506 フレドリクの内緒話
フィリップ主催のアガータを送る葬儀はしめやかに行われると、教え子だった貴族が大勢足を運び、最後には涙の多い素晴らしい式となった。
フレドリクからも「よくやった」と褒められたフィリップは涙を拭って帰路に就く。
根城にはアガータ縁のフィリップの知り合いが集まり、故人を偲んでいた……
「殿下、大丈夫ですか?」
フィリップが一言も喋らないから、心配するペトロネラたちの視線が集まった。
「うん。大丈夫……ネラさん。みんなも手伝ってくれてありがとうね」
「いえいえ。私もアガータ様にお世話になりましたもの。少しでもお返しができる機会をいただけて、私こそ感謝しております」
皆もペトロネラと同じ気持ちだったらしく、フィリップに感謝を述べている。
「そういえば、アガータ様と毎日お話をしていたと聞きましたが、何をお話になっていたのですか?」
「思い出話だよ。父上と母上のことを聞かせてもらっていたの」
「そうですか。アガータ様は、メイド長になる前は2人にずっと仕えていたらしいですからね。いくらでも喋ることはあったでしょうね」
「うん……」
フィリップの嘘を信じたペトロネラ。本当は、隠している秘密を半分も話せない内にアガータが亡くなったから、フィリップは心残りがあるのだ。
「ま、こんなヘコんでる僕なんてお婆ちゃんも見てられないか。心配かけないように頑張らなきゃね~」
悔やむのはここまで。フィリップは悲しみを振り払って笑顔を見せた。
「「「「「何を頑張るの?」」」」」
でも、全員キョトン顔。フィリップが頑張っているところを見た人が誰もいないんだもの。
「……睡眠??」
「「「「「働け!!」」」」」
なので頑張っていることを口にしたけど、全員にツッコまれるフィリップであったとさ。
皆から働けと言われたフィリップであったが、元々仕事なんてしてないのでやることがない。結局は一番頑張っていた夜遊びに精を出しているので、誰にも頑張りは認められない。
そりゃそうだ。こんなこと誰にも言えないし、見せるワケにもいかないもん、
月が代わり、たまには昼型に戻ってカイサとオーセと一緒にワッキャウフフと楽しんでいたら、フレドリクから呼び出しがあった。
なのでフィリップは「なんの用かな~?」と、亡き太上皇にも理由を告げられずに呼び出されたことを懐かしみながらノコノコ執務室を訪ねた。
「フィリップには伝えておきたいことがあるのだ。内密に頼むぞ。フィリップの家臣にもだ」
ソファーに座るなりフレドリクが念を押すからには、フィリップは何があったのかと心の中では戦々恐々だ。
「う、うん……でも、そんなに危険な話なら、僕に言わないほうがいいんじゃないかな~?」
「そういうワケにはいかない。皇家の今後に関わることだ」
「え? お兄様、病気とかじゃないよね? 僕を残して死なないよね??」
「体の話ではない……そうか。アガータの葬儀もあったものな。言い方が悪かったな」
フィリップの顔が青ざめていたから、フレドリクも相好を崩して謝罪した。
「近々、2、3日ほど帝都から離れるから、念の為フィリップの耳に入れておきたいだけなのだ」
「それだけ? そんなの秘密にすることなの? みんな知ってることじゃないの??」
「いや、誰にも悟られずに出る。だからだ」
「お兄様がいなくなったら、大騒ぎになると思うんだけどな~」
「2、3日なら、病気と言っておけば気付かれることもないだろう」
フレドリクがウィンクするので、フィリップは仮病がバレてるのかと生きた心地がしないよ。
「ちなみにどこに行こうとしてるの?」
「ルイーゼの故郷にな。一度行ってみたかったのだ」
「そっか~。お兄様は自由がないもんね。それぐらいしなきゃ外にも出れないか~……うん。わかった。もしもの時は甥っ子を助けろってヤツだね。そんなもしも、絶対に来ないけどね~」
「ああ。必ず帰って来るから安心して待っていてくれ」
仮病の件はバレてなさそうなので一安心。フィリップは簡単に引き受けて世間話に移行する。
「ところでなんだけど、お忍びってことは変装するの?」
「ああ。たぶん誰にも気付かれないと思う」
「へ~。どんな姿なんだろ~。見たいな~……あ、僕が審査してあげよっか?」
「フィリップが? そういえばフィリップは、学院時代から平民街によく出掛けていたな。それなら頼りになりそうだ。まだ仕事が残っているから、夕方に屋敷に訪ねて来てくれるか?」
「うん! 僕の持ってる変装アイテムもいちおう持って行くよ~」
フレドリクが変装なんて、フィリップも興味津々。根城に帰ったフィリップは、クローゼットを漁っているフリをして、アイテムボックスの中に入っている変装グッズを準備するのであった。
それから夕刻、フィリップは時間通りフレドリク邸を訪ねたらルイーゼの接客術。お茶を引っ掛けられそうになったのですかさず避けて宥めていたら、次々と集まる逆ハーレムメンバー。
フィリップがうんざりしたり、「カイはここまで近付いたらダメで~す」と意地悪していたらフレドリクが帰って来たので、書斎に2人きりになったらさっそく変装の披露だ。
「ダメ。バレバレ」
「なんだと? そんなに酷いか??」
「実際に見たほうが早いか~」
しかしフィリップは即答の辛口批判。フレドリクは全然認めてくれないので、変装の理由を告げずにカイサとオーセを連れて来た。
「「うわ~」」
「陛下は何を着ても似合いますね~」
「新作のお召し物ですか?」
「え……平民の服を買って来てもらったのだが……」
「「これが平民の服!?」
「陛下が袖を通すと、高級な服にしか見えませんよ~」
「というワケ」
「う、うむ……」
フレドリクの変装は服を安物にしただけ。第2案の平民が頑張って買ったような礼服姿も見せてくれたけど、そもそもな問題がある。
「「カッコイイ~~~」」
「顔! 顔を隠さないと、お兄様はすぐバレるんだよ!!」
そう。服が問題じゃない。平民のハートを撃ち抜いてしまう超絶イケメンフェイスが、全てをSS級に仕上げてしまうのだ。
「これならどうだ?」
「「メガネ姿もカッコイイです~」」
「そんなので隠しきれるワケないでしょ~~~」
こうしてフレドリクの変装披露は、カイサとオーセがキュンキュンするファッションショーにしかならないのであったとさ。




