482 それぞれの不安
ルイーゼの悪口は花が咲き過ぎたので、フィリップもコンラード宰相も「ご内密に」と聞かなかったことにする。確実に首が物理的に飛ぶ内容だったもん。
そこでフィリップはノートを捲りながら真面目な話に戻す。
「僕の知らないところで貴族がこんなに裁かれていたとなると、今年の税収は予想を下方修正しなきゃか~……」
「修正しなくとも、軍事費に手を付けているのですから、答えは出てるでしょう」
「あ、そうか。天才のお兄様なら、必要な額は出てるか」
「問題は、領地で雇っている兵士です。問題なく削減できれば目標額は届きますが……」
「反発されたら、余計カネが掛かるよね~」
さらにの緊縮策は想像しただけで頭が痛くなるので、フィリップたちはなんとか領主の挙兵だけは止めたい。
「そうだ。ステファンってヤツ、知ってる? エッガース伯爵家の」
「はい。父親が爵位を剥奪されたのに戻った数少ない例ですので」
「そいつ、僕がちょっと助けてやったの。それから子飼いにしてるの」
「なるほど……不思議に思っていた謎が解けました」
フレドリクは前言を撤回することが少ないので、馬鹿皇子もやればできるじゃんとかコンラード宰相は思ってる。
「ステファンを使って、いまはできるだけ貴族が潰されないような活動をしてるの。ただ、ステファンの名前だけでは弱くてね~……宰相も協力してやってくんない?」
「私の名前ではなく、でん……わかりました。帝国のために一肌脱ぎましょう」
「うんうん。僕の名前じゃ逆効果だもんね~」
コンラード宰相はフィリップの名前はすぐに使えないと気付いてくれたね。最悪の評判だもん。
ひとまずフィリップはこれまでやって来た作戦を説明して、皇帝のイエスマンでマリオネットしか生き残れないことを周知してもらう。
「ところでダンマーク辺境伯ってどうだった?」
「それはもう怒り狂ってましたよ。宥めるのに大変でした」
今年もコンラード宰相がダンマーク辺境伯の対応を任されていい感じで終えたのに、式典でフレドリクが爆弾発言をしたから、あら大変。
皇族主催のパーティーや派閥主催のパーティーでは、派閥の長が「お考え直しを!」と訴えたけど、フレドリクの権力と口には勝てず。丸め込まれたんだとか。
あとからそれに気付いたらしく、派閥のパーティーは大荒れになったんだって。なのでコンラード宰相が大物の貴族を訪ね、宥めて回ったそうだ。
「あらら~。お疲れ様~」
「はあ。本当は殿下がやるべきことなんですがね~……」
「僕がいなくてよかったでしょ?」
「はい。いたら今ごろ帝都は戦場となっていました」
「体が弱くてよかったね~」
貴族が第二皇子に群がって謀反を起こす可能性はあったのだから、フィリップがいなくて助かったのは事実。でも、フィリップが他人事すぎるのでコンラード宰相は「どうせ仮病だろ」と睨んだ。
「こちらからもひとつよろしいでしょうか?」
「説教以外なら聞く。じゃなきゃ逃げる」
「説教ではございません。はぁ~……」
睨まれたら誰でも説教だと思うのに、コンラード宰相はため息攻撃だ。
「ダンマーク辺境伯です。いつも殿下はダンマーク辺境伯を気にしているように見えるので……何かあるのですか?」
「う~ん……噓ついてもいいけど……ま、いっか。父上にエステル嬢と結婚しろと言われてたんだよね~。それが父上が死んだ途端、パー。お兄様に反対されちゃった」
「なるほど。太上皇陛下なら使いそうな手です。その遺志を継ごうとするなんて、立派なところもあるではないですか」
「べっつに~。オッパイが気に入ってるだけだし~」
コンラード宰相に褒められたからフィリップは照れ隠ししたら、結局は説教。なのでフィリップはさっさと逃げたい。
「ま、長い間、父上とお兄様を助けてくれてありがとね。もしも何か困ったことあったら僕に言って。助けられるかは五分五分だけどね」
「皇帝陛下を相手にして、それだけの確率があるだけで驚異的な数字ですよ」
「ホント、自信はないから期待はしないでね?」
「はい。殿下に期待したことは一度もないので大丈夫でございます」
「それなら安心だ。アハハハ」
フィリップに嫌味は通じない。しかしその笑い方はどこか安心できるのか、コンラード宰相は初めてフィリップに期待を抱いて別れるのであった……
コンラード宰相の仕事部屋から出て来たフィリップは笑顔だったから、カイサたちは「どゆこと?」とヒソヒソ。絶対怒られて、意気消沈で出て来ると思っていたらしい。
フィリップに聞いても「別れの挨拶をしただけ」とはぐらかされるだけ。しかし根城に帰ると深刻な顔でノートを捲って読んでいたから、オーセとカイサは後ろからそっと近付いた。
「ねえ? 本当は何を喋っていたの?」
「国の大事な話じゃないの?」
「ん~? そんな大事なことなら僕なんか頼らないでしょ」
「またはぐらかす……」
「私たちぐらいには話をしてくれたらいいのに……」
フィリップは2人の気持ちを汲んで抱き締めた。
「大丈夫。何があっても、僕たちは大丈夫だよ。もしもなんてない。これだけは確実だ」
「プーくん……」
「プーちゃん……」
フィリップの力強い言葉で、2人の不安は消える。そんな2人をフィリップは、ベッドに投げ飛ばす……
「「え? この雰囲気でするの??」」
「本当は宰相にネチネチ怒られたの~。慰めて~~~」
「「そんなことだろうと思った……」」
その後はマッサージ。フィリップのことを心配したのは馬鹿だったなと、カイサとオーセの不安は完全に消滅するのであったとさ。




