072 テイク2
カールスタード王との面談は、フィリップの勝ちのようにも見えたダグマーなのだが、説教をした手前、そのまま趣味に走ってフィリップを痛め付けた。フィリップも受け入れていたが、ダグマーは借金の件を思い出してストップ。
残念そうにするフィリップには皇帝宛ての手紙を書かせて、ダグマーは違うテーブルで上司宛の報告書を書く。ダグマーは何か気になる報告があるらしい。
フィリップが書いた手紙は、変なことを書いていないかとダグマーはしっかり確認し、報告書と共にフィリップが自分の手で手紙を入れて蝋で封をする。その時、フィリップは手紙を入れ替えていたけどね。
フィリップの手紙ならば借金の融通だと思って、カールスタード側が勝手に開けないから無事に報告書も届くといった寸法だ。
ダグマーが早馬便に手紙を出して戻って来たら、さっきのお仕置きっぽい趣味の続き。フィリップはじらされた分、余計に楽しみすぎて、ラーシュと会うことを忘れて夜になってしまった。
ダグマーが出て行くとフィリップは夜の街に繰り出し、急いでクリスティーネと合流したら、お掃除団のホームに幹部を集めた。
「僕が集めた情報に、ちょっとマズイ物があったから皆で共有してほしい」
フィリップが珍しく深刻に発表するので、全員、何事かと構えた。
「近々王様が、この国全ての人からお金を集めようとしている」
この発表には、全員絶句。ただでさえ国民は困窮しているのに、さらに取ろうとしているのかと……
そこで一番先に復活したのは、クリスティーネ。テーブルを叩いて立ち上がった。
「こんなに税金を取ってるのに、国王は何を考えているのですか!」
「ほら? 城に泥棒が入ったでしょ? その補填だよ。今回のは繋ぎ資金で、他国から借金して補うみたい。ま、その借金返すのに、また税金上げるだろうね」
「そ、それって……」
「だね。国民に死ねって言ってるようなモノだね。アハハハハ」
クリスティーネが「お前のせい」と言い掛けたので、フィリップは笑ってごまかしながら「黙ってろ」と目で訴えた。
「んで、その対策だ。たぶんスラム街の住人には安い額になると思うから、払えそうなら払って。払えないなら時間を引き延ばして。これもたぶんだけど、払う意志を見せたら無理に徴収しないと思うから。絶対に反抗だけはしないで。もしもの時は、僕が出すからね?」
フィリップの対策案に、全員温いと思ったようだけど、クリスティーネだけが賛成してくれる。
「聞きましたね? ハタチさんが出してくれるのですから、スラム街の人には被害はありません。ここは呑みましょう。その後の策も、ハタチさんにあるはずです」
「さすが僕の彼女~。わかってる~」
「茶化さないでくださ……揉まないでください!」
フィリップがクリスティーネの大きな物を揉むので、クリスティーネは手を叩き落としていた。皆は「なにイチャイチャしてんだ」って目で見てるけど……
「まぁみんなには仕事をしてもらうよ。まずはスラム街の全員に、このことを守らせて。そして、2級市民や3級市民に、さらなる増税の話をして不安を煽ってくれ。それだけで王様を非難する味方が増えるからね。これで国はガタガタだ。ニヒヒ」
「「「「「はっ!」」」」」
フィリップが悪い顔で笑うなか、幹部たちは散り散りに動き出したのであった……
「どういうことですか……」
クリスティーネの部屋に入ってフィリップがベッドに飛び込むと、クリスティーネは怒ったような顔で問い質した。
「さっき説明した通りだけど~?」
「盗んだのはハタチさんでしょ! それで国民の負担が増えたら本末転倒でしょ!!」
「だから、クリちゃんの味方が増えるって言ったじゃ~ん」
「それならその時言ってくださいよ! 合わせるの大変でしょ!!」
「まずは落ち着こう? こっちおいで~??」
「その手には乗りません!!」
ベッドの上はフィリップのテリトリーだから力業で黙らされるので、頑なに近付かないクリスティーネ。しかし、フィリップは力業でベッドに押し倒したから、結果は一緒だ。
「や、やめて……」
「そんな泣きそうな顔しないでよ~。嫌なら手を出さないから。ね?」
「じゃあ、怒っていいですか?」
「だからまずは落ち着いて僕の話を聞いて」
「はい……」
クリスティーネの力が抜けると、フィリップは隣に寝転んで頭を撫でる。
「これまでのことも盗みの件も、全て種蒔きだよ」
「種蒔き、ですか……」
「スラム街の住人を健康にして味方に付けたでしょ? この人たちの声だけでは、その他の人は国側に付いてしまう。だから不満を募らせて味方に付けるんだ」
実はフィリップは、カールスタード王と話をした時に罠を張っていた。そう、国民全員から銅貨1枚を徴収しろってアレだ。
強欲なカールスタード王ならば、身分の違いを使って額を変えるとフィリップは読んでいるし、必ず起こる未来だと確信している。
「お金を集め出したら勝負の時だ。間もなく時代が動き出す。この流れに乗れなかったら、クリちゃんは一生君主にはなれない。覚悟はできてる?」
突然やって来た開始の合図に、クリスティーネは目を閉じた。その間、フィリップは黙って見詰め、数分後、クリスティーネは目を見開いた。
「はい。この時のために、私は生かされて来ました。一族の復讐ではなく、民のために立ち上がる所存です。それが、亡きひいお婆様の弔いとなるはずです! 私がこの国を変えてみせます!!」
今回の決意表明は、裸ではないのでフィリップにも心に響いた。
「いいね~。復讐じゃなくて民のためっての、グッと来たよ。その調子で、民の前でもかっこつけるんだよ~?」
ような気がしただけかも?
「もう~。なんで茶化すんですか~。恥ずかしいじゃないですか~」
「練習練習。違うパターンもやっておく?」
「ムリ! はい。今日はここまで。やりますよ~?」
「アハハ。クリちゃんが僕みたいになって来た~」
「彼女ですもん。似て当然です」
というわけで、恥ずかしいのでテイク2はなし。クリスティーネは照れ隠しで、フィリップを脱がすのであったとさ。




