481 和解
ラーシュに馬鹿にされたフィリップは仕返ししようと護衛騎士に跡を付けさせたけど、尻尾を見せない。というか、年末はみんな忙しいから女と会っている時間なんてないのだ。
カイサとオーセにも探らせているけど、それらしい情報は出て来ないんだとか。仕方がないので、ストレス発散に夜の街でパーッとやるフィリップ。
いつも通りだ。いや、例年の自分で自分を祝う下品で盛大な誕生日パーティーだ。
何十人も娼婦を買い、何百人も女性を侍らせたフィリップは、やっちまった。
自分の本当の誕生日会は気付かない内に仮病でキャンセル。年末年始の皇族の仕事は元々出席するつもりもなかったので気付いたら終わってた。
フィリップもさすがにこれはマズイかと思い、遅ればせながらフレドリクに頭を下げに行った。
「国のことなら大丈夫だ。それよりフィリップは、自分の体の心配をしていてくれ。去年は無理をさせてしまったから体に障ったのだろう。ゆっくり休め」
「はあ……」
いつも以上にフレドリクが優しいからフィリップも首を捻って執務室を出る。そこでカイサたちに「ここ最近変わったことあった?」と聞いて歩いていたら、「なんで知らないんだ」と怒られた。全て報告済みらしい。
なので誠心誠意謝って二度手間を喋らせようとしていたら、フィリップの苦手な人と鉢合わせしてしまった。
「ゲッ……宰相……」
「殿下。お久し振りですね。めっきり見なくなったので屋敷に伺おうと思っていたので、ちょうどよかったです」
「ちょうどよくないよ~。離してよ~~~」
フィリップ、またしてもコンラード宰相の肩に担がれて拉致される。カイサたちは「死ぬほど怒られたらいいんだ」と思いながら追いかけるのであった。
フィリップが放り込まれた部屋は、コンラード宰相の仕事部屋。コンラード宰相は箱に何かを詰めていた部下を全員外に追いやったので、フィリップは「犯される~」とか言ってプルプル震えている。
「そんなことするワケないでしょう。こちらへ掛けてください」
なんだかボケている雰囲気でもないので、フィリップはソファーに飛び込んだらふんぞり返った。
「荷物を片付けてるってことは、部署替えのお引っ越し?」
「いえ。陛下にお暇をいただきましたので、領地に帰ります」
「お暇ってのは、長期の休暇ということ?」
「永遠の休暇でございます」
フィリップは驚かないで「あっちゃ~」と頭を押さえた。
「お兄様と聖女ちゃん、どっちに何を言ったの?」
「フフフ。太上皇陛下の言う通り、何もかもお見通しですか。皇后陛下の苦言を、皇帝陛下にですよ」
「そりゃクビになるよ~」
どうやらコンラード宰相は、フレドリクの政策が性急過ぎるからずっと苦言を呈していたらしい。それでもフレドリクは減税や爵位の剥奪を強行したから、年末に発表した政策には怒りが爆発してしまった。
元々フレドリクは「ルイーゼが、ルイーゼが」と言っていたから「国の政策は陛下が熟慮して決めるモノ。皇后陛下の願いを叶えてばかりいたら国は崩壊します」と強めに言ってしまったそうだ。
「ありゃりゃ。その程度でクビか~……てか、年末の発表ってなに?」
「はぁ~……手を出していいですか?」
「病気! 僕、病気でずっと寝込んでたの~」
こんな重大な発表も知らないなんてとコンラード宰相の手は上がったが、冗談だったみたいだ。
「軍事費削減ですよ」
「うっわ……最悪な予想、当たってるじゃ~ん」
「殿下は発表前から予見していたと?」
「そりゃ貴族の絶対数が減ってるんだから、財源はどこかから引っ張らないといけないじゃない?」
「どうしてその頭があって、馬鹿なフリをしてるんだか……馬鹿なんですか?」
「賢いと認めた直後に否定しないでくんない?」
やはりフィリップとコンラード宰相は水と油。フィリップが本当に賢くても、生活態度が酷いから扱いが雑になるコンラード宰相であった。
「帝都を離れる前に、殿下に渡したい物があったのです。どうかお受け取りください」
コンラード宰相は立ち上がって仕事机からノートを持って来ると、テーブルの上に乗せてフィリップの前まで押した。
フィリップは「なんだろ?」と軽い気持ちでノートを持ってペラペラと捲った。
「僕の知らないところでこんなことあったんだ……」
それは、貴族のデスノート。太上皇が死去してから、フレドリクが裁いた貴族のことが事細かに載っているからフィリップも青ざめている。
「はい。皇后陛下の悪口を言った者は、容赦なく爵位を剥奪されています。侍女が多いですけど、酷い場合は父親までもです」
「そういえば、ここ2年は急に侍女がいなくなるって聞いていたか……あんまり興味なかったから詳しく聞いてなかったな」
「逆に聞きますけど、何に興味があるのですか?」
「……マッサージ??」
フィリップは正直に答えたのに、コンラード宰相は長いため息が出た。いまの話の流れでは、まったく関係ないもん。
「これで最後になるかも知れないから、言っておきたいことある? 僕以外の話でね」
「殿下以外となると……少ないですよ?」
「う、うん。少なくていいよ」
フィリップの愚痴はどれだけあるかは気になるけど、止まらなくなりそうだからツッコまない。
「太上皇陛下がご存命の時は、陛下が持って来た政策を止めていたことがありましたね」
「ふ~ん……父上の話には耳を傾けていたのか……」
「本当に亡くなってからです。人が変わったように、皇后陛下を優先するようになったのは」
「帝都学院の時も酷かったけどね~……」
2人はルイーゼの悪口だけは心が重なる。どちらも苦労したと話が盛り上がるのであった。




