458 激昂
財務部門で仕事を押し付けられたフィリップは、仕事そっちのけでカイサとオーセにソロバンを教えていたからヨーセフは激怒。
カイサとオーセは顔を青くして何度も頭を下げているのに、フィリップは頭の後ろで手を組んで他人事だ。
「聞いているのですか!」
なので、ヨーセフはフィリップに集中。いや、最初からフィリップに向けて怒ってました。
「聞いてる聞いてる」
「だったらこれはどういうことですか!」
「これって??」
「仕事を投げ出していることですよ!!」
ヨーセフは机に乗った書類をバシバシ叩いて糾弾したが、フィリップはニヤニヤしてる。
「そんなに叩いたら、書類がぐちゃぐちゃになっちゃうよ~」
「何も書かれてない書類なんかどうでもいいでしょ!」
「誰が何も書いてないって?」
「フィリップ君です!!」
「うっさいな~。せっかく綺麗に埋めたのに、破れたら僕は知らないからね? やり直しはヨーセフがやれ」
「はあ!?」
フィリップが偉そうに命令すると、ヨーセフは怒り爆発。書類を握ってフィリップに投げ付けようとしたが、数字が目に入ったのでその手は止まる。
「書いてある……これも……いやいや、間違ってる可能性が……」
そう。書類は全て記入済み。ヨーセフはソロバン片手に全てをチェックした。
「全て合ってる……完璧な書類だ」
「でっしょ~? 終わってから2人に教えてたの。なのにこんなに怒られるって……気分悪い。もう帰る。行くよ~」
「待っ……」
「待たない! 家臣にこんな恥を掻かされて、僕が怒らないと思っているのか!!」
「も、申し訳ありませんでした……」
フィリップだって限界。皇子オーラと激ギレで、ヨーセフを黙らせてその場を後にするのであった……
財務部門の文官が手を止めて見詰める中をフィリップは偉そうに歩き、部屋から出たらスキップに変わったのでカイサとオーセはため息を吐いた。
「「殿下……」」
「ん~?」
「「アレって、私たちがやったんですよね?」」
「そそ。カイサもオーセも、ヨーセフまで騙されて面白かったよね~? アハハハハハ」
「面白くありませ~ん」
「怖かったですぅぅ」
「ゴメンゴメン。早く帰ろっ。アハハハハハ」
そう。仕事をやったのはカイサとオーセ。フィリップは教えるついでに仕事を押し付けたのだ。
フィリップは謝ったあとは、走って家路を急ぐのであったとさ。ヨーセフが気付いて追いかけて来る前に……
根城に戻ったら、今日の復讐……じゃなかった。カイサとオーセにソロバンの使い方を復習させるフィリップ。
「ねえ? 明日も私たちに仕事をやらせるつもり??」
「プーくんならありえる……」
でも、復讐したいのか睨んでます。
「違う違う。2人にはうちの帳簿を管理してもらおうと思って」
「「帳簿??」」
「あ、今まで一回しか触らせたことなかったね。ちょっと持って来る」
フィリップは寝室に入ると、隠し金庫から帳簿を取り出して2人の前に置いた。
「見覚えあるでしょ?」
「うん……太上皇様にあたしが持って行ったヤツ……」
「内容は覚えてないだろうね。ま、お店で言うところの売上帳。お金の出入りが書いてるノートだよ」
「それって重大なんじゃない? マスターも触らせてくれなかったよ?」
「僕のだから、どんぶり勘定でいいよ??」
「「それは~……よくないよね~??」」
カイサは重大性に気付いたが、フィリップにその気持ちはまったくないみたい。
「どんぶり勘定は冗談。ちょっとぐらい間違っててもいいって言ってるの。もちろんちょろまかしてもね」
「寛大すぎるよ~」
「できるわけないでしょ。税金よ」
「あっ!?」
オーセはお小遣いが貰えるのかとちょっと嬉しそうにしたけど、カイサは真面目だ。
「間違えたら、もう1個ノートと袋があるから、ここから誤差を修正したらいいだけ」
「「それって……」」
「裏金っての。僕の場合は犯罪で手に入れた汚いお金だね」
「「犯罪したの!?」」
でも、主人は不真面目どころか犯罪者。貴族を騙してお小遣い稼ぎをしたと言っても、犯罪者を見る目は変わらないよ。
ちなみに貴族を騙して奪ったお金はとっくに尽きており、ダンジョンで手に入れたお金しかないから真っ当なお金だけど、フィリップは「裏金」って言いたいだけ。実際、人に言えないお金だもん。
「というワケで、2人が管理してくれたら、無駄な税金は出て行かないってこと。わかった?」
「どういうワケかはわからないけど、プーちゃんを見張れってことね」
「だね。無駄遣い酷いもん。だいたいあたしたちが貰ってばっかりだけど……」
「「やらせていただきます!!」」
ちょっと腑に落ちないことはあるが、帝国に住む民のために、庶民は第二皇子の帳簿に立ち向かうのであった……
「金額が大き過ぎて、金銭感覚が麻痺しそう……」
「てか、プーくん、全然使ってないじゃない!?」
無駄な作業を押し付けられたと気付くのは、すぐあとのことであったとさ。
新しい仕事を押し付けられたカイサとオーセは、せっかくだからフィリップの粗探し。帳簿とお金を全てチェックしてやろうと、ソロバンをパチパチ弾く。
そんなことをしていたらフレドリクが訪ねて来て、今日の出来事の謝罪。フィリップは怒られると思っていたから適当に返したけど、フレドリクが明日の仕事の時間を告げて帰って行ったので、ベッドの上でバタバタしてた。
翌朝はブーブー言いながら出勤。財務部門の部屋に入ってヨーセフと会ったら、フィリップはへっぴり腰のファイティングポーズを取った。
「そう警戒しないでください。昨日は言い過ぎました。申し訳ありませんでした」
「ふ~ん。殊勝じゃな~い」
フィリップはまだ気付いてないんだとニヤニヤ笑う。しかし、顔を上げたヨーセフは、怒りの表情だ。
「ただし! その2人にやらせたことはわかっているんですからね!!」
昨日ヨーセフがフレドリクにチクらず謝罪だけしていたのは、今日フィリップに物申すための布石。怒っていたら絶対来ないと思ったらしい。
「なに言ってるか、わっかんな~い」
「ここには3人の筆跡があるんです!!」
「おお~。よく気付いたね~。でも、もっと早く気付くと思ってたよ。昨日のあの場で気付かなくちゃ。プププ」
「ムキーーー!!」
しかしフィリップはその上を行く悪知恵で、ヨーセフを激昂させるのであったとさ。




