461 第二皇子誘拐事件
「敵襲っ!?」
寝室にオーセとカイサが血相変えて飛び込んで来たのだから、寝惚けていたフィリップもさすがに飛び起きた。そして2人を寝室の隅に呼び寄せたら、フィリップは守るように前に立つ。
その直後、寝室のドアが外枠と一緒に倒れた。オーセとカイサは震え、フィリップもいざとなったら実力を見せる覚悟を決めた。
「フィリップ。迎えに来てやったぞ」
「……カイ??」
「ん? なに構えてんだ??」
敵襲の正体はカイ。
「なにはこっちのセリフだよ! なに勝手に入って来て、なにドア壊してるんだよ!!」
「フレドリクから聞いてないのか? ドアは~……軽く押しても開かなかったから、力を入れたら壊れただけだ」
「うち、アウトドア~~~!!」
破壊の理由は筋肉バカだから。フィリップは他にも何か壊してないかと思った矢先、嫌な予感がしたから裸足のままバルコニーに走った。
「嘘だろ……うちの騎士まで……」
それは、酷い惨状。フィリップの護衛騎士は全員、仰向けに倒れていたのだ。
「アイツらは、俺を止めるからちょっと手合わせしてやっただけだ。なかなかいい動きだったが、俺の敵ではないな」
護衛騎士はちゃんとフィリップを守る仕事をしたけど、カイには言葉が通じなかったっぽい。
オーセたちは騒ぎ声が聞こえてバルコニーに出たら護衛騎士がやられていたから、時間稼ぎしようとドアに鍵を掛けて震えてたんだって。
「止めるに決まってるでしょ! 今までどうやってこの貴族社会で生きて来たんだよ!?」
ここまで筋肉バカでは、常識のないフィリップだって常識を口走ったよ。
「まぁまぁ。それじゃあ行こうか?」
「は? ここ、2階だよ??」
でも、カイには通じない。カイはフィリップの背中に手を回したら、手摺りに向けて一歩進んだからその先が怖い。
「歯ぁ食い縛ってろよ!」
「ぎゃああぁぁ~~~! 騎士にポーション飲ませてあげて~~~……」
予想通り、カイはフィリップの首根っこを掴んで飛び下り。フィリップは最後の言葉を残して連れさらわれて行くのであったとさ。
「お……落ちたよ!?」
「殿下! 大丈夫!?」
フィリップを掴んだカイがバルコニーから飛び下りたのだから、オーセとカイサはあたふた。下を見たらカイはフィリップを肩に担いで走っていたけど、まだ混乱中だ。
「お、追わないと!?」
「ま、待って。殿下、最後に何か言ってたわよね……ポーション!」
「そうだ! 騎士様と一緒に来いってことじゃない? 戦って連れ戻すとか??」
「相手は陛下のご親友のカイ様よ? それはないでしょ。とりあえず騎士様の怪我を治して、殿下を捜しましょう」
「うん!」
ようやく落ち着きを取り戻したオーセとカイサは下の部屋でポーションを手に取り、護衛騎士を治療したらお願いして馬車を出してもらうのであった。
オーセたちは馬車を走らせたのはいいものの、フィリップの行き先がわからない。連れて来た2人の護衛騎士と相談したら、同じ近衛騎士のボエルに聞いたらいいのではないかとなった。
とりあえずボエルがいそうなフレドリク邸に向かい、門番から中央館の訓練場にいると聞いたので、そちらに馬車を走らせる。
そうして訓練場近くの馬小屋に馬車を預けたら、4人は走ってフィリップを捜す。
「いた!」
「「「殿下~~~!!」」」
フィリップがいた場所は、訓練場の隅っこ。腕を組むカイに見下ろされて、パジャマ姿のままのフィリップは腕立て伏せをしていた。
「も、もう無理……ガクッ……」
「おお~い。5回でギブアップかよ。女子でももっとできるぞ」
オーセたちが駆け寄ったその時、フィリップは力尽きて地面に腹をつけた。
「あ、あの……これはどういうことでしょうか?」
「ん?」
カイサが決死の覚悟で質問すると、カイが振り向いた。
「フィリップには健康になってもらおうと思ってな。筋トレさせてるんだ。ゆくゆくは、騎士になるのが目標だな」
「殿下、プルプル震えてこちらを見てるのですが……」
「雨に打たれた子猫みたい……かわいそう……」
「腕立て、腹筋、スクワットを各5、6回やっただけだぞ?」
「「たったそれだけで……」」
フィリップがカイにどんなに酷いことをされたのかと思ったら、たいしたことがなかったので同情する気持ちが減ってしまった。
「だ、誰か、助けて……」
「あんなこと言ってますけど?」
「喋れるならまだ大丈夫だ。次はランニングな」
「鬼~! ボエル! ボエルはどこだ!? ボエル、助けて~~~!!」
「ちょっと走るだけだろ」
助けを求めてもボエルは現れないので作戦変更。
「靴ぅぅ~~~!!」
「ああ~。忘れてた」
「「お着替え持って来ましょうか?」」
「カイサ! オーセ! どっちの味方なの!?」
フィリップは着替えに帰ろうとしたのに、オーセたちが気を利かせて持って来てしまったので作戦失敗。
しかし、それで時間稼ぎができたのは僥倖。フィリップが文句タラタラでダラダラと体操服に着替えていたら、馬が3頭駆けて来た。
「陛下、あちらです!」
「フィリップ!? 大丈夫か!?」
「カイ! 何してるんだ!?」
先導するボエルと、フレドリクとモンスの登場だ。
「何って……訓練だが?」
「訓練は許可したが、フィリップの体調が戻ってからと言っただろ!」
「え? 体調って1日寝たら治るモノじゃないのか??」
どうやらフレドリクの頭の中では今日は訓練日ではなかったらしい。でも、カイの頭の中は筋肉で出来ているから、もう元気になってると思っていたっぽい。
なのでこの場にいる全員、絶句だ。
「うわ~~~ん! カイが僕の騎士をボコボコにして屋敷も壊したの~~~」
「カイ! 本当に何してるんだ!!」
「いや、その……」
そのチャンスを見逃さないフィリップ。フレドリクに抱きつき、カイの蛮行を簡潔にチクってやるのであったとさ。




