490 横槍
カイVSイデオン騎士団長が剣戟を繰り広げるなか、フィリップが悪い顔で笑うからボエルは断固拒否。でも、脅されて従順に。
ただ、このままでは失敗するのは目に見えているのでフィリップは作戦を言い渡す。
「カイの剣、一回だけなら止められる?」
「あの大剣をか……一回でいいならなんとか。それ以上は訓練用の剣が持たねぇと思う」
「あとはもう1人いたらいいんだけど……しまったな~。ウチの騎士も連れて来ればよかった。誰かいい人いない?」
「モブ君ならすぐそこにいるぞ」
「モブクンって誰??」
「だからな。忘れてやるなって」
ちょっと前に会って思い出してくれたと思っていたコニー、フィリップがまったく記憶になかったので膝から崩れ落ちた。
フィリップも悪いと思い、「モブ君モブ君」と連呼して謝ったけど、まだ弱い。ボエルたちに「コニーと呼べ!」とツッコまれたので、フィリップはその通りしていた。
「んじゃ、コニーは騎士団長ね。盾で一発だけ耐えたらいい簡単なお仕事だ」
「はいっ!」
フィリップから名前を呼ばれたコニーは元気復活。ここで活躍して印象付けようと気迫が凄いことになっている。
そんな鼻息荒いコニーの服をボエルが握ってゆっくりと前進。フィリップも後ろからついて行く。
周りの野次馬は、カイたちの戦闘に目を奪われていたが、フィリップたちが近付いているからそちらに目を移す。第二皇子がいるから「あのバカ、何してんだ?」と大注目だ。
野次馬が決闘そっちのけでザワザワした頃に、チャンス到来。カイとイデオン騎士団長は同時に後方に飛び退いたのだ。
「行け! いま! ダッシュ!!」
「「うおおぉぉ!!」」
少し間合いが遠いが、フィリップの言い分は正しい。ボエルとコニーは同時にカイたちのド真ん中に向かって走り出した。
その直後、カイと騎士団長は足に力を入れ、勢いを付けての最大攻撃。2人とも同時に飛び込み、剣を力いっぱい振り下ろした。
ボエルはカイの相手。カイの大剣で折られないように剣を斜めにして受け、地面に受け流すようにしたが、剣は半分以上削られた。
コニーはイデオン騎士団長の相手。イデオン騎士団長の剣を大盾で受けたが、やや間に合わなかったから踏ん張りが利かない。叩き潰されるように転がることに。
「「邪魔だ~~~!!」」
決闘を邪魔されたカイとイデオン騎士団長は、息の合った怒鳴り声。ボエルはその怒声で萎縮した。コニーは気絶しそうだ。
「はあ? 誰に邪魔っつってんの。僕の顔、忘れたとは言わせないよ」
誰もが膝を折りそうな重たい空気なのに、フィリップだけは通常運転。皇子オーラ全開で耐える。本当はただのレベル差。騎士たちには、馬鹿にはこの空気がわからないとか思われてる。
「フィ、フィリップ……」
「バカ! フィリップ殿下だろ! 跪け!!」
「「はは~」」
皇子オーラに反応したのはイデオン騎士団長だけ。父親の威厳を出し、カイの頭を掴んで同時に跪くのであった。
「おっそ……」
カイとイデオン騎士団長が跪くと、フィリップは不機嫌そうに口を開く。決闘を止めようとわざと目立つように行動していたのに、ぜんぜん気付いてもらえなかったからだ。チビは関係ないと思われる。
「僕、だいぶ前から見てたよ? なのに何してんの? 周り見てみろよ。誰も僕に跪いてない。普通、騎士団長がすぐに気付いて注意するもんじゃないの?」
「仰る通りです。いまさらですが……」
「もういい!」
イデオン騎士団長は野次馬の騎士に命令しようとしたけど、フィリップに一喝されて頭を下げる。
「それにカイ……お兄様に、僕との接近禁止令出されたの忘れてる?」
「覚えてるに決まってるだろ。忙しい時にそっちから近付いて来たんだから、離れられなかっただけだ」
「いまは?」
「だから……」
「いまは忙しくないよね? だったらどうするの??」
「クッ……わかったよ。どっか行けばいいんだろ」
カイが立ち上がって離れて行くと、フィリップはイデオン騎士団長にゴニョゴニョと耳打ちした。
「この件は、殿下の預かりとなった! 解散! 解散だ~!!」
こうしてカイVSイデオン騎士団長の決闘は、フィリップが割り込んで決着がつかない中途半端な結果で終わりを告げるのであった……
騎士が離れるなか、フィリップはボエルとコニーに感謝を述べる。コニーは名前を呼ばれて感謝されたから泣いていた。
フィリップは言葉が詰まっていたからオーセが耳打ちして教えていたのに……
その後、フィリップはイデオン騎士団長と移動。カイサとオーセもついて来てるよ。珍しくフィリップが皇子っぽいことしてるから、ヒソヒソ話が止まらないけど。
フィリップたちがやって来た場所は、室内訓練場。中にいた人はイデオン騎士団長が追い出して、入口で見張らせる。カイサたちは中に入れてもらえないので、ちょっと憤慨してました。
「はぁ~あ。楽な体勢で座って」
「はっ」
フィリップはため息を吐くと、中央にドサッと腰を落としてアグラで座る。イデオン騎士団長も楽にしろと言われたのでアグラだ。
「謀反の話、聞いたよ?」
「そうですか……ですが、私にも曲げられない物があるのです。部下や……」
「わかってる。全部わかってるよ。でも、それを承知で、怒りを飲み込んでくれない? お願い」
「で、殿下。頭をお上げください!」
フィリップが両拳をついて頭を下げると、さすがにイデオン騎士団長も焦った。馬鹿皇子はこんなことしないと思っていたのかも?
「あの……殿下がどうしてそこまでなさるのですか?」
フィリップが顔を上げると、イデオン騎士団長は素朴な疑問を口にする。何にも関わろうとしないフィリップがここまでしていることが気になるのだろう。
「宰相がさ~……あ、前の宰相ね。辞めされられたじゃない? そこに騎士団長までって、さすがにね~……城が荒れるのは明白だよ」
「多少は荒れるでしょうが、私の首ひとつで部下の待遇が良くなるなら、それにこしたことはありません」
「何が首ひとつだよ。命はドブに捨てるな。父上が信頼して騎士団長にしたんでしょ? 長生きしてよ。そして、何万という兵士を鍛え上げてよ。それが父上の望みだよ」
「……」
イデオン騎士団長の目には、フィリップの後ろに亡き太上皇の姿が浮かんで見えたのか、何もない一点を見詰めて懐かしむ顔をするのであった……




