474 ボエルの結婚式
誠心誠意の忠誠を誓ったステファン・エッガース伯爵、フィリップに気持ち悪がられて撃沈。泣き付いてみたが、もっと気持ち悪がられて殺されそうになったからには諦めるしかなかった。フィリップに男は必要ないんだもん。
「てか、善良そうな貴族には、僕の忠告を教えてあげて。その時、絶対に僕の名前を出すなよ?」
「はっ。しかし、殿下の名前を使ったほうが、広がりやすいのでは?」
「馬鹿か? そんなことしたら、僕が謀反を企てているように見えるだろ」
「あっ! 陛下に睨まれたら、動きにくいということですか」
「お前、本当に頭悪いな。お兄様は微塵もそんな考えしないよ。馬鹿な貴族が僕を旗印にして、内戦になるんだよ。ちょっと考えたらわかることだろ」
「ああっ!?」
ステファンは優秀な人間の部類だが、フィリップほど先を見据えていなかっただけ。ステファンの中ではますますフィリップが神格化してるよ。
「あと、馬鹿皇子の戯言を誰が信じるのよ?」
「ああっ!!??」
「それが一番の理由だけど……さっきより驚かないでくれない?」
貴族の間ではフィリップは最低最悪の悪ガキで通っているのだから、このことを思い出したステファンは怒りに満ちた顔をしてる。神様を愚弄されてると感じたらしい。
「いい? 僕は馬鹿でスケベな引きこもり皇子。外ではそう対応して。わかった?」
「はっ! 仰せのままに」
「固い固い。真面目なヤツは苦手なの。挨拶は軽いノリでチョリースとかでいいんだよ」
「チョ、チョリース……」
真面目な顔でチョケられてはフィリップもキレそうだ。
「やっぱしいいや。お前の仕事は、爵位剥奪をできるだけ防ぐこと。いまは帝都だけだけど、これから帝国全土に広がって行くよ。地方のほうが何をやっているかわからないんだから、血も流れるかもしれない……責任重大だ。頑張ってね」
「はっ!!」
斯くしてステファンはフィリップの手足となり、仲間と共に貴族を説得して爵位剥奪を必死に止めようと走り回るのであった……
「地下で何を話してたの?」
「テーブルが粉々だったと聞いたよ?」
「なんか僕がやりたくないってゴネたらキレちゃって……そんなに怒らなくてもいいよね?」
「「いや、やれよ」」
この件はカイサとオーセも危機感があるらしく、フィリップが嘘をついたら「ステファン様に押し付けたのね!」とキレるのであったとさ。
ステファンが忙しく走り回っているのに、フィリップは平民街のカフェに呼び出して「帳簿、みんなに返しておいてくれない?」と仕事を増やす。
カイサたちは「それぐらいお前がやれよ」と怒っていたけど、ステファンは嬉しそうに受け取って行ったから、さすがに勘繰っていた。ステファンの恍惚な表情が気持ち悪いんだもん。
それから時が過ぎ、八月後半……
帝都では爵位を剥奪された貴族が失意に沈み、剥奪されていない貴族は次は自分の番かと怯えていても、自分には関係ないと思っている者もいる。
「こんな時にやることなのかな?」
「城は暗い空気なのにね~」
「ボエルは知らないんじゃない?」
フィリップのことだと思った人もいるだろうが、今日はボエルの結婚式。カイサとオーセもフィリップに一票入れちゃったよ。
ボエルの結婚式は、フィリップの権力と財力で、リネーアたちと同じ神殿の式場。両家の御家族は、その豪華さに圧倒されていて話を聞いているかよくわからない。
ちなみにボエルの両親の時は、父親は騎士爵を持っていたけどお金が足りないから、平民街にある神殿の支店だったんだって。
今回の結婚式は、皇帝夫婦は欠席。ボエルが近衛騎士といっても、騎士と平民の結婚だから身分が違い過ぎるからだ。てか、ボエル夫婦は緊張するからって、フィリップに止めてくれと必死にお願いしていたよ。
フィリップもさすがにフレドリクは出席しないと思っていたら、弟が世話になったという理由で出席する気満々だったから必死に止めたんだって。新婦がフレドリクを見たら死ぬもん。もしくは、男に目覚めて破談……
結局出席者はボエルに縁がある人と、カロラの友達やお世話になったアクセーン男爵家一同。第二皇子が出席すると聞いたから押し掛けたらしい。あわよくばフレドリクがいると期待していたから、いなくてガッカリしたんだとか。
披露宴は、フィリップの根城。ボエルの実家でしようとしていたけど、家も庭も狭いからフィリップが貸し出したのだ。
「殿下……何から何までありがとうございます!」
「ありがとうございます!!」
庭でカイサとオーセを侍らせて一杯やっているフィリップの下へ、本日の主役のボエル夫婦が挨拶にやって来た。
「いいよいいよ。ボエルには借りが山のようにあるからね~」
「オモチャの件か? そんなの俺が殿下に貰った恩に比べたら微々たるもんだ。思い出したらムカつくけど……」
「ええ~? 微々たるモノじゃなかったの~??」
「いま感謝してやってる最中なんだから黙って聞けよ!!」
ボエルが第二皇子を怒鳴るモノだから、両家の出席者は蒼白。しかしボエルとフィリップの関係を知っている者は大笑いしてるから、両家の出席者は大混乱だ。
「えっと……なんだったかな? そうそう! 神殿も女どうしの結婚は反対してたんだろ?」
「最初はね。聖女ちゃんに頼んだら一発だったから、たいした労力は使ってないよ」
「え? 人頼みだったの? これ、皇后様に感謝したほうがいいヤツ??」
「だね。今日まで秘密にしてもらったから、今度護衛する時に感謝しときな。菓子折りも忘れずにね」
「それ、先に言えよ~。昨日、すっごい見てたの、それじゃ~ん」
「おお~。聖女ちゃんもやる時はやるね~。アハハハハハ」
おっちょこちょいのルイーゼならバラしていてもしょうがないと思っていたけど、今日まで守られたのだからフィリップも感謝。
ボエルのとっておきの負け顔を見れたフィリップは、大声で笑いながら2人を祝福するのであった……
それから1週間後、平民街の貴族街寄りにあるこじんまりした一軒家にフィリップは遊びに来ていた。
「殿下、ちょっと相談があるんだけど……」
ここはボエルが買ったお家。新婚さんの愛の巣だ。ちなみに仕事の時は走って行ってるよ。
「ん~?」
「殿下がイロイロ出してくれたじゃん? この家も半分ぐらい出してくれたし……」
「なになに? お金に困ってるの??」
「そういうことじゃなくて……最近、貴族が爵位を剥奪されてるだろ? 俺が貰ったお金は大丈夫なヤツなのかと思って……てか、これって殿下から賄賂貰ったことにならないよな! なっ!?」
どうやらボエル、やっと城の騒ぎに気付いたから超心配になってる模様。
「大丈夫大丈夫。僕には査察入らないもん。たとえ裏金だとしても大丈夫だよ」
「やっぱり汚いカネだったんだな!」
「アハハハハハ」
「答えろよ~~~!!」
こうしてフィリップは、怒ったボエルに胸倉を掴まれても笑い続けるのであったとさ。




