472 忠告
貴族の大量爵位剥奪事件は、フィリップはできることはやった。あとは結果待ちだ。オーセたちにもそう伝えたけど、密室で話をしていたからあまり信じてくれませんでした。
貴族の爵位が戻る確率は、フィリップの予想では五分五分。この件にはルイーゼが絡んでいるから、フレドリクがどう動くかわからないのだ。ぶっちゃけ、ちょっと諦めてる。
この日のフィリップは、護衛騎士に手紙を持たせて走らせ、ペトロネラの職場を訪ねてチョイチョイ呼び出してみた。
「私が結婚したから寂しくなったのですか? 今晩、会いに行きましょうか? 泊まりで」
「来なくていいから。ちょっと話を聞いて。公爵家全員に伝えて欲しいことがあるの」
「殿下が公爵家全員に……何か事件でもあったのですか?」
「事件はもう起こっているよ」
ペトロネラはフィリップがそこそこ賢いことは知っているので、個室に移動して話を聞く。そのせいで、ペトロネラを忘れられなくて職場にまで押し掛けて来たストーカー野郎という噂が駆け巡ったんだとか。
フィリップの言伝はペトロネラは守ると約束してくれたが、他はどうなるか微妙とのこと。フィリップの名を伏せてペトロネラの案にしても、頭の固い人を説得することは難しいからだ。
ペトロネラに何度も「今晩、どう?」と言われても全て断ったフィリップは根城に逃げ帰り、日が暮れたら馬車に乗って外出。
カイサたちは「堂々と浮気相手のところに行くの?」とずっとヒソヒソやってるよ。
「狭い車内なんだから、聞こえてるよ?」
「どんな人のところに通ってるんだろうね~?」
「たぶん、ペトロネラ様みたいな大人な女性じゃな~い?」
「普通の声に戻して続けないでくれまいか?」
フィリップの質問の意図は直接聞け。なのに2人は妄想に花を咲かせているので聞きゃしない。でも、フィリップも楽しく聞いてるね。
そんなフィリップがやって来た場所は、騎士の宿舎。夜だから人はあまり歩いていないけど、フィリップを見た騎士は「男にまで手を出してるの!?」と走って逃げてった。餌食になると思ったらしい。
カイサたちもその妄想が広がっていたが、フィリップがノックした部屋から女性が出て来たから、今度は「寝取り?」とかヒソヒソやっていた。
そんな2人を無視してフィリップは1人で中に入り、部屋の中を見渡している。
「狭いところで申し訳ありません」
「あ、そんなこと思ってないよ。ジロジロ見てゴメンね。既婚者の宿舎はこんなんなんだ~っと珍しくてね~」
「はあ……それで御用件とは?」
「その前に、旦那さんはいないの?」
「そこに立っていますけど……」
「え? うわっ! めっちゃモブッぽいから存在に気付かなかった!?」
モブッぽい人が夫ということは、今まで喋っていた人はリネーア。モブッぽい人はリネーアと結婚したコニー。つまりここはモルダース男爵家の愛の巣だ。
「「存在まで忘れられるなんて……」」
「ゴメン。ゴメンね? ちょっとしたジョークだから。ね? これをやらないと、調子が出ないだけだから。ちゃんと旦那さんのことは覚えてるよ~」
フィリップは謝っているけど 名前を呼ばずに「旦那さん」と言っているので、2人とも「これ、あだ名も思い出してないな」とジト目は直らない。
そんな2人の目を無視して、フィリップはテーブル席に勝手に座って本題だ。
「今日来たのはね。2人は僕の知り合いだから、助けに来たの」
「「助ける??」」
「うん。爵位を剥奪されてる貴族が多いじゃない? その対応策をね」
リネーアたちは急に真面目な話が来たので、頷き合ってフィリップの正面に座った。
「いちおう聞くけど、横領や裏金とかはやってないよね?」
「はい。私たちは領地がありませんし、まだ新人の部類ですのでお金に関することは任されていませんから」
「そりゃそうか。でも、親は何してるかわからないよね?」
「わかりませんが、そこまで裕福ではないですから、そういったことに手を出していないかと」
「ボクの家も同じです。父は町民をどう食べさせるかをいつも考えている人なので、横領なんかやらないと信じています」
フィリップは「モブが喋った!」と一瞬驚いてから口を開く。
「それがね~。そういうワケにもいかないのよね~」
そしてたいしたこともしていない貴族まで裁かれていると裏情報を出したら、リネーアたちも顔色が変わった。その程度なら、やっていないと言い切れないのだ。
「だからね。爵位を剥奪されてからでは対応が難しいの。先に怪しい帳簿は開示して申し開きをしたほうが、助かる可能性があるってことを伝えに来たの」
「そういうことでしたか……すぐに手紙を出します。ご忠告、ありがとうござ」
「あ、まだ話は終わりじゃないよ」
リネーアたちは立ち上がってお辞儀をしようとしたけど、フィリップに止められたので席に着いた。
「僕の予想だけど、これから貴族に冬の時代がやって来る……抽象的な言い方じゃわからないか。ハッキリ言うね。貴族が優遇されない、不遇の時代に突入した」
まさかとは思ったリネーアたちでも、現時点で大量剥奪が起こっているから信じるしかない。
「貴族が生き残るには、清廉潔白、お兄様と聖女ちゃんのイエスマンになるしかない。特に、聖女ちゃんの悪口はダメだよ? 一発退場。素行に口を出してもダメ。見て見ぬフリでやり過ごして。じゃないと、絶対に生き残れない」
フィリップの提言に、どう返していいかわからない2人。フレドリクとルイーゼがそんなことをするとは思えないみたいだ。
「ま、馬鹿な僕にこんなこと言われても信じられないよね。だから、2年は息を殺して様子を見てよ。そしたら僕の言ってる意味がわかるから」
フィリップが表情を崩すと、リネーアは勢いよく立ち上がった。
「私は殿下を信じます! 親も必ず説得してみせます! だって、いまの幸せがあるのは、全部、殿下のおかげですもの。私には幸せで居続ける義務があるのですから!!」
「そうだった……リネーア嬢って僕のイエスマンだったね。たはは」
「あ、いえ、そういうワケでは……」
でも、フィリップが余計なことを言ったので、リネーアは恥ずかしそうに座った。
「んじゃ、僕のできることはここまでだ。2人とも、頑張って生き残ってね~」
「「ご忠告、ありがとうございました」」
フィリップは話が終わったらそそくさと退散。リネーアとコニーは、頭を下げて見送るのであった……
「ねえ? 殿下ってまともなこと言えるんだね……」
「そうよ。本当はすっごく賢いんだよ。あ、このこと秘密ね」
「言っても馬鹿にされるから言えない……」
賢いことを言うフィリップを初めて見たコニーは、呆気に取られるのであった。
「アレ? モブ君って、僕が賢いの知ってたっけ?」
その夜、コニーに素の姿を見せ過ぎたと反省するフィリップであったけど、次の日にはすっかり存在から忘れたフィリップであったとさ。




