撤退
その言葉と共に、続々とスネークス王国軍が、メンタル王城の周りから撤退を始める。
そして、
「では、ヴァンペルト男爵領軍よ、我らもスネークス王国に編入してもらおう。撤退だ!」
と、ヴァンペルト男爵が声をあげる。
「アボット辺境伯領軍、帰るぞ」
「ワイリー男爵領軍撤退!」
アボット辺境伯やワイリー男爵など、続々と撤退していく、いわゆるスネークス派の貴族家の領軍達。
西の領地の貴族が兵と共にほぼ帰り、北もアボット辺境伯領軍という、大部隊が撤退してしまう。
「カナーン子爵領軍……」
と、デコースが言おうとした時、
「デコース兄待った!」
と、デコースの耳元で囁く声。
「パッ」
と、デコースが声を上げそうになるのをパトリックが遮り、
「しっ! 静かに! デコース兄、ウィリアム陛下に味方してあげて。多分アンドレッティ殿はまともそうだったけど、ウィリアム陛下を守ってあげて」
「それでいいのか?」
「ソナの兄だしね。あの貴族達、うちで雇ってるダークエルフに聞いた、嫉妬をコントロールする魔法の症状に似てるんだよ。目が血走ってるし、理性的な話できないし、瞳が濁ってるし。だから同じ魔法使いのデコース兄に守って欲しい。確証は無いから、まだ口外しないでね。では頼んだよ。俺はウェインに話つけてくるから」
「わかった……それでパットが良いのなら」
「頼むよ。じゃあね」
そう言ってその場を離れるパトリック。
「ウェイン」
と、パトリックはウェインを見つけてコッソリ声をかける。
「パット、お前飛んでいったんじゃ?」
と、ウェインが小声でパトリックに応える。
「すぐ降りて戻ってきた。アンドレッティの御大は大丈夫そうだったけど、周りの貴族達の目付きがおかしい。おそらく魔法だ。デコース兄と一緒に、ウィリアム陛下を守ってあげて。それと城内は引っ掻き回してきたから、多分戦力は落ちてると思う。俺達が居なくても勝てるでしょ。ウィリアム陛下に、[頑張って!] って伝えておいて。じゃあね」
と、ウェインの肩をポンと叩いたパトリック。
「おいっ!」
ウェインの声に振り向かずに手だけ上げて、パトリックが走り去るのだった。
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「スネークス領に向けて、今すぐ進軍すべきではないのか?」
「翼竜に勝てるのか?」
「竜の1匹くらい」
「いやヤツのところには、2匹居るんだぞ!」
「今すぐ追いかければ! こっちは既に3人殺されてるんだぞ!」
「間に合う訳無いだろう! アッチは空飛んでるんだぞ!」
などと貴族達が言い合っているのを、忸怩たる思いで見つめるウィリアム。
「パトリック、すまん。私が不甲斐ないばかりに」
と、呟いた時、
「陛下、ちょっとよろしいですか?」
「ん? ウェイン・サイモンか、どうした?」
「パットから、いえスネークスから伝言です。実は……」
ウェインから伝え聞いた内容に、
「パトリック、ありがとう。マクレーンは私の手で片付ける。あの時の約束どおりにな!」
ウィリアムの目に、闘志と覚悟が漲るのだった。




