アーノルド執事
ベンドリック宰相は、執務室で喚いていた。
「何故南方面軍が、奴らと一緒に城を包囲しているんだ! プラム王国は何故まだ来ない! どうなっている! ケセロースキー!」
唾を飛ばしながら喚くベンドリック宰相。
「わかりません」
と言ったケセロースキーに、
「分からんで済むかっ!」
と怒鳴るベンドリック宰相。
「10日前から、何も情報が入ってこないのです。そろそろ最後に向かわせた部下が、戻ってくる頃かと」
「もういい! 下がれ!」
そう言って、ケセロースキーを下がらせると、
「おい、アーノルド! どうなっているんだ! このままでは私が破滅してしまう!」
と、ベンドリック宰相はダークエルフの執事の男に怒鳴る。
「なに、スネークスをこちら側に、取り込んでしまえば良いのです。元々は男爵家の三男。育ってきた環境を考えれば、欲に塗れていることでしょう。今の成り上がり方をみても、それは明白でしょう。金と権力を着々と手に入れていっているのがその証拠。今まで奴と接触する機会が無かったですが、今なら城のすぐ外に居ますからな。王国の西全てをヤツにやると言えば、こっちに転がってもおかしくないでしょう?」
と、冷静な顔でアーノルド執事が答える。
「奴の妻はウィリアムの直妹だぞ?」
と、ベンドリック宰相が言うと、
「あんなチンチクリンの色気の無い小娘1人より、多くの色気の有る美女をあてがえば良いのです。離宮に軟禁しているソフィア第2王女や、侍女のシータなど、胸の大きな美人がいっぱいいるでしょう?」
「シータはダメだ!」
と、シータを使う事を拒否するベンドリック宰相。
「何故です?」
「ダメなものはダメだ!」
「まあいいです。ソフィア第2王女や他の女を使いましょう。領地と爵位と女、それで懐柔して裏切らせれば、あちらは総崩れとなりましょう。何せ翼竜がいるのですから!」
「上手くいくのか?」
「私の魔法もありますしね」
「嫉妬や欲をコントロールするだったか?」
「はい、人という生き物は、多かれ少なかれ絶えず嫉妬しているものです。あいつは良い家の出でズルイ。金持ちで悔しい。そんな気持ちがあるからこその出世でしょうから、かなり嫉妬深いかと。嫉妬が大きいほど、私の魔法はかかりやすいのです」
「マクレーンのようにか?」
「マクレーン殿下は、嫉妬塗れですぐかかりましたね。王になりたい、女が欲しい。強くなりたいなど。まあ、スネークスみたいになりたいというのもありましたがね。意味がよく分からなかったですけどね。さあ、紅茶でも飲んで落ち着いて下さい」
そう言って、アーノルドが出した紅茶を、ベンドリックが飲んだ。
すると、途端にベンドリック宰相の目の焦点がおかしくなり、白目の部分が少し血走ってきた。
「ふう、少し薬が切れかけでしたね。危ない危ない。ついでに魔法も重ね掛けしておくとしますか」
そう言ってベンドリック宰相の額に指を当て、何やらゴニョゴニョ呟きだすと、
「嫉妬の神よ、この力を与えてくれた事に感謝します」
そう言って懐から小さな宝石と、小指ほどの刃渡りのナイフを取り出すと、自身の小指の先をナイフで少し切り、滴り落ちる血液を宝石に染み込ませてゆく。黄土色の宝石がみるみる黒に染まっていくと、黒いモヤのようなものが宝石から発生し、ベンドリックを包み込んだ。
そしてそれは、王城の至るところに広がり、マクレーンやシータ、その他の人々も包み込み、城の外にまで薄くだが拡散していく。
「クククッ、我が神の力は最強なのかもしれん。魔法にかかった者が、少し理性が飛んで、ちゃんとした思考が出来なくなるが、それくらいは仕方ないし、なんとでもなるだろう。帝国め。今に見ていろ!」
そう呟いた執事のアーノルド。




