495 神殿長の秘密部屋
風俗店の客引きバイト……じゃなかった。神殿のトップだと豪語するヴァルナル神殿長の横をスキップするフィリップ。やや入り組んだ廊下を進み、「まだかな~?」と心を躍らせる。
そうして厳重に守られた扉を何個も通り抜け、やって来たのは地下室。カイサたちは控え室で待たされる。護衛騎士は「生殺しだ~」と嘆いてます。
ヴァルナルが最後の扉を開けば、そこには整列する多くの女性神官。その後ろには、豪華なベッドが何個も並んでいた。
「おお~。ここはなんの部屋~?」
「代々神殿長が認めた者しか入れない、由緒正しき祈りの場です。この女性神官は信心深く、いくらでも奉仕してくれるのですよ」
「わ~お。神官って、禁欲生活してるもんだと思ってたよ~」
「その通りです。禁欲は守っています。この部屋で行われる行為は、禁欲を守りきった者への神からのご褒美なのです」
「わ~。言ってる意味、全然わからな~い。でも、楽しそうだ~」
「そうでしょう。そうでしょう。ささ、奥へどうぞどうぞ」
ヴァルナルがフィリップの背中を軽く押すが、1ミリも動かなかった。
「どうかなさりました?」
「お前もついてくんの?」
「はあ。説明もありますので……」
「僕、男に見られてヤルの嫌なんだよね~……」
「し、しかし……」
「空気読めよ。お前の顔が見えたら萎えるの。邪魔。1時間後に様子を見に来い」
「ははっ……」
ヴァルナルが一歩下がると、フィリップは頼み事をする。
「僕の侍女に神殿を案内してあげて。もしも指一本でも触れたら、お前の肉を毎日食わしてからむごたらしく殺してやる。わかった?」
「は、はひぃ!!」
急に雰囲気の変わったフィリップに恐怖したヴァルナルは焦って部屋から飛び出す。フィリップが踵を返すと、その言葉が聞こえていた女性神官は恐怖に震えるのであった……
「は~い。しゅうご~う」
フィリップが豪華なソファーに座って号令を掛けると、女性神官は仲間と目配せしてから綺麗に整列した。
「あ、楽に楽に。下はカーペットだし、座ろっか? 楽な体勢で聞いてね」
フィリップがヴァルナルを脅していたから、女性神官も指示に従うしかないので、ひとまず腰を下ろす。
「まず、最初に言っておくね。僕は君たちに手を出さない。神殿長の顔がムカつくから誘いに乗ったの~。辛いことは今日限り終わりだ。一緒に神殿長を……神殿の闇をブッ潰そう!」
そう。フィリップはヴァルナルの後ろにいた女性神官の死んだような目に気付いていた。だからヴァルナルに何かされていると決め付け、もっと大勢の被害者がいるだろうと思って、地下室に案内させたのだ。
「「「「「……」」」」」
しかし、フィリップの口から救いの言葉が出たから固まる女性神官たち。もしかしたらそんな言葉を信じて騙されたことがあるのかもしれない。もしくは、この少年を誰か知らない可能性も……
「んじゃ、聞き取りするよ。神殿長に何をされた? 他にもここに出入りしてるヤツは全員教えて。お兄様……皇帝陛下と皇后陛下にその声を届けてあげる。第二皇子の名に懸けて、必ず君たちを救い出す。あ、君たちを助けるの、毎日祈ってた神様じゃなくて、馬鹿皇子でゴメンね~? アハハハハ」
「「「……フッ」」」
「「「「「あはは」」」」」
「「「「「あははははは」」」」」
助けは来ないと思っていたのだ。第二皇子からフレドリクとルイーゼの名前が出たのだから女性神官の目にも希望が生まれるってもの。
最後の冗談には「本当だな~」と笑ってしまう女性神官たち。涙ながらに笑う女性神官を見たフィリップは後ろに振り向き、怒りの表情をひた隠すのであった……
「どうでしたか~?」
フィリップと離れてから1時間半後、ヴァルナルがお楽しみ部屋に戻って来た。1時間後とは言われていたが、まだマッサージしていたらと思って遅らせたみたいだ。
手を揉んでゴマ擦るヴァルナルが近付いて来ると、フィリップは満面の笑みに変えて返事をする。
「それはもう……ゲヘヘへへへへ」
いや、とんでもなくゲスイ顔だね。女性神官も引いてます。でも、ヴァルナルはたいそう喜んでくれたと同じ顔だ。
「そうでしょうそうでしょう。楽しんでくれたなら幸いです。それでですね。少々お願いが御座いまして……」
ここからがヴァルナルの本題みたい。でも、顔はそのままなので、フィリップは「頼む気あるのか?」とちょっと呆れた。
「最近、お布施が急激に減りましてですね。孤児院を維持するのも大変で、神官たちも食事の量を減らすしかなくて……少しで構いませんので、お布施をいただけないかと……」
どうやらヴァルナルは、フィリップのお金を狙ってこんなVIP対応をしていた模様。フィリップはそんなことだろうと気付いていたが、「順番が逆じゃね?」とますます呆れてます。
「そんなこと~? それぐらいなら僕にドーンッと任せちゃって。なんだったら、いっぱい連れて来てやろっか?」
「お、おお! さすがは第二皇子殿下。これで子供たちも神官も助かりますぅぅ」
「うんうん。僕に任せてくれたまえ。ここ、気に入ったからまた夕方に来るよ。歓待の準備していてね~」
「はい~」
こうしてフィリップは、ゲスイ顔をしたままのヴァルナルに見送られ、馬車に乗り込んだのであった……
「ねえ? あの奥で何してたの??」
「女だよね? 女の人がいっぱい居て、卑猥なことして来たのよね??」
「ううん。神様の像があっただけ。その像が神秘的すぎて、いつまでだって見てられたな~」
「ウソばっかりつくな。顔が物語ってるのよ」
「プーちゃん? その顔は神様に見せちゃダメな顔だよ??」
その車内ではオーセとカイサの追及を嘘でかわそうとしたフィリップであったが、顔がゲスすぎて失敗。
「アレ? 普通の顔に戻らない!?」
ヴァルナルに合わせて長い時間ゲス顔をしていフィリップは、顔が固まってなかなか元に戻らないのであったとさ。




