恩返し1
運良く1つの中規模部隊が、北の第二砦と山頂の第三砦の中間地点から国境を越え、スネークス王国に侵入する事に成功した。
その部隊は、ザビーン帝国隠密部隊の1番格上の精鋭部隊である。
スネークス王国に編入した家の兵士達を襲い、次々と馬を手に入れると、街道をスネークス王城めがけ必死に駆けていた。
スネークス王国軍の精鋭達は、前線に出たため、治安維持部隊では、その精鋭部隊を止めることが出来なかった。
スネークス城に辿り着いたザビーン帝国の兵士は、正門へと向かう橋が、堀の中央で、堀と並行にある事に歯がみする。
「何で橋が堀と同じ向きなんだよっ!」
1人の兵士が叫ぶと、
「回転橋とか言うやつだ。内側からのロープで角度を変えるから、外からはどうしようも無い」
と、他の兵士が言う。
「仕方ない、対岸のあそこなら、堀から上がれそうだ、飛び込んで泳いで渡るとしよう」
城側の緩やかな傾斜の部分を指差して、指揮官が言った。
「命令は、王もしくは王妃の奪取、または殺害だ。王は前線で確認されたようだし、狙いは王妃だ!容姿はチンチクリンのペチャパイだ。それっぽい女は斬れ」
そう言った時、
「誰がチンチクリンのペチャパイだっ! 絶対殺すっ!」
と、叫んだ女性が居た。
見張り棟の上に、聞いていた容姿の女を見つけた兵士が、
「いたぞ! あの女だ!」
そう言って掘りに飛び込むザビーン帝国の兵士達。
ドボンと水に落ちる音に反応した、無数の瞳が音も無く静かに、水中から忍び寄る。
水面を平泳ぎで泳ぐ兵士の1人が、突然水中に消えた。
また1人、また1人と。
数人消えて、やっと兵士が減っている事に気が付いた者が現れる。
「おい! 減ってる! 人が減ってるぞ!」
「なにっ? 溺れたのか?」
泳ぎながらそう言った兵士の眼の前で、1人の兵士が沈んだ。
「おいっ! おかしいぞっ! この堀、何かいるぞっ!」
そう叫んだ兵士が、水中から浮き上がった。
いや、この表現は正しくないだろう。
牙のビッシリ生えた大きな口に挟まれ、水面上に持ち上げられたのだ。
その特徴的な口を見た兵士が、
「水竜だっ! 水竜がいるぞっ!」
と叫ぶ。
その声を聞き、
「なにっ! マズいっ! 急げっ! 食われるぞ!」
指揮官が叫ぶ。
それを聞き、兵士達が慌てて対岸目指してスピードを上げて泳ぐが、人の泳ぐスピードなど、たかが知れている。
徐々に兵士が減っていく。
もう少しで岸に辿り着くと思った兵士が、クリーム色の物体に水中に引き込まれた。それは今まで見た水竜の顎より一回り大きな顎だった。
ようやく岸に辿り着き、水から上がった兵士の胸に、吸い込まれるように1本の矢が突き刺さる。
「うっ」
と、呻き声を上げた兵士。
「いえ〜い! 命中!」
棟の上からソーナリスの声がした。
ペチャパイと言った兵をずっと弓矢で狙っていたのだ。
その後、見張り棟から無数の矢が降り注ぐ。上陸した兵士に向けて。
倒れた兵士を、水中から這い出てきた水竜が、咥えて水中に投げ飛ばす。
飛ばされた兵士はそのまま水中へと沈む。
次々に岸に上がる水竜。その中でも一際目立つ水竜が一匹。
「でっ、デカイッ!」
他の水竜の大きさが、5メートルを少し超えるかという体長なのに、一際目立つクリーム色の水竜だけ、10メートル近くあったのだ。
それを見た兵士が、
「おい、皆一斉に上がるぞ! 水竜より我らの方が数は多い! いまだ!」
個々に上陸しては、水竜と弓矢の餌食になると判断した者が、そう命令した。
いっせいに岸に上がるザビーン兵士。
弓矢が降り注ぎ次々と倒れる兵士達。
だが、矢が飛んでくるのを上手く避け水竜からも逃れたザビーン兵が数十人。
この部隊の手練れ達だった。




