469 愚策
フィリップの企みは全て成功。大怪我してからはフレドリクも仕事をしろなんて言わなくなったので、安心して根城に引きこもっている。
もちろん夜の街に繰り出して、マッサージ三昧。最近は新しく開業した方言クラブも視察して、キャロリーナには方言娼館を作ってくれとお願いしてた。ハマったんだね。
そんなに遊び倒しているので、昼間は全然起きない。しかし、今日はカイサとオーセがしつこく起こすので、フィリップも目を開けざるを得なかった。
「ん~? どったの??」
「それが……なんだかプーちゃんに会いたいって貴族様が、大勢集まってるみたいなの」
「騎士様も対応に困ってるよ。何か指示したら?」
「あぁ~……殺してって言って来て」
「「言えるか!!」」
フィリップは塩対応を通り越して残虐対応をしようとするので、そりゃ2人も怒るよ。
「冗談……ちょっと何か飲ませて。頭が回らない。まだ寝惚けてるな~」
「プーくんって、面倒臭そうな人が近付いて来たら、すぐ酷いこと言うよね?」
「いつもそんなこと思ってるんじゃないよね?」
「思うぐらいはタダでしょ」
「値段は関係ない……」
「ダメだねコレ」
フィリップは本当にまだ寝惚けていると察した2人は、夏なのにあっつい紅茶を淹れてフィリップを驚かす。フィリップも完全に目が覚めたので、一気飲みだ。
「え? 熱くなかったの? 大丈夫??」
「それより僕の騎士に、集まってる目的だけ聞き取りさせて」
「プーちゃん、火傷してない??」
「たぶん大丈夫。早くしないと寝ちゃうよ~?」
「「まだ寝惚けてるのかな~?」」
熱にも反応しないし怒りもしないのでは、2人は首を傾げて命令通り動く。ちなみにフィリップは氷魔法で紅茶を冷やしてから飲んだから、逆に冷たいぐらいだったんだよ。
「どうもプーちゃんにお願いがあるみたいだったよ」
「ただ、会って直接じゃないと言えない内容なんだって」
戻って来たカイサとオーセは護衛騎士から聞いた通り報告していた。しかしこれではフィリップも動く気が起きないみたいだ。
「なんだろ? また僕を皇帝にって考えてる馬鹿がいるのかな……」
「プーちゃんに馬鹿って言われるなんて……」
「確かにプーくんを皇帝陛下にしようとするなんて馬鹿みたいなことだけど……」
「ここ最近のメイドって、どんな噂話が多いの?」
「んっとね……」
主人を目の前で馬鹿にしても怒られないのはいつものことなので、カイサとオーセは代わる代わるゴシップネタを披露する。
「総じて、貴族の当主がクビになってる話題が多いってことかな?」
「だね。その人に対して馬鹿にする人が多いこと多いこと」
「女に貢いで家にまで浮気相手を連れ込む最低男じゃ馬鹿にされるよ~」
「なるほどね~……ちょっと2人とも手伝って」
フィリップはサラサラッと手紙を書くと、2人にも用紙を渡して写させる。
「プーちゃん。会うの?」
「珍しい……でも、なんでここじゃないの?」
「そりゃ、貴族を僕のテリトリーに入れるの嫌じゃない?」
「「貴族って皇家の家臣だろ」」
「てへ」
珍しいこともあるもんだと思ったけど、家臣を家には入れたがらないことに呆れる2人。冷たくツッコンではみたが、フィリップはてへぺろしていたから、もっと呆れるだけであった。
3人掛かりで10枚以上の手紙が書けたら、カイサに渡して護衛騎士に届けてもらう。この手紙だけではまったく足りないから、護衛騎士には回し読みするように伝えた。
その結果、貴族の群れはガヤガヤ退散。手紙には面会の約束が書かれていたが、本当に来てくれるのかは心配らしい。あと、文字が子供っぽいのも話のネタにされたんだとか。
丸文字はカイサとオーセが書いたのに……
この日の夜は、フィリップも情報収集に奴隷館にやって来たけど、いつも通りキャロリーナに貪り食われてからだ。
「最近、貴族になんか変化がある?」
「そうなのよぉ。お得意様が何人もぉ、もう来れないと去って行ってぇ、どの店も売り上げが減ってるのよぉ~」
「あらら。理由は聞いてるの?」
「本人は妻にバレたからとか言ってたけどぉ、馬鹿よねぇ。爵位を剥奪されたなんてぇ、どこからでも聞こえて来るわよぉ」
「みんな噂好きだもんね~」
これでフィリップは貴族が押し寄せた理由は完全にわかった。キャロリーナもフィリップの質問の意図がある程度わかったみたいだ。
「こんなに一斉に剥奪されるなんてぇ、城で何かあったのぉ?」
「キャロちゃんになら言ってもいいけど……聞く??」
「そうよねぇ。危ない情報よねぇ……でも、こんなのが続く可能性は否定できないのよねぇ……教えてちょうだい」
背に腹は代えられない。キャロリーナが覚悟を決めたので、フィリップは会計の仕事を手伝った話から聞かせてあげた。
「横領の摘発ねぇ……」
「そそ。たぶん、まだ序の口。部屋にはめちゃくちゃ書類あったもん」
「まだまだ続くなんて困ったわぁ。でも……」
「でも??」
「殿下、本当に仕事してたんだ……」
「そこに引っ掛からないでくれない?」
せっかくいい情報をもらっても、情報源がちゃらんぽらんでは信頼が揺らぐ。キャロリーナは嘘であってくれと願いながら、フィリップの体を弄ぶのであった。
貴族の群れが根城に押し寄せてから3日。この間、貴族が毎日現れていたが、フィリップたちの書いた手紙を護衛騎士が渡して写させたら帰って行く。
あまりにも多いから、フィリップたちも書くのが面倒になったんだって。実際には、自分より位の高い者に書かせられないと、護衛騎士が頑張って書き写したメモを渡していたが……
フィリップも昼型になったので、約束の地に出発。平民に変装したフィリップたちが馬車に揺られてやって来たのは、商業ギルドの会議室だ。
フィリップは城以外に広い場所なんてここしか知らなかったから、キャロリーナに手配してもらったのだ。3日で用意なんて無理だから、貴族が100人以上来ると脅したらしい。
その騒がしい会議室の扉をカイサとオーセが開くと、貴族のオッサンでぎゅうぎゅう詰め。におうのか、フィリップはハンカチで鼻を押さえて入る。
貴族たちは「平民のガキ?」と思った矢先、フィリップがカツラを取って金髪パーマを見せるとピタリと会話をやめた。いちおう姿は知ってたみたい。
そうしてフィリップが何を言うかと固唾を飲んで見守る貴族たち……
「え~……平民のクソ野郎ども。よく僕の前に顔を出せたな」
「「「「「なっ……」」」」」
たった一言で、会議室は怒り爆発。やはり馬鹿皇子を頼るなんて、愚策中の愚策だったと口走る貴族たちであった……




