460 次なる刺客
フィリップが高熱を出して倒れたのだから、緊急搬送。医務室に担ぎ込まれたフィリップは、神官の回復魔法やら濡れタオルを頭に乗せられて治療されていた。
「フィリップが倒れたって!?」
話を聞いたフレドリクも慌ててやって来て、ヨーセフから事情を聞く。
「急に倒れまして……」
「何か予兆みたいなモノはなかったのか? 顔色が悪かったとか……」
「それはなかったかと……あ、もしかしたら……」
「なんだ?」
「仕事中によく居眠りしていたのです。本当に体調が悪かった可能性があります……ずっとサボっているのだと思っていました。私の不注意です! 申し訳ありませんでした!!」
ヨーセフは自分のせいだと責めるが、フレドリクは慰める。フィリップの体調不良は聖女でも治せない不治の病だからだ。
「やはりフィリップには仕事は無理だったのだ……」
ちょっと働いただけで倒れたのだから、フレドリクにも諦めが見える。
「しかしですね。何もしないで引きこもっていては、下の者に示しがつきません。それにフィリップ君のためにもならないはずです」
「皆の言っていることはわかるが、厳しくし過ぎるとフィリップの死期を早める可能性もある。しばらくは休ませてやってくれないだろうか?」
「……はい。体調がよくなるまで待ちましょう」
フレドリクとヨーセフが喋っている間に、苦しそうにしていたフィリップは穏やかな顔になった。
なので2人はもう大丈夫かと思い、神官には悪化したらすぐに呼び出すようにと告げて医務室を出て行くのであった。
「なるほどね。僕に仕事をさせようと兄貴を唆したのはヨーセフたちか……余計なこと吹き込みやがって……」
人の気配が消えたら、フィリップはムクリと体を起こして怒った顔してる。もちろん倒れたのは演技だ。
そうしてブツブツ愚痴っていたら、ドアがガチャッと開いたので慌ててタオルケットを被った。
「「殿下……」」
心配するカイサとオーセだ。容態が安定したと聞いて入って来たのだ。
「あ、カイサとオーセか~」
「「はい??」」
「ここにいてもやることないし、さっさと家に帰ろっか?」
「「んん~??」」
さっきまで苦しそうにしていたフィリップがなんともないように話し掛けて来るので、カイサたちは反応に困ってる。
「病気はどうなったの?」
「治った治った」
「もうしんどくないの?」
「余裕余裕」
「「……」」
「さっ。行こっか」
なので聞いてみたらこの始末。2人は顔を見合わせて「仮病じゃない?」と目だけで語り合っているけど、フィリップは気にせずベッドから抜け出すのであった。
神官にはめちゃくちゃ止められたフィリップであったが「もう大丈夫」と言ってムリヤリ医務室を脱出。走って逃げて行くので、神官も驚いて追うこともできなかった。
カイサたちは従者だから走って追いかけるが、フィリップは鬼ごっこをしてる気分で笑いながら逃げる。そして馬車に乗り込み、2人の苦言を聞きながら根城に帰るであった……
ところ変わって執務室。フレドリクが仕事をしていたら、ヨーセフが申し訳なさそうに入って来た。フィリップを倒れるまで追い込んだ直後だから、仕事の用事であっても合わせる顔がないみたいだ。
その気持ちを汲んでフレドリクが優しく宥めていたら、ノックの音が響き、執事の確認の後にカイが入って来た。
「フレドリク、定時報告だ」
「ああ。もらうよ」
現在のカイの立場は、近衛騎士団副団長。書類仕事も少しはあるから、たまに執務室にやって来るのだ。
「2人で何を話してたんだ?」
「フィリップのことなんだが……」
ヨーセフが深刻な顔をしていたのでカイは気になって聞いてみると、フレドリクがフィリップが倒れた話をする。するとカイは首を傾げた。
「フィリップならさっき、侍女の2人と鬼ごっこしてたぞ?」
「「へ??」」
そう。鬼ごっこを見ていたのだ。フィリップの弁護をすると、カイは目がいいから遠くから見ていたので存在に気付かなかったのだ。
まだ神官からも目覚めたと聞いていないフレドリクたちは、同時に変な声が出た。神官は報告するか、いまだに悩んでるんだって。
「やっぱり仮病なんじゃないか?」
フレドリクたちが固まっているから、カイが答えを言ってしまった。
「いや、熱で苦しんでいたから仮病はない。ヨーセフも見ただろ?」
「はい。あんなに体温の高い人間は初めて見ました」
でも、病気の証拠は確実にある。
「まぁなんにしても、一時的なモノじゃないか? 倒れた直後に元気に走っていたんだからな」
「そうだといいのだが……」
「元々フィリップは外に出なさ過ぎなんだよ。太陽の光を浴びて運動して、体力を付けたら病気も吹き飛ぶって。今度は俺が面倒見てやるよ」
「それは稚拙すぎないか?」
「カイですからね……」
乙女ゲームの筋肉担当は、相当な筋肉バカ。しかしカイの言い分は一理あるので、無理のない程度でフィリップの体力アップを許可するフレドリクであった。
そんなことが決まったなんて知らないフィリップは、もう仕事しろなんて言い出さないだろうと安心して寝坊までしていたら、根城に激震が走った。
「地震? ムニャムニャ……」
でも、フィリップはまだ起きない。
「殿下! 敵襲です!!」
「部屋のドアが破られました!!」
寝室にカイサとオーセが血相変えて飛び込んで来たのであった……




