501 皇帝不在の帝都
フレドリクとルイーゼが他国に旅立ったのだから、フィリップは超心配。しかし馬車で10日以上も離れた地で行われる会合だから、情報が届くのはまだまだ先なので夜遊びに戻った。
城では皇帝夫妻がいなくなったので、貴族たちは集まって何やら不穏な会話を繰り広げている。メイドたちもその話題で一色だ。
「今の内にプーちゃんを使ってとか言ってるんだって」
「皇子様をどうとか言ってる人もいるみたいよ」
「ふ~ん……」
「ふ~ん……って。何か言ったほうがいいんじゃない?」
「皇子様も殺されちゃうかも知れないんだよ?」
「カイたちがなんとかするでしょ」
「「人任せ……」」
カイサとオーセが仕入れた情報を披露してくれるが、フィリップはやる気ナシ。根城から一歩も出ない。
そんな折、また2人が情報を仕入れて来てくれた。
「皇子様を亡き者にしようと話をしていた人、捕まったって」
「それもいっぱい……10人以上もそんなこと考えてたなんて、怖いね~」
「そう? 怖いのはカイたちでしょ」
「「どういうこと??」」
「たぶん、誰が言ってたかわからないからって、怪しい人を全員しょっ引いたんだよ。拷問される人も大変だね」
「「こわっ。あと、他人事すぎっ」」
今日のフィリップもやる気ナシ。ゴロゴロダラダラくっちゃべるだけ。そんな自堕落な毎日を過ごしていたら、根城が騒がしくなって来た。
「いっぱい訪ねて来てるらしいよ」
「騎士様、毎日困ってるって」
「そのうちカイたちがなんとかするでしょ」
「「また人任せ……」」
それでもフィリップはゴロゴロ。でもカイたちがなかなか来てくれないので、フィリップも指示だ。
「総員、山なりに~~~……放てっ!」
「「「「「いいのかな~?」」」」」
「いいんです!」
「「「「「はっ!!」」」」」
うるさくて眠れないからって、屋上からの一斉投擲。護衛騎士は偉い貴族もいるからってやりたくなさそうだったが、それ以上偉いフィリップに言われたからには石のボールを投げるしかない。
そのボールは放物線を描き、高い壁を越えたり越えなかったり。護衛騎士が慣れて来ると、全て壁の外に落ちて行った。
「「「「「うわ~!!」」」」」
「当たった当たった。うっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
「「「「「笑ってるし……」」」」」
そこには貴族の群れ。多く集まったせいで、目標が見えなくても数打ちゃ当たるのだ。フィリップが下品に笑うから、護衛騎士はめっちゃ引いてます。
貴族たちは逃げ惑うか、壁に張り付きボールを避ける。そして門番に苦情を入れるが、門番は「病気で寝てるのにうるさいと仰ってます。すいません!」と返すだけだ。
そんなことをやっていたら、カイが率いる近衛騎士団が貴族の群れを追い払ってくれた。貴族を助けに来たらしい……手紙には「無茶するな」と書いていたから、間違いはなさそうだ。
城の中は不穏な空気が流れまくっているが、ヨーセフ、モンス、カイがなんとか立ち回っているから大きな事件は起こらない。フィリップ関連の小事ばかりだ。
その渦中のフィリップは、貴族が何かしないように根城から一歩も出ないようにしてるけど、夜は毎日出歩いてる。いつも通りだ。
フレドリクが旅立ってから半月以上経ったから、そろそろ動きがあるかと毎日奴隷館を訪ねているけど、キャロリーナに食べられるだけだ。
「殿下ぁ。手紙が届いてたわよぉ~?」
「それ、先に言ってくれない? 僕、毎日聞いてたよね??」
「今日は聞いて来ないからぁ、いいかと思ったのぉ~。ウフフ」
「確信犯だ~」
「だってぇ~。女なんでしょ~? 妬いちゃうじゃなぁ~い」
「まぁ……それもそっか」
フィリップは「そういえば偽名は女の名前にしろとイデオン元騎士団長に言ったな」と思い出した。こっちのほうがバレにくいと思ったというより、面白そうと思っただけだ。
とりあえずフィリップは、キャロリーナには読まれない位置に移動してもらったけど、ベッドの下のほうに移動した。ナニしてんだか……
「うっわ~。やっぱりだ……だから連れてくなと言ったのに……おっ。こんなこともあったのか……なら、なんとかなるか? ……ウッ」
フィリップがずっとブツブツ言っていたら急に止まったので、キャロリーナはナニかを飲み込んでから戻って来た。
「もう終わったぁ?」
「終わったと言うか終わらされたと言うか……」
どうやらキャロリーナ、手紙の内容が気になったから、速度を上げてフィリップの独り言を強制終了させたみたいだ。
「その手紙ぃ……いつもの子よりぃ、真剣に読んでたけどぉ……聞いてはいけない内容?」
「さすがキャロちゃん。もうバレちゃった」
「やっぱりねぇ。陛下が旅立った日から逆算するとねぇ……」
「聞きたい? 聞きたいなら聞かせてあげるよ??」
「その顔ぉ、絶対にヤバイことじゃなぁ~い」
フィリップが悪い顔しているので、キャロリーナも聞かないことに決めた。
「お兄様、殺され掛けたんだって」
「なんで言うのよぉ~~~!!」
「オッフ」
でも、フィリップが言っちゃったので、キャロリーナは往復ボインビンタだ。フィリップを喜ばせるだけだけど……
「ま、これはプラスになるからだよ。和平に反対派の兵団を、お兄様の指揮で軽々撃退したんだって。それまでにも、他国の王様をけちょんけちょんに論破したらしいから、お兄様が皇帝でいる間は戦争する気も起きないだろうね」
「すごっ……さすがは帝国の最高傑作と言われるだけあるわねぇ……」
「ね? たぶん近い内に、この話題で帝国は盛り上がるよ」
フィリップは出していい情報だけで、やり手のキャロリーナを煙に巻く。こうしてキャロリーナは、安心してフィリップとマッサージを楽しむのであった。
その日の太陽がまだ顔を出さない時間。ダンジョンの奥深くでは……
「あんのドジ聖女! なに他国の王妃全員、怒らせてるんや! 兄貴の活躍が台無しになるやろ~~~!!」
イデオンの手紙には、ルイーゼがスカートの裾を踏んで他国の王全員に抱きつき、そのことに王妃が激怒していたと書き記されていたから、今回もフィリップのエセ関西弁がダンジョン内に響き渡るのであったとさ。




