485 護衛騎士の決断
相談に来たはずのフレドリクが白馬に跨がり逃げて行ったのでは追うこともできない。フィリップは置き忘れのルイーゼと嫌々喋る。
どうやらフレドリクは本当に忙しいらしく、諸々のことはルイーゼに頼んでいたとのこと。お金の件は来月からの支払いを減らせばいいだけなので、お見合いと騎士の引き抜きの話を中心に詰める。
でも、ルイーゼは書類を朗読するだけなので、フィリップはそれだけが欲しい。時々舌を噛んで「いった~い。てへ」とかやるからイラッと来るんだもん。
ここはカイサとオーセに相手をさせたほうが楽なので、連れて来て押し付ける。2人もめちゃくちゃイヤそうな顔してたけど。
ただ、フィリップのお見合い話は興味津々。2人に取っても主人となる可能性のある人物だから、根掘り葉掘り聞いていた。
フィリップはその隙に、ルイーゼの近くに置いてある書類を盗んでこっそり離脱。下に移動して、バルコニーから見えない位置に護衛騎士を集めた。
「静かにね? 大声出したら、いまからする話は僕がなんとしても阻止する。わかった?」
「「「「「はあ……」」」」」
「お前らに。大声出すなよ? 近衛騎士の。絶対にだからね? 打診が来た」
「「「「「ッ!?」」」」」
フィリップが言葉を切りながら発表したからには護衛騎士は徐々に期待が高まり、最後の言葉で絶頂に至る。
護衛騎士は注意した通り声は出さなかったが、地面に膝を突いて天を仰ぐ。それはもう、いまにも灰になりそうな色合いだ。
「お~い? 戻ってこ~い??」
フィリップも死んだんじゃないかとつついたら、全員「ハッ!?」と言ったあとは息を切らしてた。危なかったな……
「喜んでるところなんだけどね~……いまはやめたほうがいいかも?」
「ど、どうしてですか?」
「殿下が意地悪する……」
「俺たちを出世させたくないんだ……」
「そこの2人、泣くな」
フィリップは止めてはいないのに、護衛騎士の2人が泣くのでイライラ。気持ち悪いもん。
「いまのご時世、近衛騎士はどうなるかわからないからだよ。お前ら、いま、帝国で何が起こっているか知らないの?」
「「「「「あっ……」」」」」
現在は軍事費削減の真っ只中。情報が入りにくいこの根城にいても、これほどの大事件は全員が衆知の事実。なんだったら「殿下のところで働いててラッキーだったな~」と話をしていたところだ。
「いちおう待遇を言っておくね。騎士爵は貰えるけど、給金は、やっす……こりゃ近衛騎士も軍事費削減の余波で給料減らされてるな。金貨3枚だって」
「「「「「は、半額……」」」」」
「騎士爵に飛び付いたら酷いことになるかも? そもそもあそこ、よくクビになるし。あ、僕は止めるつもりはないよ? 事実を教えただけ。自分の人生だ。よく考えて答えを出してね~」
「「「「「……」」」」」
さっきの浮かれ気分はどこへその。名誉を取るか生活を取るかの二択を迫られた護衛騎士は、どうするべきかと悩みに悩むのであった。
階段を上って2階の廊下に出たフィリップは、ルイーゼの護衛に残っている騎士の横を通る。その時、コニーが手を伸ばしたけど叩き落とした。フィリップにモブは見えないから無意識らしい。
そうしてコニーを無視したまま進んだところで真面目そうな顔のメイドがフラッと一歩前に出たから、フィリップは優しく声を掛ける。コニーは「それだけで気付くの!?」って驚いてます。
「どうかしたの?」
「あ……いえ……」
「確か君って……お姉様の侍女だよね?」
「な、なんでもないです……」
ルイーゼ専属侍女は小走りでコニーの後ろに隠れたから、フィリップは「消えた!?」とか目を擦ってる。
「で、殿下、お久し振りです……」
「あ、人だ……すっげぇモブっぽい人だな……」
「そうです! モブ君です!!」
「ああ。モブクンね。ちょっと僕、忙しいからね~」
「やった……」
フィリップは首を傾げて部屋に入って行ったのに、コニーはガッツポーズ。気付いてもらえた上にあだ名を呼んでもらえたからだ。
フィリップは「この人、モブクンって名前なんだ。変なの」とか思っていたのに……
自室に戻ったフィリップは、カイサとオーセにポコポコ叩かれる。ルイーゼの生け贄にされたと思ったらしい。その通りだけど。
ルイーゼも一緒にポコポコして来るのはフィリップも想定外。カイサとオーセがやめたのにしつこくポコポコするので、フィリップも手を持って止めるしかなかった。痛くはないけど腹が立つもん。
そこからはフィリップも世間話に参加。その前にルイーゼの護衛とかは下の階に移動させて、エントランスに待機してもらいました。ずっと立たせておくのもバツが悪かったっぽい。
フィリップたちが「こいつ、いつになったら帰るんだろう?」と目配せを繰り返していたら、ノックが鳴った。
さっきのルイーゼ専属侍女だ。帰らないといけない時間だから呼びに来てくれたのだ。
フィリップは命の恩人だと心の中で思いつつ、手を振って見送る。その後は、カイサたちの苦情だ。
「もう、なんで逃げ出すかな~?」
「ルーちゃんはプーくんに会いに来たんでしょ~」
「いや、話が弾んでたし……それに僕、騎士に話があったから」
「「嘘ばっかり……」」
「嘘じゃないよ~。あいつら、近衛騎士にならないかと引き抜きが来たの~」
「「え……」」
これはルイーゼが忘れて帰った書類という証拠もあるので、カイサたちも信じざるを得ない。しかし護衛騎士はカイサとオーセの同期のようなモノだから、寂しさはある。
「止めないの?」
「まぁね。好きにさせるつもり」
「冷たいんだね……」
「これは出世なんだから、僕が口を出すことじゃないってだけ。みんな出て行くことになっても、応援してやろう。ね?」
「「……うん!」」
こうしてフィリップの考えに賛同したカイサとオーセは、寂しさを我慢して覚悟を決めるのであった。
翌日……
「これからもよろしくお願いします!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
護衛騎士は早くも決断。カイサとオーセは、嬉々として抱き合うのであった。
「ちなみに何が決め手? お金でしょ??」
「「「「「は、はい~」」」」」
でも、フィリップが残る理由を当てると、護衛騎士は揉み手でゴマを擦っていたので、少しでも悲しんだ自分が馬鹿だったと憤慨するカイサとオーセであったとさ。




