514 フィリップの旅立ち其の2
「そんなの預かれないわよ!!」
フィリップが床に白金貨千枚を積んだからには、キャロリーナも激怒。1枚でもたまに見る程度なのに、山積みされたら怖いに決まってる。
白金貨を見るのは、だいたいフィリップが出した時ぐらいだし……
「えぇ~……金貨はあまりないんだよな~。保管するスペースもないでしょ?」
「そういう問題じゃなくてね。大金をポンッと出すところよ……というか、どこから出したの??」
「この指輪~。言ってもわからないと思うから、これひとつあれば大量に物を持ち運びできるとだけ覚えておいて」
フィリップは左手の人差し指を見せたら、鎧など大きな物を出し入れしてキャロリーナを驚かせる。
「意味がわからない……世の中にはそんな物があったなんて……」
「そそ。ダンジョンの中で手に入れた。キャロちゃんと初めて会った頃にはもう持ってたよ」
「ダンジョン? そんな子供の頃から入ってたの??」
「そそ。だから僕、兄貴より強いよ。瞬殺できると思う」
「そんなワケ……」
「それがあるんだな~。魔法も使えるし。ここに入るのも氷を壁にくっつけてたの。こんな風に……」
ついでにフィリップの強さの秘密を披露。キャロリーナは強いことは知っていたが、魔法に関しては初めて聞いたのでこれにも驚いていた。
「こんなに秘密だらけだったなんて……」
フィリップの謎に触れたキャロリーナは、もうお腹いっぱいだ。
「それより僕、急いでるの~。金貨、あるだけここに出していい?」
「ええ……いえ、嫌な予感しかしないわ。場所を変えましょう。ちょうど、新店舗用の建物を買ったところだったの」
「う~ん……僕につかまってくれる?」
「それも嫌な予感しかしないんだけど~~~??」
キャロリーナの嫌な予感、正解。フィリップはキャロリーナをお姫様抱っこしたら、窓から飛び出し屋根を飛び交うのであったとさ。
「ソ、ソラ、トンダ」
恐怖体験をしたキャロリーナ、目的の店舗に着いたらカタコトに。怖かったんだね。
「ゴメン。本当に急いでるんだ。どこに出したらいい?」
「アッチ……アルケナイ……」
「うんうん。いくらでも抱っこするよ~」
キャロリーナは腰を抜かしているので、再びお姫様抱っこ。フィリップが歩き、キャロリーナが鍵を開けて奥へと進む。
そうして隠し扉を通って地下室に入ると、重厚な扉が現れた。
「わ~お。おあつらえ向きの建物だね~。金貸しでもやるつもりだったの?」
「いえ。たまたま付いてたのよ。前の持ち主が貴族で、貴族街では保管できない物を保管していたとかどうとか……」
「曰く付きの物件……」
「ウフフ。お金とかぁ美術品だからぁ心配しないでぇ」
どうやら不正していた貴族が全てを没収されて、その家が売りに出されていたからキャロリーナが買ったとのこと。フィリップは拷問部屋かと顔を青くしていたので、その顔を見たキャロリーナはようやく調子が戻って来た。
「んじゃ、出すね~?」
「うん……はぁ~~~……」
でも、恐ろしい量の金貨が出て来たから、もうため息しか出ないよね。白金貨も200枚ほどこっそり積まれてあるよ。
「これで全部。たぶん帝都に住む人は、1年後には財布の紐が堅くなるから、その時から少しずつ出して夜の街を守って。2年後には、夜の街は商売なんてしてられないかもしれない。その時は困っている人に配ってあげて。
あとは~……麦も今から少しずつ買って保管しておいたほうがいいね。それを金持ちには高く売って、貧乏人にはタダで配ってくれたら助かる。あ、絶対に国にはバレないようにやって。最悪、捕まっちゃうから」
フィリップがお金の使い道を説明すると、キャロリーナも目をパチクリさせた。
「殿下が賢いこと言ってる……」
「そうだよ~? 僕、本当は賢いの。計算器を作ったのも、僕~。馬鹿を演じていたのは、国をふたつに割らないためだよ。ゴメンね。秘密だらけで」
「俄かには信じられないけど……女好きも演技なの?」
「それはホント。仕事もせずに女を抱き続けて生きていけたら、僕はそれだけで幸せだったんだけどな~……」
