第46話
現在、レイガの目の前では1人のドヴェルグ(この世界におけるドワーフ種の最高位種)が鼻息を荒くしていた。
「是非儂らにやらせてくれ!頼む!金は要らんからこの通りじゃ!」
地面に頭を擦り付けそうになりながらそのドヴェルグは叫ぶようにそう言った。
なぜこんな状況になっているのか。
その発端は数十分前に遡る。
◇◆◇◆◇
「いい建築業者を紹介してくれ」というレイガの頼みにアルベールは頭を悩ませた。
ここは商業ギルド。鍛冶ギルドや土木ギルドといったギルドとはかなり密に関係を持っている。尚且つ、ここは帝国本部。いい建築業者をと一口に言っても、その数はそれなりに多かった。
それに、レイガの言ういい建築業者というものの内容にもよった。
装飾が得意な建築業者が必要なのか、大規模建築ができる業者が必要なのか。
そんな思考の末に、アルベールが使いを出したのは帝国……いや、世界でもここ以外にないであろうとある特徴をもった建築会社。
ハイドワーフとドヴェルグが集う、最高峰の建築会社だった。
アルベールが使いを出して数十分。
商業ギルドの人間に連れて来られたのは浅黒い肌のドワーフいや、ドヴェルグだった。
「ゾルグ!よく来てくれましたね」
「はっ!テメェに呼び出されるなんざ癪じゃがな。仕事と聞いては是非もないわい。だがな?つまらん仕事だったら受けんぞ」
「ははは、それはきっと平気でしょう」
その会話を聞いてレイガはなにを勝手に。と思わずには居られなかった。
「それで?依頼主はどこだ?」
「こちらの方です」
「どうも」
アルベールがレイガを指す。
「コイツか?」
「この方です」
「なるほど。坊主、一応聞くがなにを建てるつもりだ?小さな家程度なら儂らは仕事を受けんぞ」
ゾルグの言う小さな家というのは幾つかの意味を含んでいた。
大きさは勿論のこと、使う資材、使う金、使う人数。それらを含めて
小さな家と言っているのだ。
「それなら大丈夫ですよ、ゾルグ。ですよね?ヴァレンシュタイン様」
「ええ、まあ。えーと、オルレア区の11番地でしたか」
「はい。そのとおりです」
「そこに家を建てたいと思っています」
「オルレアの11か。なるほど。話は聞こうか」
ゾルグはそう言うと、椅子にドカリと座った。
「ああ、忘れていた。
儂はゾルグ・ダンク。建築会社をやっとる。まあ、家具なんかも作ってんだけどよ」
「レイガ・ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします」
「それで?家と言ったか、どんなのが望みだ」
「聞いたところ……敷地自体は3ヘクタール程らしいですからまあ、その六割程度を建物にしてもらえれば」
「なるほど」
「建材に関してはこれらを使ってもらえればと思っています。それと、家具なんかも頼みたいと思っています」
レイガはそう言うと、15×30センチの大きさにカットした厚さ10センチ程の石材と、とある木を取り出した。
「こ、こりゃあ……貴龍石か。それにこっちは……魔力を──それも強力な魔力を帯びた霊木か」
「とある島で採ってきたものです。数ならいくらでもあります。
代金に関しても、5億までならすぐに出せます。引き受けて下さいますか?」
レイガの問いにゾルグは……
「是非儂らにやらせてくれ!頼む!金は要らんからこの通りじゃ!」
頭を地面に擦り付けんばかりにそう答えた。
「5億って……言うと」
「日本円で50億円」
「普通そんなするものなんですか?家って。ハクアさん、5億CRって普通なんですか?」
詩音、咲耶、ほのかは思わずと行った形でハクアに質問する。
「普通……じゃない。
貴族の中でも裕福な方……上級貴族の屋敷でも2億以上掛かるのは稀。でも、それは資材も含めた値段……レイガは資材を出すと言ってるからそれを含めればかなりの異常」
そんな会話を聞きながら、レイガはゾルグに頭を上げさせた。
そして、結局。
代金は1億CRに落ち着いた。というより、レイガは全力で納得させた。本当はもっと払おうと思っていたのだ。
そして、肝心の内容について。
資材はレイガ持ち。
家と庭、家具の設計、作成はゾルグたちが。
また、資材に魔術刻印を施すのもゾルグの会社のものが。
工期はゾルグの会社が全力を持って行うために予定は3ヶ月。さらに、レイガがゴーレムを貸し出す上に、ゾルグの昔馴染みが応援に来れるかもしれないということで縮まる可能性もある。
そんなわけで。
レイガの忙しい一日のメインイベントは幕を閉じたのであった。




