478 ボエルの相談
フィリップがメイドカフェで貴族の報告を聞いてから数日後、ついにメイドカフェはオープンした。
どうやらフィリップがステファンたちをメイドカフェに連れて行ったのは、プレオープンを兼ねてだったみたい。オープン間近だったから、貴族や準貴族、平民の感想を聞いてその意見を反映させたのだ。
オープン当日は客は1人だけだったけど、噂が噂を読んで大盛況。並ぶ人も絶えなくなってしまった。
「しまったな~」
フィリップは各種報告を愚痴りにキャロリーナを訪ねたら、マッサージ後にそんなことを呟いた。
「なぁにぃ? 今日は気分じゃなかったぁ~?」
「あ、メイドカフェの話」
「あ、そっちぃ?」
2人とも大事な話より先にやることやってしまっているから、話がいつも噛み合わなくなるのだ。どっちも学習しないんだね。
「何がしまったのぉ?」
「客層だよ。そのせいで僕が入れなくなっちゃったの」
「ああ~……騎士様が多いんだっけ?」
「そうなの。準貴族って貧乏だから、メイドに飢えていたみたいなの」
「あらら~。平民向けと考えてたのにねぇ……これならもっといい立地に建てておけば、お貴族様もお金を落としてくれたわねぇ」
キャロリーナはソロバン勘定を始めるが、フィリップは首を横に振った。
「それがお忍びで来てるヤツが多いんだって。知り合いの貴族なんてしょっちゅう行ってやがんの」
「ますますもったいないことしたわぁ~。単価、考え直したほうがいいかもねぇ」
「もう一軒作ろうか? それとも執事カフェで貴族女子からカネを巻き上げちゃう?」
「いいわねぇ……男の子カフェってのはできないかしら?」
「それ、自分の願望でしょ??」
「殿下だって願望で作ってるでしょ~~~」
男の子カフェは、子供を働かせないといけないからナシ。ブーブー文句を言うキャロリーナと一緒に、新店舗について考えるフィリップであったとさ。
それからのフィリップは、夜は忙しい。新店舗の構想やメニュー開発、スタッフの面接に演技指導。どんどん疲れが溜まり、太陽が顔を見せているうちは一度も起きない。
そんなことになっているのに、カイサとオーセは「いい加減、働けよ」と陰口。フィリップが夜遊びばかりしていると思っているからだ。
フィリップはそのことを2人に言いたいが我慢していたら、気付いたこともある。
「第二皇子が何してんだろ……フフフ。公務そっちのけで、カフェ作ってら。フフフフ」
立場を、だ。普段から仕事をしたくないと言い張っていたのに、こんなことだけは率先してやっているから笑けて仕方がない。
ちなみにこの笑いは皇子とかは関係なく、働きたくないのに自分から働いてしまった敗北感から来た笑いらしい……
そんな矢先、夕方に起きたフィリップの下にボエルが訪ねて来た。
「なに~? 僕、忙しいんだけど~??」
「噓つけ。ずっと寝てただけだろ」
フィリップが忙しい日なんてあるワケがないとボエルも冷たいツッコミ。昨日もお昼に訪ねたけど、カイサたちから夕方にならないと起きないと聞いたから出直して来たんだって。
「んで、なんか用?」
「用っつうか、なんつうか……ただ話を聞いてもらいたいだけみたいな?」
「そんなの友達でもいいじゃん」
「いや、こんな話、していいかもわからないから殿下に聞いてほしいみたいな?」
「なんなの? ……もういいよ。好きに話して」
「やった!」
ボエルが要領を得ないことを言うので、フィリップも面倒になって話を聞く。
「こないだ、オレ、遠征に出てたんだ」
「そういえば、オーセたちがそんなこと言ってたような……」
「やっぱり聞いてなかったな。理由は、貴族の反乱の鎮圧だ」
「ああ~……そゆことね」
「な? 人に言いづらいだろ?」
フィリップはこれから血生臭い話になりそうだからカイサたちに退室を促したけど、聞いてみたいらしいので好きにさせる。
「ちなみに死者は出た?」
「ああ。少しな」
「じゃあ、そこは最後に回して、英雄譚を楽しませてもらおうじゃないか」
「そんなにいい話じゃないぞ~?」
どうやらボエルは、近衛騎士の実践訓練だからと遠征に組み込まれたらしい。ボエルも最初は初めての実践だと浮かれていたが、敵は領主だと聞いてその気持ちはなくなる。
周りの仲間も同じ帝国人と干戈を交えるのかと士気は下がっていたが、皇帝の命令だ。行くしかない。
現地に着くと、多くの兵が待ち構えていたから戦いとなったが、さすがはボエル。1人も殺さず敵を無力化した。
ただ、実力が拮抗している者はそうは言ってられない。自分の命を守るためには全力で戦うしかなかった。
その戦闘では負傷者多数で死者数は3人と少なかったが、終わってから事件が起こる。
「マジで?」
「本当だ」
「カイのヤツ、何やってんだ……」
カイが降伏した領主とその嫡男の首を刎ねたのだ。この事態には、ますます近衛騎士の士気が下がる。
ただ、残り2回の戦闘後はカイの蛮行はなく、生き残りの全ての敵兵は恩赦で無罪放免となったから、戦闘に参加した近衛騎士はどこか腑に落ちずに帰還したそうだ。
「どう思う?」
話を終えたボエルは、フィリップが何を思ったか知りたい。
「ボエルはどんな答えが欲しいの?」
「聞いてるのはこっちだろ~」
「そう言われてもね~……1件目は見せしめなんじゃない?」
「だよな~。それしかないよな~……」
フィリップはボエルの欲しそうな答えをあげたが、正解ではなさそうな反応だ。
「ちなみにカイは、帰ってからどうなったの?」
「たぶんお咎めナシ。降格の話もなかったし」
「じゃあ、お兄様の命令に含まれてたんじゃない?」
「それがカイ様は、出立前に、できるだけ生け捕りって言ってたんだよな~……」
「考えるだけ無駄だよ。現場では何が起こるかわからないんじゃない? それこそ降伏をしたあとに、隙を見てグサリってこともあるし」
「そんなもんか……」
フィリップはこう言っているが、本当は「聖女ちゃんの悪口言ったんだろうな~」と思ってます。ボエルもうっすらとそう思っているのか、まだ納得いかない顔をしているので、フィリップは励ますように話題を変える。
「そういう気持ちは、奧さんに労ってもらって忘れなよ。あ、そうだ。メイドカフェってのが最近流行ってるんだけど、もう行った?」
「メイドカフェ? なんだそれ??」
「その時間だけは、スタッフがボエル専用のメイドになってくれるの。ボエルだったらたぶん、ご主人様って出迎えてくれるよ~?」
「ふ、ふ~ん……ま、オレは嫁が笑顔で出迎えてくれたらそれでいいけどな」
こうしてボエルは、モヤモヤした気持ちが晴れて帰って行くのであった。
「あの顔は行く顔だよね?」
「「うん……男って……」」
ただし、その顔はスケベ顔だったので、フィリップたちにモロバレであったとさ。




