483 フィリップだって心配
フィリップが軍事費削減を知ってから1ヶ月。近隣の領地から兵士のリストラが始まっていた。
兵士は急にクビにされるのだから領主などに異議を唱えるが「皇帝命令だから」と聞く耳持たず。自分の地位を守るためなら、兵士のことなんて二の次の者が多いのだろう。
フィリップが操るステファンが手紙を送った領主などの半分は、涙を呑んでくれと説明する人が多い。給料を減らして兵士を多く残したり、違う職業への斡旋に走り回っているそうだ。
前者の場合は、領主と皇帝に怒りを持ち、反乱もしくは盗賊に鞍替え。領地が荒れ、領主は余計な出費が嵩み、税の徴収が増える悪循環となる。
後者の場合は一見平和に見えるが、給料が減っているから物価を直撃。緩やかに景気が悪くなり、税収も落ち込む。
どちらにしても、帝国に収めないといけない税は減る。ない袖は振れぬのだから、領主などは「待ってくれ」と手紙を認めるしかないのだ。
帝国中が景気悪化して行くなか、フィリップは暢気なもの。ステファンから報告を聞けば焦るぐらいはするのだろうが、そんなバッドニュースは聞きたくないので先送りで夜遊びだ。
今週はたまにはカイサとオーセを労おうと朝から起きてダラダラしていたら、2人が朝の報告を終えて帰って来た。
「2人とも~。早くぅぅ」
寝室からフィリップの呼ぶ声が聞こえると、ため息が出てしまう2人。自分たちは働いているのにと……
「私は別にいいんだけど、お城はいま、大変なことになってるよ?」
ついに小言を言ってしまったカイサ。フィリップはまったく気にせずオーセを呼び寄せたが、オーセも同じ意見らしい。
「こんなことばっかりしていていいの?」
「いいのいいの。僕が外に出るほうが国の迷惑になるから」
「「また適当なこと言って~」」
「適当じゃないよ? 宰相が言ってたも~ん。一生、病気でいろって」
「「どゆこと??」」
今日の2人はなかなかマッサージしてくれないので、フィリップは大嘘。第二皇子が変に動くと貴族たちが旗印にして内戦になると、コンラード元宰相が言ってたと説明する。
フィリップが言ったなら2人も嘘だと断罪しただろうが、唯一第二皇子を叱れる人の名前が出たのだから半分は信じてくれた。フィリップの口から聞かされたもん。
「それはそうと、宰相様、今日違う人に決まったって発表されてたよ」
「ふ~ん……誰になったの?」
「当ててみて~? プーくんには絶対わからないと思うけどね」
「うん。偉い人の名前、1人も知らないから当てようもないね」
「それはそれでどうかと……」
「プーくんに聞いたあたしが悪かった……」
オーセが煽ってみたけど、2人は呆れるだけだ。しかしカイサが正解を告げると、フィリップも顔色が変わった。
「メガネイケメンだと……」
「「ヨーセフ様って言ったでしょ~」」
そう。若輩者のヨーセフが並み居る帝国の重鎮を押し退けて、皇帝を除く帝国の実務ナンバー1の座に就いたからだ。
「それって経緯とか聞いてる?」
「確か……薬屋組合の立ち上げもやったし、貴族の不正もいっぱい見付けたからとか言ってたよ」
「その程度で??」
「プーくん。プーくんは何もしてないのに人のこと悪く言っちゃダメだよ」
「いや、これ、めっちゃ嫉妬されてない??」
またしても城が荒れそうなことをしているから、フィリップも心配だ。
「嫉妬というか、メイドさんの戦いが熾烈を極めているわ」
「もう、鬼の形相。今まで陛下陛下って言ってたのに、ヨーセフ様の取り合いよ」
「ふ、ふ~ん……荒れ荒れだね……」
未婚のヨーセフがそんな高い地位に就いたのだから、貴族女子が群がるのは必然。その声が大多数を占めるから、重鎮云々言ってる人はいないそうだ。
「他には何か面白い話ない?」
「貴族令嬢の足の引っ張り合いがえげつないわよ?」
「こんなにスキャンダルが出て来たのは初めて。もう、鼻血出そう」
「う、うん。楽しそうだね」
「「こんなのもあってね~~~」」
フィリップが知りたいのは、城の情勢。それなのにカイサとオーセは下世話なゴシップネタばかりフィリップに提供するのであったとさ。
ゴシップネタは面白いけど、ヨーセフが宰相になったのだからフィリップも心配。ここは会いたくもないけど、ステファンを薬屋に呼び出して密談だ。
「わ~お。こりゃまた面白いことになってるな~。アハハ」
各地の報告を聞いたフィリップから笑いが漏れる。ステファンは神にたいして不敬だけど、さすがにこれはないと眉をひそめた。
「笑い事ではないかと……」
「笑うしかないでしょ。各地の治安が荒れ荒れだよ? これ、お兄様が削減した軍事費、行って来いしただけになるんじゃね?」
「そ、そうですね。プラスになっても少ない税収になると思われます」
「あ~あ。これはマズイぞ~」
フィリップはまだニヤケ顔を崩さずステファンを試している。
「マズイとなると……敵国の動きですね」
「正解。試しにそろそろチョッカイ掛けて来るだろうね~……その辺の領主って、もちろん警戒してるよね?」
「おそらく……武闘派ですのでぬかりはないかと」
「念の為、宰相に心配してる旨の手紙を送らせよっか? もう会ってるよね??」
「宰相というとコンラード・シュティークリッツ侯爵様ですね。面会しております。急にお声が掛かったから、驚きましたよ」
殿上人の1人が伯爵家の息子に声を掛けるなんて稀。フィリップはドッキリを仕掛けていたんだから、驚いてもらわないと困るとか笑ってる。
「チョッカイだけで済んだらいいんだけどね~……」
「こちらが万全だと、完膚なきまでに追い返さないと本隊が攻めて来ますからね」
「追い返しても、時間稼ぎにしかならないよ。お兄様の外交手腕に掛かっているね」
「確かに……でも、陛下が出てくれたら安心ですね」
「だね。お兄様の頭脳があれば、もう2、3年は侵攻を遅らせられるよ。その間に立て直せば、ギリギリ間に合うかな?」
酷い政策をしていようと、天才フレドリクには信頼厚い2人。なんとかなりそうだとステファンにも笑顔が戻った。
「でも、それまで財政がな~……僕のお小遣い減らされたらどうしよう?」
「はい??」
「ほら? チョッカイにも兵士出さないといけないし、お兄様が外交するにもカネが掛かる。心配だな~」
「はあ……」
これまで帝国の未来のために賢いことを言っていたフィリップが自分の資産を心配するので、「ちょっとぐらい我慢しろ」と思うステファンであった……




