486 好みの子とお見合い
護衛騎士が近衛騎士への昇進よりフィリップのお金を選んだので、カイサとオーセは「悲しみを返せ!」と怒りの表情。しかし、こんなことをしている場合ではない。
フィリップのおめかしは終わっているのだから、護衛騎士に馬車を操縦しろとムチ打って走らせる。「馬じゃなくて御者がムチ打たれてる」とフィリップは笑ってる。
護衛騎士はどうしてこうなっているかわかっていなかったので、フィリップから2人が離れ離れになるのを悲しんだと説明したから、怒るに怒れない。フィリップが「怒ったらクビ」って言うからなおさらだ。
そんなフィリップたちがやって来た場所はお城の右翼、フレドリク邸の近くにある庭園。その建物側にあるドアを3個ほど通り抜けたら、清楚なドレスを身に纏った美しい女性とメイドが頭を下げて立っていた。
フィリップは「ほっほ~」という顔をしたあとは、女性に近付いて周りをクルクル回ってる。
「ケルヒェンシュタイナー侯爵家が長女、エレオノールで……あの、自己紹介してるのですが……」
「あっ……いいオッパイしてるから、つい……アハハ」
フィリップがフライングでセクハラしまくるので、エレオノールも嫌悪感たっぷりの顔。もう一度最初から自己紹介をしてフィリップが座らせたら、不機嫌な顔のまま黙ってしまった。
「あっら~。僕、嫌われちゃったかな?」
「い、いえ……」
「エッチな男は嫌い? 僕はエッチな子、だ~いすき~」
「はあ……」
「「ん、んん!」」
フィリップのセクハラ発言が止まらないので、さすがにカイサとオーセも見てられないと咳払いをした。フィリップはチラッと見て頷いたから、わかってくれたみたいだ。
「てか、どんなマッサージが好き?」
「「「「はぁ~~~……」」」」
「え? なになに? 全員、なんでため息を吐いたの??」
いいや。一切わかってない! カイサたちだけじゃなくエレオノールたちも合図にわかってくれたと思ったのに、フィリップがセクハラ発言を続けるから同時に長いため息が出てしまうのであったとさ。
フィリップのセクハラ発言が止まらないから、せめて回数を減らそうと各自のメイドが動く。お茶を淹れ、御菓子を出し、フィリップの口に詰め込む。
実際にはフィリップは自分で食べてるけど、静かにポリポリ食べ始めたから、一同ホッとした。エレオノールも「静かにしていたらリスみたい」とか思ってる。若干ディスってるけど、心の中だからセーフだ。
テーブルの上にあるお皿やカップが空になると、カイサたちはすかさず満タンに。しかしフィリップは紅茶は口を付けるけど、そのまま黙って外を見ている。
「あ、あの……」
その沈黙に耐え兼ねたのはエレオノール。その声を合図に、フィリップは急に勢いよく立ち上がった。
「外! 外行こう。ここは若い2人だけにしてね~?」
「「……どの2人??」」
「お見合いしてる2人だよ!」
ここには年齢不詳のチビッコが3人もいるので、フィリップがどの組み合わせを差していたのかわからなかったみたい。なのでフィリップは、エレオノールの手を優しく取って、エスコートするのであった。
外に出たフィリップは、エレオノールの手を離して前を無言で歩き、庭園の奥へとゆっくり進んで行く。エレオノールも無言で続き、フィリップがキョロキョロしたあとに振り返ったので歩みを止めた。
「ねえ? このお見合い乗り気じゃないでしょ??」
フィリップが質問すると、エレオノールはギクッと体を揺らした。
「やっぱりね~。だと思った」
エレオノールの気持ちを言い当てたからだ。しかし、エレオノールは心はそうでも口からは出せないみたいだ。
「いえ。そんなことありません……」
「いいね~。貴族令嬢の鑑だ。どうせ軍事費のことで、政略結婚したら許してやるとか言われてるんでしょ? お父さんからも泣いて頼まれてるんでしょ? 心を決めた人がいるんでしょ~~~??」
フィリップが悪い顔で次々とありそうな理由を告げたら、エレオノールは下を向いた。どうやら全てが当たりのようだ。
ただし、下を向いたぐらいではフィリップは止まらない。背が低いから視界に収まってしまうとかは関係ないよ?
「ゴメンゴメン。辛いこと言ったね。僕から断るから、顔を上げて」
「え……」
「僕もこのお見合い乗り気じゃないってこと。あっちに座れるところあるから、あっち行こうか」
「はい……」
フィリップは東屋に移動すると、広げたハンカチを椅子に掛けてエレオノールを座らせ、自分はテーブルを挟んだ対面に座った。
「やっぱり無理矢理言われたの?」
「はい……陛下から是非ともと言われて、父は断れなかったそうです。だから、婚約者と別れてくれと涙ながらに言われまして……」
「ん~? なんか変だな。それ、お父さんに騙されてるよ。お兄様だったら、絶対に無理強いはしないもん」
「そうなのですか?」
「君、深窓の令嬢ってヤツでしょ? 世間知らずだからコロッと騙されるんだよ。貴族ってヤツは、お家のためなら平気で娘を売り渡すもん。ま、娘もそういう教育を受けてるから断ることはできないけどね~」
フィリップが貴族の常識を語ると、エレオノールの目からウロコがポロポロ落ちる。フィリップが聞いていた人物像と掛け離れているし、絶対だった父親の言葉を全否定するからだ。
「ひとつ聞くけど、君の侍女は君の味方?」
「私の子供の頃からの付き合いですから、味方だと思います」
「言い切れないなら、全てを信じるのはやめておこう。侍女を雇っているのは父親だからね。報告の義務ってのは破れない。たとえ、君の味方をしたくてもね。言ってる意味、わかる?」
「はい。給金を支払っているのは父ってことですね」
フィリップは「そうそう」と笑顔で頷いた。
「だから、僕は出会ってからずっと変なこと言ってたの。誰が味方かわからないからね」
「そういうことでしたか。でも、あんなに卑猥なことを言う意味も理由もわかりません」
「それは僕のキャラがそうなってるからだよ。んじゃ、ここから大事な話をするよ?」
エレオノールがコクリと頷くと、フィリップはこれからの策を告げる。
「僕と体の関係になったフリをしてもらうよ。今日はウチに泊まってもらう」
「やはり、私の体が目当てなのですね……グスッ」
「ちゃんと話は聞いてた? 演技で君を守るためだよ??」
ちゃんと順を追って説明したはずなのに、フィリップの最低な噂を数多く聞いて枕を濡らしていたエレオノールは、これから餌食になるのだと自然と目から涙が零れ落ちるのであったとさ。




