第二皇子、行方不明だってよ1
ここはフィリップの根城の寝室。朝日が昇ると、超豪華なベッドで寝ていたカイサとオーセは清々しく目覚めた。
「ふわ……おはよう」
「ふわぁ~……おはよ~」
軽く背伸びをした2人は、いつも通りの朝の挨拶をしている。
「プーちゃんもおはよう」
「おはよ~……って、寝てるか」
「だね」
この根城の主人はフィリップ。2人がベッドを共にした日は必ずフィリップにも挨拶をしているが、返って来たことはないんだって。
それはいつものことなので、2人は仕事をしようとベッドから左右に分かれて抜け出した。そしてメイド服に袖を通している時に、ふと違和感を感じた。
「なんか静かじゃない?」
「うん……プーくんの寝息が聞こえないね」
「布団は膨らんでるけど……」
「動きもないね……」
そう、フィリップの生体反応がないのだ。
一緒に寝た日は必ずフィリップは真ん中で寝ていたから、そんなまさかと2人は布団をまさぐる。しかし発見に至らないので、布団はベッドの上から引き剥がした。
「「あれ??」」
「トイレかな?」
「プーく~ん?」
そこまでやってもフィリップは見付からないので、2人は着替えを中断して部屋中を探したが見付からず。この事態には、さすがに2人もフィリップの安否を心配する。
「まさか……また娼館行ってるとか?」
「ありそう! そのまま力尽きて帰って来れなかったんじゃない??」
いや、普段の行いが悪いせいで全然心配されてないね。ただ、太陽が昇る前にはフィリップは帰って来ているから、その点だけは腑に落ちないみたいだ。
「まさかとは思うけど……一昨日、あんなことあったから逃げたとかないよね?」
「まっさか~……プーくんならありそう……」
そこで浮かんだのが、フィリップ逃亡説。面倒事を嫌うフィリップならやりそうなんだもん。
「というか、これって私たちも責任問題になるかも?」
「ええ!?」
カイサとオーセはフィリップの心配するのかと思いきや、自分の心配。フレドリクに知られたらと震えてる。
なので、フィリップはちょっと出掛けているだけだと2人はお互いに言い聞かせ合うのであった。
ひとまずフィリップを待とうということに決まったカイサとオーセであったが、まだ気になることがあるみたいだ。
「昨日のプーちゃんも変だったのよね」
「ああ~。珍しく感謝したり好きとか言ってたね」
「それに給金も上がったじゃない? 私たちだけじゃなく、騎士様も。プーちゃん、騎士様には冷たいのに変じゃない?」
「そう? 娼館とか奢っていたから、そこまで変に思えないな~」
「それがそもそも変だけど……」
2人はフィリップのことを変だ変だと口走りながらメイド服を着たら、朝食の準備をしようとオープンキッチンに移動し、そこで布巾を手に持ったオーセがテーブルを拭きに向かった。
「カ……カイサ! カイサ! ちょっとちょっと!!」
するとオーセが大声で呼ぶので、カイサはキッチンから出て来て訝しんだ顔をする。
「急に大声出してどうしたのよ」
「こここ、これ! プーくんが!?」
「これ? プーちゃん? あれ??」
オーセが震える指で差した先には1枚の用紙と手紙の束があった。カイサはどれを指差しているのかわからないので、用紙と手紙を交互に見てから用紙に目を止めた。
「旅に出ます。探さないでください。フィリップ・ロズブローク……」
カイサは用紙に書いている文字を最後まで読んでから絶句した。
「カ、カイサ! どうする!? どうしたらいい!?」
するとオーセに揺さ振られて気を持ち直したカイサだったが、そんなことを言われてもわかるわけがない。
「陛下! 陛下に報告すべきよね!?」
「ちょ、ちょっと待って。その前に手紙。手紙に私たちの名前がある。プーちゃん、何か指示を書いてるかも?」
「あ、うん。そ、そうだね。そうしよう」
「……読むね? 何も告げず出て行く僕を許してください……」
フィリップの手紙は謝罪から始まり、根城で働く人の給料やその他の支払いをカイサたちがやること。
騎士の1人の名前が書いてあり、その者は必ず残ると約束してくれたから守ってくれること。必ず戻るから屋敷で待っていてほしいことが箇条書きで書いてあった。
「そ、それで終わり? どうしたらいいかは書いてなかったの??」
「終わりだけど……あ、2枚目があるわ。これは他言無用。皇帝陛下にも喋らないことだって……」
2枚目の手紙は守秘義務から始まり、自分がいなくなったら手紙の宛名の者が訪ねて来るはずだから密かに渡すこと。宛名の者が皇帝に疑われるから手紙を秘密にすること。
もしもの事が起こったら金庫のお金は自由に使っていいこと。自分が密かに根城を抜け出していたことを秘密にすること。薬屋で人に会っていたことを秘密にすること。最後に2枚目の手紙は燃やして証拠隠滅するようにと締められていた。
「手紙を燃やせって、どういうことだろ?」
「たぶん、ペトロネラ様の手紙とかは知られたくないってことじゃない? 内容はわからないけど、謀反の指示を書いてあるとか……」
「プーくんはそんなことしないよ~。アレじゃない? 謀反の指示だと疑われそうだからだよ。迷惑が掛かるかもしれないってなってたし」
「そ、そうよね。考え過ぎよね」
オーセの言葉に納得したカイサ。しかし、まだ謎が残っているからオーセの質問は続く。
「もしもの事ってなんだろ?」
「さすがにわからないわね~……ちょっと金庫確認してみよっか?」
「うん」
2人で金庫を開けて確認してみると、パンパンの革袋に「もしもの時用。裏金」と張り付けてあったので、同時に頭を押さえた。
「堂々と裏金って書かないでよ~」
「馬鹿よね。でも、私たちが自由に使っていいお金はこっちってことじゃない? 帳簿は分けろってことよ」
「そういうことなんだ。でも、これ、どうする? 陛下が見るかもしれないよ?」
「う~ん……燃やそっか?」
「だね。あっちの手紙も、プーくんが抜け出してるとか書いてたし」
ヤバイ文章は破棄。フィリップのためではなく、カイサとオーセは自分のために証拠隠滅してしまうのであった。
フィリップはそれを見越して書いていたんだけどね。




