500 出発式
大スキャンダルのせいで心が疲弊したフィリップたちは、このあとは激しいマッサージで全てを忘れる。
その翌日はカイサとオーセはトボトボと出掛け、帰って来たら寝ているフィリップにボディープレスだ。
「へ? 侍女さん、元気になってたの?」
「うん。前みたいに口が堅くなってたわ」
「そんなことは喋ってないって」
「心に蓋をしたのかな~?」
カイサたちは借りていたハンカチを返しに来たテイで面会したら、ルイーゼ専属侍女は元の姿に戻っていたから驚いたそうだ。
昨日の話もバッサリ切られたらしいが、フィリップが逃げ場を用意している話をした時は少し表情が崩れ、深々と頭を下げて感謝を伝えるように頼まれたらしい。
「それなら大丈夫かな? 彼女に何も悪いことが起こらないといいね」
「うん。プーちゃんもたまには人の役に立つのね」
「えぇ~。僕、いつも女性を喜ばせる役に立ってるじゃな~い」
「プーくん。そんな話してない。バカなの?」
「うん。知ってるでしょ??」
フィリップが馬鹿にされてもおちゃらけているので、オーセもやれやれって仕草で諦める。カイサも同じ顔をしていたが、ひとつ気になることがあるみたいだ。
「そういえば、侍女さんをここで雇ってもいいとか言ってたけど、本当にやって来たらどうするの?」
「3人になるだけ」
「……なにが??」
「マッサージ~。あの真面目な人が乱れる姿……グフフ~」
「「だと思った……」」
最後の質問が悪かった。フィリップがゲスイ顔で笑うので、カイサたちは専属侍女を心配していたのではなく、スカウトしようとしていたんじゃないかとヒソヒソ喋るのであった。
それから時が過ぎ、寒くなってもフィリップが構わず夜遊びしていたら、フレドリクから手紙が届いたので昼型に戻した。
そしておめかししたらキリッとした顔で根城を出たフィリップ。カイサたちには「もうちょっと真面目な顔できない?」とか言われていたから伝わらなかったね。
フィリップたちがそれほど服装や表情に気を付けているには理由がある。
「皇帝陛下にぃぃ~……敬礼!」
「「「「「はっ!!」」」」」
フレドリクが帝都を離れるからだ。大勢の家臣の最前列にフィリップも立たされるから、頑張って真面目なフリをしてるのだ。
そのフレドリクはルイーゼと腕を組んで現れると、フィリップの前で足を止めた。
「フィリップ……しばらく帝国を空ける。ヨーセフたちを残すが、もしもの時があれば頼んだぞ」
「はっ」
フィリップは「一番に弟が来ないんだ」と思ったが、凛々しい返事だ。その顔を見たフレドリクは優しく微笑み、フィリップの肩に手を起くと真っ直ぐ目を合わせた。
「それとだ。私に万が一があれば、その時は皇帝は息子に継がせる。フィリップは息子を支えてやってくれ」
「はっ! ……??」
フィリップ、フレドリクがいま死んだら次の皇帝は自分だと思っていたみたいで首を傾げてしまった。
そりゃ2歳の子供に継がせるとは誰も想像はしてなかったもん。ここまで目を見てやられたら、フィリップだって勘違いしてもおかしくないよ。
「頼んだぞ」
「は、はっ!!」
しかしフレドリクが念を押すように頼むので、フィリップはとりあえず大声で返事だ。
周りで見ている人は、何やら肩が震えている。「馬鹿皇子が2歳の子供に負けた」といまにも笑いそうなんだって。
絶対に笑ってはいけない皇帝の出発式は、フレドリクが逆ハーレムメンバーや高官の家臣に声を掛け、最後の挨拶でフィリップ以外の全員が感動したらそろそろお開き。
フレドリクはルイーゼと一緒に馬車に乗り込み、万歳する家臣に見送られて旅立つのであった……
「なんでやね~~~ん!!」
「「「「「??」」」」」
「「「「「クククククク……」」」」」
その直後、フィリップが大声で叫んだから、家臣一同は不思議に思った直後、小さく笑い続けたそうな……
フィリップが退場すると、その笑いは爆発。馬車の中では不機嫌そうにするフィリップを宥めるカイサとオーセ。
根城に帰ってからもフィリップは苛立っているので、護衛騎士の恰好の話のネタ。フィリップから見えないところで涙を流して笑ってる。
「ざ、残念だったね。フフフ」
「オーセ。やめなって。みんな笑ってたけど……」
フィリップがパジャマに着替えてベッドで悶えていると、オーセがいらんこと言ってカイサに窘められていた。
「残念って……なにが? そういえば、なんでみんな笑ってたの??」
その時フィリップは、ムクリと体を起こしてポカンとした顔をした。
「次期皇帝の件よ」
「プーくん、小さい子に負けたから怒ってたんでしょ?」
「ううん」
「じゃあ、陛下が見えなくなったあとに怒鳴ってたのはなんだったの?」
「ああ~……そういうことか」
フィリップの怒りの理由は別口。とりあえずフィリップは2人に合わせて話をする。
「2人も知ってるでしょ。お兄様の子供の血筋」
「「うわああぁぁ!?」」
「そゆこと」
この件を出したら2人は蒼白。さっきまでのニヤケ顔が吹っ飛んだ。
「こんなこと子供に願いたくはないけど、突然死とかしてくれたらありがたいんだけどね~」
「プーちゃんが言うと、なんか怖いね」
「プーくん、ダメだよ? かわいそうだよ」
「僕が手を下すワケないでしょ。でも、今の内にさらって優しい夫婦に預けたら、子供も幸せに暮らせるかも?」
「皇家を維持するためならそのほうがいいのかな……」
「えぇ~……カイサもそっち側になっちゃったの~?」
フレドリクの子供をどうするかの話に発展すると、カイサが皇家側に回ったから、オーセは平民の心を忘れるなとか言っている。
それを微笑ましく見ていたフィリップは……
「ま、いずれにせよ、僕に皇帝やれとか言われなくてよかったよかった~」
「「いや、やれよ」」
ホッと胸を撫で下ろしたけど、心の一致した2人にすかさずツッコまれるのであった。
その夜、ダンジョンの奥深く……
「なんで聖女ちゃんを他国に連れて行くね~~~ん!!」
フィリップが不機嫌になっていたのはこのせい。元騎士団長のイデオンからは連れて行かないと聞いていたのに、普通に旅立って行ったから荒れていたのだ。
「絶対、何かしでかすや~~~ん!!」
こうしてダンジョンの奥深くでは、フィリップのエセ関西弁がいつまでも響き渡るのであったとさ。




