476 初めてのメイドカフェ
メイドカフェの件はキャロリーナの部下がイロイロしてくれるらしいので、フィリップはイメージを伝えるだけで数日放置。
仮病を使って夜遊びしていたら、店舗と最低限の人員は確保できたらしいので、フィリップも暇潰しに顔を出してコンセプトを説明していた。
性奴隷として売られた哀れな被害者は、性奴隷として買われたと聞いたのに、飲食店勤務と説明されたので泣きながら喜んでいた。
家賃と飲食費を差っ引かれた給料はそれほど多くはないが、貯めれば故郷に帰ることも不可能ではないからだ。
「はい! モエモエキュンキュン、美味しくな~れ」
「「「「「モエモエキュンキュン、美味しくな~れ……」」」」」
「もっと心を込めて! それじゃあ美味しくならないよ~?」
「「「「「モエモエキュンキュン、美味しくな~れ!」」」」」
ただし、フィリップがかわいらしい振り付けでワケのわからない呪文を教え込むので、これにはついていけない。
こんなに恥ずかしいことをするぐらいなら、体を売ったほうが早く解放されたのではないかと買われたことに後悔する女性もいたんだとか。
「あ、言い忘れてたけど、給料以外にも指名料ってのがあるの。それは出来高払いだから、頑張れば頑張るほどお金が貯まるよ? うちは去る者は追わず。最低限稼いだら出て行ってもいいし、もっと働いて大金を故郷に持ち帰ってもいい。ま、それだけ稼げたら、帝都から出たくなくなるかもね。田舎暮らしよりいい暮らしができるし」
「「「「「モエモエキュンキュン、美味しくな~れ! モエモエキュンキュン……」」」」」
フィリップが出来高払いを提示するだけで、スタッフはやる気アップ。早く故郷に帰りたいのだろう。はたまた、都会に残っていい男を捕まえたいのか……
着々とメイドカフェの準備が進むなか、根城に手紙が届いた。フィリップは日時と場所を指定して返すと、当日に待ち合わせ場所に現れた。
「ライアン様、お待ちしておりました」
「だから固いって。変装がバレるだろ」
手紙の送り主は、ステファン・エッガース。今日は各種報告をしようとフィリップに手紙を出したのだ。
「しかしわざわざ出向かなくても、ライアン様の屋敷でよかったのでは?」
「ヤバイ話するのに家なんて使えないでしょ。僕には懇意にしてる貴族は極少数なんだからね」
「さすがはライアン様。自衛も完璧ですね」
「様、言うな。入るよ」
フィリップは不機嫌な顔で目の前の店に一番乗りで入って行った。
「「「「「お帰りないませ。ご主人様~」」」」」
すると、ピンクや青、カラフルなメイド服を来た女性のお出迎え。ステファンやカイサたちはギョッとしてる。
「こ、こちらはライアンさ、君のお屋敷なのですか?」
「なワケないじゃん。ただのカフェだよ」
「でも、メイドが……」
「あとで説明する。メイドさん、僕たちは奥に案内して。あっちの小さい子と野郎は別々のテーブルで接客してあげてね」
「はい! お嬢様、席はあちらになりま~す」
「ご主人様はこちらへどうぞ~」
混乱しているカイサたちと護衛騎士がテーブル席に案内されるなか、フィリップとステファンは奥の個室に消えるのであった。
「オレンジジュースとスペシャルモエモエドリンクですね。では、ご主人様、少々お待ちくださ~い」
ピンク色メイドが個室から出て行くと、ステファンは苛立った顔でフィリップを見た。
「なんですかあのメイドの態度は……まったくなっていませんね」
どうやら家のメイドと比べると最低ランクだから気になるらしい。
「あのね。ここ、メイド風の接客で、平民を楽しませるだけのお店なの。お前ら貴族用じゃないんだよ」
「そ、それでも最低限のマナーは必要かと」
「かわいかったらなんでもいいんだよ。それとも僕の作った店に喧嘩売ってんの?」
「ライアン君のお店だったのですか!?」
第二皇子がこんな下世話なお店を作っていたことと、出資していたことにステファンは二度ビックリ。もう何も言えなくなってしまった。
そこにさっきのピンク色メイドがノックをして入って来たら、フィリップにはオレンジジュースを普通に目の前に置き、ステファンは冷たい目で見た。
「ちょっとご主人様。自分で取りなさいよ」
「なっ……」
「言われた通りしろ」
「は、はい……」
ピンク色メイドに命令されたステファンは怒りの表情になったが、フィリップに言われたら素直に従う。
「ミルクはいるの~?」
「い、いらない……」
「それならそうと始めに言っておきなさいよ。使えないわね~」
「なっ……す、すまない」
またしても怒りそうになったステファンだが、フィリップが足を蹴ったから謝罪。
「でも、そんなご主人様、私は好きだよ。強く言ってゴメンね。お詫びにたくさん愛情入れてあ・げ・る……モエモエキュンキュン、美味しくな~れ。ふう~」
ピンク色メイドはかわいい仕草で軽く踊り、手でハートを作ってその間に息を吹き掛ける。これでただの紅茶は、スペシャルモエモエドリンクに変身だ。
「うっ……」
それをされたステファンは、何故か胸を押さえたのであった……
「さっきまで怒っていたのに、どうしたのかな~? プププ」
ステファンが呆けた顔をしているので、フィリップはニヤニヤ問い質す。
「いや、その……ちょっと驚いただけです」
「だいぶ気に入ったような顔をしていたと思ったけどな~……やっぱり貴族は入れないように何かしらの手を打たなきゃダメか」
「そ、そんな必要ありません!」
「アレアレ~? どうして僕に怒鳴るのかな~??」
堅物のステファン、ツンデレ対応にドハマりする。フィリップはその顔を見て「いい客になってくれそうだな」とニヤニヤ笑うのであった。




