060 隠し通路に侵入
墓地にて発見した古びた石碑を動かしたら、地下に真っ直ぐ下りる穴が姿を現した。
「うお~。当ったり~」
「ありましたね!」
その発見に、フィリップとクリスティーネは飛び跳ねて喜んでから調査を始める。
「これ、下りるのけっこう勇気いるね」
「はい……夜だとさらに」
「虫とかいたら嫌だな~……」
でも、入るのは気持ち悪いので、心を落ち着けてから。フィリップは何度も肩辺りまでハシゴを下りては戻ったりを繰り返し、やっと覚悟を決めて下りて行ったけど……
「ぎゃ~! 虫! ゲジゲジいた! ブハッ。蜘蛛の巣食った~。うわ~~~ん」
ギャーギャー叫び、半泣きで下りて行ったとさ。
「あ、本当に道になってますね」
フィリップが一番下に着いてクリスティーネを呼ぶと、クリスティーネもギャーギャー騒ぎながら下りて来た。ここは人間が1人通れる幅の一本道の地下道。ランタンの明かりでは、暗闇に光を吸い取られて数メートル先が見えるのがやっとだ。
「この方向ってことは、城に向かっていると思うけど、光が足りないよな~……クリちゃんって魔法とか使えないの?」
「はい。適性検査も受けられませんでしたので……」
「市民権もないんだから、そりゃそうか。じゃあさ、僕が言う通りやってみて」
「はあ……」
フィリップの魔法は暗闇では役立たずなので、ここはクリスティーネ頼り。裏技で魔法が使えないか試してみる。
右の手の平に意識を集中させて、まずは使える人が多い風魔法を想像させる。それが外れたら、水、土、火と想像させて、本命の光魔法。
「「目が~~~!!」」
いきなり強い光が出たので、2人して仰け反った。
「つぅ~……ご都合主義的な物を引き当てたな……ひょっとしてこのイベントって、乙女ゲームの続編の設定とか? フィリップルートではこんな話なかったし……」
目を擦りながらフィリップが考察していたら、クリスティーネが興奮して手を取った。
「凄いです! 私、魔法なんて使えたのですね!!」
「みたいだね」
「それを検査なしでわかるなんて、ハタチさんは凄いです!!」
「うん。ありがと。でも、この方法は2人だけの秘密ね?」
「どうしてですか?」
「世界の理がガラッと変わるからだよ。もしも平民や奴隷までも魔法が簡単に使えると知ったら、調子に乗った馬鹿が現れるでしょ? 取り締まりの体制もないのに広めちゃうと、町中が大荒れになっちゃうからね」
「確かに危険ですね……わかりました。誰にも言いません」
クリスティーネは素直に了承してくれたので、フィリップが光魔法の効率的な魔法を提案して練習していたら、懐中電灯ぐらいの明かりが出せるようになった。
「これは便利ですね~。それにしても、魔法まで精通しているなんて……ハタチさんも使えるのですよね?」
「僕? 僕は水魔法をちょっとだけね。あ、そうだ。手を出して」
「わ~。水が浮いてます~」
「汚れてるから洗って。さっき目を擦っていたでしょ? 目も綺麗にしておこう。病気になっちゃうよ」
「はい!」
ひとまずフィリップは水魔法使いだとごまかして、2人とも綺麗さっぱりしたら地下道を進んで行くのであった。
先頭はフィリップ。大きめのスコップを顔の前に出して蜘蛛の巣対策をしてるな。後ろのクリスティーネがフィリップの頭に右手を乗せて、照らしながら進んで行く。
「かなり歩きましたよね?」
「だね~。城はまだまだ先だと思うんだけど……疲れた? おんぶしよっか??」
「いえ、まだいけます」
「帰りもあるんだよ? 走って逃げる場面もあるかもしれないから、無理しないで」
「は、はい。お願いします」
フィリップはクリスティーネをおぶると、自然と顔がニヤけてる。
「おお~」
「どうかしました?」
「いや~。柔らかい物が頭に乗ってるから、新感覚だと思ってね」
「もう……エッチ……」
「そうだよ~? 早く帰って抱きたくなっちゃった。ちょっと急ぐね~」
「う~ん……求められるのは嬉しいのですけど、いま言うことなのかな~??」
その感触でヤル気が出たフィリップであったが、クリスティーネはいまいちやる気が出ないのであったとさ。
それから先程までの3倍近い速度で進んでいたら、分かれ道が出て来たので地図通り慎重に進み、3回目の分かれ道でフィリップは足を止めた。
「いちおう聞くけど、道は間違ってないよね?」
「たぶん……」
「一旦戻りま~す」
クリスティーネは自信がなさそうだったので、来た道を戻って地図を見せてもらったフィリップ。
「えっと……ひとつめから間違えてたよ?」
「アレ? あっ! 本当ですね!!」
「これ、迷ったら出れないヤツじゃん……」
「申し訳ありません……」
「僕も任せっきりだったから気にしないで。念の為、目印付けて行こう」
城の地下は、大迷宮。地図を見ても迷いそうだったので、壁を削って目印を付けながら慎重に2人で確認して進んで行くフィリップたちであった。
それから幾度となく分かれ道を進んだフィリップたちは、ようやく行き止まりに到着した。
「ハシゴがあるね。ここがゴールかな?」
「おそらく……」
「その先はどこに出るってなってるの??」
フィリップが問うと、クリスティーネは冊子を捲って光魔法で照らす。
「えっと……城内の隠し通路みたいですね」
「なら登っても大丈夫かな? いや、改築したって言ってたっけ??」
「はい。最悪、その先は塞がっています」
「祈るしかないか~。よし、行こう」
フィリップから先にハシゴを登って行くと、蜘蛛の巣に顔を突っ込んで悲鳴を上げそうになっていた。なんとか我慢して登り切ると、穴を中心に少し広い部屋の中に出た。
「これが隠し通路ね。右に行くと何があるのかな?」
「階段ですね。ここはまだ地下みたいです。左も階段で……中庭に出るみたいです」
「んじゃ、右から行ってみよう。あ、光量落として。どこから漏れるかわからないからね」
「はい」
省エネ光魔法で階段を上がると、その先に光っている穴を見付けたので2人でコソコソと覗き見る。
「ロウソクがあるってことは、ここは使われているってことだね。たぶん地下牢かな?」
「はい……一族悲願の我が家に、ようやく帰れました……」
「わっ。泣かないで。一旦戻ろう」
クリスティーネが感極まって大粒の涙を落とすので、大声を出されては困るフィリップは、担いで階段を走り下りるのであった……




