた兵士達は、数人で上手く対抗していたが、数が違い過ぎた。
1人、また1人と無残に散っていく。
塔の最上階に居る王妃ソーナリスと、それを守るかのように立ち塞がる、スネークス家の兵士達。
そしてその中に、片腕の無い兵や片脚の兵士達が多数居るのに、ザビーンの兵達は違和感を覚える。
「お前達、我らが受けた恩を返す時がきたぞ!」
右腕の無い兵士がそう言うと、
「「おお!」」
と、周りにいる兵士が声を上げる。
「行け!」
右腕の無い兵がそう言うと、別の左腕の無い兵士が、槍を脇に抱えて突っ込んでくる。
「その体で私達を止められるとでも思ったか!」
ザビーン兵の槍は、左腕の無い兵の槍を弾いて、その兵士の腹に刺さる。
「ぐはっ! か、勝てるとは、思ってないさ!」
槍を刺された片腕のスネークス兵は、そう言ってザビーン兵の槍を右手で掴むと、
「今だ! 俺ごとコイツを射殺せ!」
と叫んだ。
その声に、下半身の不自由な兵士達が、弓につがえた矢を放つ、
「なっ⁉︎」
それに驚いたザビーン兵から声が漏れる。
次々と飛んでくる矢を受け、片腕の兵士を貫いたザビーン兵士が倒れる。
「コイツら死兵(死を覚悟した兵の事)か!」
ザビーン兵が目を見開いて叫ぶと、
「我らスネークス陛下に救われた者。陛下の最愛のお方を守るためなら、この命、喜んで差し出す! 腕や脚を失った我らを、他の兵と同じように雇って下さった陛下に、恩を返せるのだ! 兵士として死を迎える名誉まで下さった!」
そう言ってまた1人、槍を構えて走ってくる。
「くそっ!」
舌打ちしながら、手に持つ槍を座っている脚の無い弓兵に投げつけたザビーン兵。
足が不自由なため避けることができない弓兵に、その槍が刺さった。
「マルケス!」
槍が刺さった弓兵を呼ぶ声がする。
「すまん、先に逝く。後を頼む……」
「任せろ!」
体の不自由な兵士達は奮闘した。
狭い通路を上手く利用し、自らの肉体を盾とし、ザビーン帝国兵がソーナリス王妃に近づくのを、必死で止めていた。なんとか何人かを倒したのだが、自力の差は如何ともし難い。
徐々に人数を減らし、もう数人しか残っていない。
「くっ、このままでは陛下に顔向けできん! なんとかソナ様を」
そう言った時、
漆黒の翼竜が城の中から飛び出してきた。
「よ、翼竜だとぉ⁉︎」
ザビーンの兵士が驚愕の声をあげた。
「プー! 卵は?」
ソーナリスがプーに向かって叫ぶと、
ギャー!
と、プーが鳴いた。
だが、ソーナリスにはその鳴き声が、なんと言っているのかはわからない。だが、想像する事はできた。
「孵ったの?」
と、聞くソーナリスに、
ギャ!
と、短く鳴いたプーが、視線をザビーン兵士に向けると、
ギギッ
と、またさらに短く鳴いたプー。
その鳴き声と共に、ザビーン兵の体は黒いモヤに包まれ消えた。
唯一、堀に飛び込まなかった指揮官は、飛び出して来た翼竜を見て、慌てて逃げたのだが、治安維持隊の平兵士によって、その命を終わらせた。
その指揮官の名は、マックス・ファン・ザビーン。帝国第4皇子だった。
「皆んな、ありがとう、貴方達のおかげで、私は無事。どうお礼を言っても、死んだ者は生き返らないけど……」
ソーナリスが、自分を守ってくれた兵士達に礼を言う。
「直接お言葉を返す無礼をお許しください。ソーナリス王妃、我らはスネークス陛下の恩に報いただけです。お気になさらぬよう。普通ならまともに働けず、死んでいてもおかしく無い我らを、城壁警備隊として雇って頂き、給金も正規兵と全く同じ。こんな恵まれた人生を送れるとは思っておりませんでした。死んだ者達も、満足して逝ったはずです。大儀であったと言って頂ければそれで満足です」
負傷兵隊を束ねる男が、代表してソーナリスに言うと、
「皆の者、大儀であった」
と、それに応えたソーナリス。
「有り難きお言葉」
と、その隊を纏める者が片膝を突き答え、その後ろに控える者たちは、それぞれが出来る格好で臣下の礼をとる。
皆が同じ形を取れずとも、その忠誠心はソーナリスには充分伝わった。
「ポー様達、お疲れ様です!」
クスナッツが、見張り棟から大声で叫ぶ。
「ポーちゃん達ありがとう〜」
ソーナリスもポーに声をかける。
ポーが尻尾を、大きく振って応えた。
微かに笑っているように見えたのは気のせいであろうか?




