第二皇子、行方不明だってよ2
カイサとオーセは証拠隠滅したあとに、「やっぱり報告しないとダメだよね?」と話し合って、フィリップが出て行ったことをフレドリクに伝えに来た。
いきなり面会は難しいと思っていたけど、執務室の前室にいる執事に「殿下がどこかに行ってしまったのですが」と伝えたら、仕事そっちのけでフレドリクは会ってくれた。
「フィリップが1人で旅に出ただと!?」
まずはテーブルの上に無造作に置かれていた用紙を見せたら、フレドリクは声を荒らげたのでちょっと怖い2人。怒った顔もカッコイイとか思ってるけど。
「誰も気付かなかったのか?」
「申し訳ありません! 寝ていて気付きませんでした!」
「夜勤の騎士様も、誰も見ていないと言ってました!」
フレドリクの質問には恐怖を感じる2人。イケメンでも皇帝の言葉はそれを覆すほど重いのだ。
「そう怖がらないでくれ。質問しているだけだ。フィリップはこの紙以外に、何か残して行かなかったか?」
「はい。私たちに向けた手紙を……」
カイサは数歩前に出ると、頭を下げて手紙を差し出した。
「戻るとなっているな……フィリップの行きそうな場所に心当たりはないか?」
「いえ……出掛けることも少なかったので」
「よく行っていた場所と言えば、貴族街のデパートか平民街をブラブラするぐらいです。でも、ここ最近は体調が優れなくて足が遠のいていました」
「そうか……」
フレドリクが考える仕草をするなか、カイサは意を決して質問する。
「あの……私たちは何か罪に問われるのでしょうか……」
「昔は皇子を見失った家臣を罰することはあったが、私は君たちを裁くつもりはない。フィリップも成人した大人だ。家臣を欺いて勝手に出歩くフィリップも悪い」
フレドリクの答えに心底ホッとする2人。
「そもそも私もフィリップに強く言い過ぎた。それのせいかもしれない……いや、忘れてくれ」
「「はい!」」
しかしフレドリクが暗い顔をしたので、「その顔は初めて見た!」とちょっと胸を高鳴らせた。どんな顔でもカッコイイんだって。
「ひとまずフィリップの捜索を開始する。さすがに帝都を出ることはできないだろうから、すぐに見付かるはずだ。君たちは屋敷に戻ってフィリップの帰りを待っていてくれ」
「「はいっ!」」
カイサとオーセは、命拾いしたと思うよりもフレドリクの優しい微笑みを見てキュンキュン。フィリップの心配すらせずに根城に帰って行くのであった。
それから1週間。カイサたちもフィリップはすぐに見付かると思っていたが、フレドリクから毎日「まだ見付からない」と認めた手紙が届いていたから、不安が募る。
「陛下、文字もイケメンよね~?」
「ね~? 私、先祖代々の家宝にする!」
いや、カイサとオーセはラブレター気分。ただの報告書みたいな物なのに、オーセは何を言ってるんだか……
そんな矢先、フレドリクに呼び出されたので、2人は喜んで出向いて行った。
「フィリップだが、帝都には誰も見掛けた者がいないのだ。本当に行き先に心当たりはないか?」
「「え……」」
ここでやっとフィリップが心配になった2人。天才フレドリクが捜して見付からないなんて、ありえないと思っていたのだ。
「しいてあげるなら……奴隷館のキャロリーナ様のところとか……仲が良く見えましたので」
「それはヨンスから聞いてすぐに向かった。父上が亡くなってから一度も会っていなかったのだ」
「他だと、誕生日パーティーに出席していた人たちぐらいしか思い付きません」
「それも真っ先に聞き取りをした。全員、見てもいないとの答えだ。本当にフィリップはどこに行ったのだ……」
ここまでして見付からないなら、フィリップの捜索を帝国全土に広げることにしたフレドリク。それはいつフィリップが帰って来るかわからないことを意味する。
「ところで君たちはこれからどうする?」
フィリップがいないのだから、フレドリクはカイサたちの処遇を考えなくてはならないのだ。
「できれば今まで通り、殿下の屋敷で働きたいのですが……騎士様も全員残りたいと言っていました」
「フフ。フィリップはこんなに慕われていたんだな。わかった好きにするといい」
カイサたちは慕っていたと言ってもいいが、護衛騎士たちは微妙に違う。1人はフィリップから脅されていただけ。残りは「いまここから出たらヤバくね?」と、自己保身で残ることに決めたのだ。
給料アップもフィリップの根城に残る最大の決め手になったんだとか。
「発言してもよろしいでしょうか?」
「ああ。なんでも言ってくれ」
「ありがとうございます。私たちの仕事のことですが……民の税から給金をいただいているのですから、屋敷の維持だけでは申し訳ありません。何か仕事をいただけたら幸いなのですが……」
どうやらカイサたちは、暇って言いたいみたい。護衛騎士たちもたまにはちゃんとした仕事がしたいと言ってたらしい。
「それもそうだな。フィリップがいなくては手が空くか……うん。人手が必要な時には屋敷の者に仕事を回すことにしよう」
「「ありがとうございます!」」
「いや。こちらこそだ。民の税を使って働いていることを充分理解しているとは、立派な心掛けだ。そのことを思い出させてくれて感謝する」
「「めめめ、滅相もございませんです」」
こうしてカイサとオーセは今日もフィリップの心配を忘れて、フレドリクにキュンキュンして根城に帰って行くのであった。




