494 運動のついで
ランニングのために根城を出たチビッコたち。城の外周を走っていたらカイサの息が乱れて来たので、フィリップがギブアップとか言って馬車に乗り込んだ。
カイサとオーセは頑張ってそのまま走っていたけど、フィリップが馬車の中から応援してくれるから、馬鹿馬鹿しくなって走るのをやめた。
ランニングはフィリップの運動不足解消でやっていたのだから……
馬車の中ではそのことを説教されていたので、フィリップは話を逸らすために御者に進路変更を指示。近くにあった神殿にやって来てみた。
カイサたちも来たことはあるが、いつも結婚式で来ていたからゆっくりとは見たことがない。なので馬車で外周を走らせて見せてあげたら、説教のことは完全に忘れてくれたよ。
綺麗な場所があれば馬車を止め、一周回ると係の者に馬車を預ける。そうして神殿の中に入ると、チビッコ組はキャッキャッと楽しそうに歩く。
フィリップもあまり来たことがないから、絵画やステンドグラスを見るのは面白いらしい。護衛騎士は芸術に疎いのか、つまらなそうにしてる。
そんなフィリップたちを怪訝な目で見る神官たち。第二皇子とメイドが体操服で歩いているから「なんで?」と思う神官もいるけど、それは少数派。
ほとんどの神官は、フィリップが神殿と揉めてバチバチにやりあったことがあるから「またイチャモン付けに来たんじゃないだろうな?」とか思ってる。フィリップは法王に濡れ衣を着せた上に刺してたもん。
そうこうフィリップたちが楽しく観光していたら、血相変えた五十代ぐらいの偉そうな男が数人の女性神官を連れて走って来た。
フィリップは「めっちゃ速そうなフォームなのに進むのおそっ」と思ったけど、急いでいるみたいだからカイサたちの背中をそっと押して端に移動した。
「これはこれは第二皇子殿下。ようこそ参られました」
「……ボク??」
「「「「「……」」」」」
フィリップは話し掛けて来るとはまったく思っていなかったから自分を指差しただけ。それなのに周りの目は「お前以外に誰がいるんだよ」って冷たい目だ。
「なんか用?」
「えっと……あ、その。今日はどういったご用件でしょうか?」
「たいしたことないよ。近くまで来たから暇潰しに見てただけだもん」
「そうですかそうです。信仰に目覚めたのですね」
「聞いてた? 暇潰し。勧誘ならどっか行け」
「ああ!? 間違えました!?」
偉そうな男は、フィリップが入信したいのだろうと思い込んでいたので大失敗。素直に間違いを認めるとは、相当焦っているみたいだ。
「でしたら、神殿長であるこの私、ヴァルナル・リップマンが神殿をご案内させていただきましょう」
「ふ~ん……お前、神殿長なんだ。神官長とどっちが偉いの?」
「それは神殿長の私です。神殿全てを束ねる役職ですからね。まぁ法王様は神に一番近しい役職なので別格ですが」
「ふ~ん。2番手か~。ふ~ん」
フィリップが興味なさそうな顔をするので、ヴァルナルはとっておきの情報を出す。
「ここだけの話、いまは法王様が不在ですので、私が実質ナンバー1と言えるのですよ」
「出掛けてるぐらいなら、その栄華は短命だね~」
「いえいえ。二代続けて、法王様が神殿から追われてしまったので、現在は空位となってるのですよ。ですから、文句ナシのナンバー1です!」
ヴァルナルが自信満々に胸を張ってドヤ顔するので、フィリップはイジメたくなっちゃった。前法王の2人は、ほとんどフィリップが追い出したようなモノだもの。
「てことは、不正なお金でガッポリ?」
「はい。それはもう……って、冗談ですよ~? 神に仕える身ですから、清廉潔白です。間違いなく。これっぽっちも儲かりません」
カイサたちは「イエス」と答えた瞬間のヴァルナルのゲス顔で「やっとんな!?」と気付き、何度も否定することで「100%ブラック」と決め付けた。
フィリップも同じことを思っていたけど、2人より視野が広い。ニッタ~っと笑った。
「あ、そ。なんかいい思いしてるなら、仲良くしてもいいかな~っと思ったのに……残念。そろそろ帰ろっか?」
そしてカイサたちを連れて帰ろうとしたら、ヴァルナルから待ったが掛かる。
「お待ちください。第二皇子殿下ほどの御方をおもてなしもせず帰すなんて、神もさぞかし寂しく思うことでしょう。特別室に来ていただけたら、殿下も天にも昇る気持ちになれますが……どうですか? お好きなんですよね~??」
ヴァルナルの顔が下品に満ち溢れているのだから、フィリップ以外にも何を言っているかわかったらしい。
カイサとオーセは「これだから男は」って怒りの感想。護衛騎士は「俺たちもついて行っていいってことだよな?」と、ただの妄想。
「ほっほ~う。それはええな~。ゲヘヘ」
フィリップに至ってはゲスだ。せめて口に出すなとみんな思ってるよ。
「では、さっそく行きましょう! 1名様、ごあんな~~~い!!」
ゲスはヴァルナルも一緒。フィリップの隣に移動して、ゲヘゲヘ笑うのであった……
「ねえ? あんた、前世で風俗店の客引きバイトとかしてたりしないよね??」
「なんの話ですか??」
あまりにも手慣れているので、フィリップは転生者なんじゃないかと疑うのであったとさ。




