470 貴族の直訴
フィリップの言い放った「平民のクソ野郎ども」で、会議室は怒号が飛び交う。しかし、貴族たちはお願いするためにフィリップに会いに来たのだから、怒っている場合ではない。すぐに沈黙した。怒りに溢れている人ばっかりだけどね。
「んで、平民が僕になんの用なの? 僕、皇帝とかまったく興味ないよ??」
フィリップが煽るように質問すると、オッサンたちは怒って何かを言おうとしたが、唇を噛んで耐えた。
そこに1人の好青年が手を挙げたので、フィリップはニヤニヤしながら当ててあげた。
「先日、エッガース伯爵家の当主になったステファンです。まずはこのような機会をいただけて、感謝いたします」
「あ、君は平民じゃないんだ。僕と喋ることを許可しよう」
「有り難き幸せ……」
ステファンは仰々しくお辞儀をすると、続きを喋る。
「先程の殿下の質問の答えなのですが、殿下はすでに我々の目的がおわかりなのではないでしょうか?」
「なんのこと? わっかんな~い」
「我々を平民とお呼びになったではないですか? つまり、爵位の復活を我々が望んでいると、すでにご承知だと存じます。噂はまったく当てになりませんね」
これだけ煽ったからには賢さが気付かれないと思っていたフィリップは、ここで初めてニヤケ顔をやめた。
「城でもその噂で持ち切りだったからだよ。こんだけ毎日大量の貴族が来たら、誰だってわかるよ」
「ご謙遜を……聡明な殿下になら我々の命を預けられると、私は感動で打ち震えているところです」
「お前、心にもないこと言うなよ。気持ち悪い」
「滅相もありません……いえ、出過ぎたマネをしました。私は下がりますが、どうか皆の話を親身になってお聞きください。失礼します」
ステファンは本当に後ろに移動したので、フィリップは適当に若い貴族を指名して話を聞く。
「私の父は、確かに不正をしていました。ですが、爵位を剥奪されるほどのことですか? どうか、皇帝陛下に撤回していただけるように頼んでください!!」
「額は??」
「額??」
「お金だよ。いくら横領してたの?」
「そ、それは……いま、手元に帳簿がありませんので……」
「じゃあ、使い道は??」
「それもわかりません……」
フィリップはため息が出てしまった。
「あのさ~? 時間あげたじゃん? 直訴するなら、せめて帳簿と裏帳簿を持って来いよ。あと、賄賂も……それが礼儀じゃない?」
「謝礼金なら持って来ました!!」
「それ、貰ってもいいけど、帳簿と裏帳簿もなかったら、僕、何もしないよ?」
「それで構いません……」
「お、いい心掛けだね。お兄様に賄賂貰ったって伝えておくね」
「そ、それはちょっと……」
どうやらこの若い貴族、フィリップに賄賂を渡して脅しのネタにしようとしていたみたい。他にも財布を取り出していた貴族はいっぱい居たが、そっと懐に仕舞い込んだ。
フィリップは目敏くそのことに気付いて、「そんなヤツばっかりか~い。だからクビになるんだよ」と鼻で笑ってた。
「とりあえず、帳簿と裏帳簿を持って来たヤツから話を聞く。並んで。カイサ、オーセ、整列させて」
「「はい」」
フィリップの要求した物を持って来た貴族は1割程度。裏帳簿は面白いのか、フィリップは熟読してるよ。
「あんた、凄いね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「いや、褒めてないよ? これだけ汚い金を集めておいて、よく僕に見せられたな~っと……勇気が凄い」
「え??」
「ま、僕に裁く権利はないから、見なかったことにするよ。次の人~」
「待ってください。裏帳簿は……」
「しばらく僕が保管しておく。僕が持ってたら絶対にバレないよ~?」
貴族は返してほしいが、フィリップが手放さないので渋々従う。もうすでに見られたから、同じことだからだ。
フィリップはというと、裏帳簿を持って来た者には「悪人は馬鹿な人多いのかな?」と思ってずっとニヤニヤ。まぁ額は微々たるモノだから、小悪党は馬鹿な人が多いのだと自分を納得させた。
「まだ時間あるし、帳簿だけ持って来た人も、少しぐらい話を聞いてやるよ」
続きましては、帳簿の閲覧。どこの数字が指摘されたのかと聞いて、軽くメモを取る。その中にはステファンも入っていたから、フィリップは嫌悪感たっぷりの顔で迎えた。
「この飲食費の2となっている物なのですが……」
「額は確かに多いけど、使い道は?」
「基本的には、商人との飲み食いです。そこでしか得られない情報もありますので」
「ふ~ん……でも、この飲食費、増えたり減ったりしてるじゃん? 増える理由は賄賂ってことでしょ??」
フィリップはやっとこのいけ好かない好青年の尻尾を掴んだと、ニヤリと笑った。
「賄賂といえば賄賂なのですが、我々は貴族ですので、商人はどうしても受け取ってくれと渡してくるケースがあるのです。ですから、飲食費をふたつに分けて、商人とのやり取りは、できるだけ税を使わないようにしていたのです」
「チッ……面白くない答え」
フィリップは「こんなことで剥奪?」と思ったけど、ステファンが好青年すぎて助ける気も起きないみたいだな。
「てか、申し開きはしなかったの?」
「もちろんしようとしましたが、陛下は聞く耳は持てないとのご回答で……ここにいる皆、同じ境遇です」
「それは変だな……どこかで止まってるのか……」
「私もそう思います。どうか、申し開きの機会だけでもお作りしてください。お願いします」
ステファンが深々と頭を下げると、後ろに控える貴族の内、若手の貴族がチラホラと続いた。フィリップは「頭下げなかったヤツはクビにされて当然」とか考えてる。
「チッ……仕方がない。言うだけ言ってみる。期待はするなよ?」
「ありがとうございます!!」
「そのかわり、お前は僕の手足になれ。何人か使えそうなヤツも見繕っておいてよ」
「はっ! お任せあれ!!」
「んじゃ、次の人~」
ステファンのことは好きになれそうにないが、1人でこの人数を捌くのは面倒なので、仲間に加えるフィリップであった。