「悲しそうな言い方しても、最低なこと言ってるわよ? わかってる??」
「そりゃそうか! アハハハハハ」
フィリップ、大笑い。「秘密がいくらあろうと殿下は殿下だな~」っと、キャロリーナは優しい顔で見詰めるのであった……
建物を施錠した2人は、再び屋根を飛び交う。そして奴隷館の私室に届けられたキャロリーナは、フィリップの首から腕を離さない。
「殿下わぁ、これからどうするのぉ?」
秘密を聞いたり大金を預けられたりしたから、女の勘が働いたのだ。
「僕はしばらく身を隠す」
「やっぱり……」
フィリップがいなくなることをだ。
「キャロちゃんとは10年以上の付き合いになるのか~……離れるのは寂しいな」
「あたしもよぉ……」
「同じ気持ちでよかった。僕、キャロちゃんのこと大好きだから。たぶん3年後には戻って来るから、それまで待ってて」
「あたしの3年後なんて、もう見る影もないかも知れないわよぉ?」
「出会った時にも言ったでしょ。オバサンなんてとんでもない。めっちゃタイプって。3年後は、きっとさらに、いい女に磨きが掛かってるよ」
フィリップの屈託のない笑顔に、キャロリーナからも笑みが漏れる。
「ウフフ。それじゃあ頑張らないとねぇ……こんなオバサンを好きでいてくれてありがとう」
「僕のほうこそ。子供だった僕を受け入れてくれてありがとう。大好き!」
こうしてフィリップは、時間がないとか言っていたのに、キャロリーナと激しいマッサージを行うのであった。
さすがにフィリップも2回戦したところで急いでいたことを思い出したので、名残惜しいけどマッサージは終了。
第二皇子とキンさんが同時に消えるとわかる人には気付かれてしまうので、1ヶ月ぐらいはカモフラージュしてくれとキャロリーナに頼んでいた。
「んじゃ、行くね」
「ええ。ところでどこに身を隠すのぉ?」
「それは言えないよ。いつ戻るかを喋ったのはキャロちゃんだけだから、それで許して」
「それは嬉しいんだけどねぇ……」
「くれぐれも喋らないでね? 帝国の存亡が掛かってるから」
「わかっているわよぉ。殿下も無理だけはしないでねぇ」
「うん! それじゃあまたね~」
「また会いましょう」
フィリップは笑顔で返して窓から飛び出す。キャロリーナはフィリップをすぐに見失ってしまったが、窓の傍からいつまでも離れないのであった……
「あ~あ……こんなふうに帝都を離れることになるとはな~……」
屋根を飛び交い、外壁も飛び越え、近くの高台まで走って来たフィリップは、そこから帝都の街並みを眺めていた。
しばらく残して来た者の名前を呟き別れの言葉を告げたフィリップは、西の彼方を見据える。
「さあ、待ってろよ悪役令嬢エステル・ダンマーク。僕が行くよ~? どうやって落としてやろうか……今まで数多の女性と関係を持ったのは、このためだったのかもね。僕の全てのスキルを使ってメロメロにしてやるぞ~。ムフフ」
フィリップが目指すのはダンマーク辺境伯領。さっきまで名残惜しい顔をしていたのに、もうスケベ顔になってるよ。
「まずはギャップだな。どうせ最低な噂が流れてるんだから、紳士的に接したらコロリと落ちちゃうんじゃな~い? いや……悪役令嬢は賢いから、僕が現れたら帝都で何かあったとすぐに気付きそうだな。
そうなったら向こうから政略結婚を持ち掛けて来るぞ。労せずあの体を手に入れられるとは……ムフフフ。アカン。絶対笑う。笑わないようにシミュレーションしておかないと。逆ギレでごまかして、それでもダメなら外に出よう。これだ!」
フィリップの目的は帝国を救うこと。なのに悪役令嬢のことで頭がいっぱいだ。
「今宵は満月! 最先のいい夜だ! 待ってろオッパ~~~イ!!」
斯くしてフィリップは、満月に悪役令嬢の胸を重ねて帝都を旅立ち、猛スピードで街道をひた走るのであった……
「いててて……なんで急に雨……最先悪いな~……」
しかし、急な豪雨に晒されて、フィリップは前言を撤回するのであったとさ。
おしまい
とか言いつつ、フィリップがいなくなったその後が5話あります(笑)
この5話は毎日更新するぞ~。お~!




