457 強制労働
二度の結婚式に出席したフィリップは、すぐさま夜遊びモードに移行しようと思ったけど、ボエルがダメダメ過ぎたのでしばらく様子見。
思った通り時々訪ねて来てうるさいから落ち落ち寝てられないともいう。
フィリップもうっとうしく感じていたら、フレドリクからの呼び出しがあったので、ノコノコ執務室にやって来た。
「僕に……仕事を……しろと??」
「ああ……凄い顔になってるぞ??」
それは、普通のお話。でも、フィリップは仕事をしたくないので、ムンクの叫びみたいな顔で固まったよ。
「ほら? 最近は体の調子が良さそうだろ? 無理がない程度で、適性なんかを見ておきたいのだ。要は、お試し期間みたいなモノだ……いい加減、その顔やめよっか? プッ」
真面目な話をしていたフレドリクでも、フィリップの顔に負けて吹き出したよ。
「うう~……急に体調が崩れたらゴメンね」
「わかっているさ。しんどい時は言ってくれ」
「うん……」
「じゃあ、今日はヨーセフがイロイロ教えてくれるからな」
「いまから!?」
フィリップ、明日から仮病を使ってやろうと思ったのに逃がしてもらえない。フレドリクはフィリップの肩をガッシリ持つと、無理矢理運んで行くのであった。
執務室を出たフィリップは身動き取れないので、カイサとオーセに口パクで「助けて~」と伝えたけど伝わらない。2人は「イケメンにくっつけていいな~」とキュンキュンしてるんだもの。
そんなフィリップたちがやって来た場所は、帝国の財務部門。50人近くの文官が、ソロバン弾いてカリカリカリカリ数字を書いている部屋だ。
そこに押し込まれたフィリップは、フレドリクに押されてヨーセフの前へ。フレドリクはヨーセフに声を掛けたらすぐに踵を返したので、フィリップは「カムバーック!」と床に寝そべり右手を伸ばしてるよ。
「何を遊んでいるのですか。こちらに来てください」
「持ち方~~~!!」
ヨーセフに首根っこを掴まれて運ばれるフィリップ。バタバタしていたら、仕事机の前に張り付けられた。
「何この縄は??」
「逃げないための縄です」
「なんで!?」
全然人間扱いされないので、さすがのフィリップも苛立って来た。
「私たちはフィリップ君のことを疑っています」
「はあ? 僕、どこからどう見ても第二皇子でしょ??」
「見た目は……子供に見えますけど関係ありません」
「いま、何と何が関係なかったの!?」
ヨーセフは明らかに言葉を足したけど、フィリップのツッコミは無視だ。
「仮病……ですよね?」
ヨーセフが疑っていることは、フィリップの体調不良。大事な日は必ず現れるし、最近も結婚式に遅れず出席していたから疑われたのだ。
「本当に病気だっちゅうの。お兄様に聞いたらわかるでしょ」
「確かに陛下はフィリップ君の体温は高いとおっしゃっていました。しかし、その程度、気合いでなんとかなるものです」
「脳筋の発想!? お前もそっち側だったのか!?」
メガネを掛けている人が言うセリフではなかったので、フィリップもビックリだ。
「さあ、この領収書をこの紙に書き写して、合計を記入してください」
「ええ~。難しい~」
「太上皇陛下の手伝いをしていたのでしょう? 計算器も使えると聞いてますよ」
「ええ~。しんどい~」
「終わるまで帰しませんからね」
「ええぇぇ~~~」
フィリップが嫌がっているのにヨーセフは容赦ナシ。ビシバシとフィリップに強制労働を強いるのであった。
ヨーセフはフィリップを見張っているので逃げるに逃げられない。仕方がないから言われた仕事を始めたけど、フィリップはダラダラ。たまに間違えてヨーセフの様子を見る。
そんなフィリップなのに、ヨーセフは特に怒ることはない。フィリップはダラダラやってるつもりでも、書類仕事能力が高いから、普通の人よりちょっと遅いぐらいになっているのだ。
間違えも慣れてないからと優しく訂正されるだけ。もっと怒られるモノだと思っていたフィリップは気持ち悪そうにしてる。
その甲斐あってか、ヨーセフは自分の仕事をすると言って離れて行った。ただし、カイサとオーセを張り付かせて。皇帝の命令権をもらったらしいので、2人も断れなかった。
「はぁ~あ。ポ~イ」
ヨーセフの姿が見えなくなったら、フィリップはさっそくペンを投げ捨てた。
「殿下、仕事をしてください」
「私たちが怒られるじゃないですか?」
「いいよいいよ。僕が怒られるから安心して」
「「そういうことじゃなくて~」」
フィリップにやれと言っても無駄なこと。それよりも文句タラタラだ。
「これ、見て? こんなことされて働く気が起きると思う??」
「まぁ……ちょっとはかわいそうだとは思いますけど……」
「逆に聞きますけど、どうしてこんなに厳重にされてるんですか?」
「さあ? サッパリ……なんでだろ??」
「「ヨーセフ様に何した??」」
フィリップは完全に忘れているので、ちょっと説明。一度、ヨーセフ、カイ、モンスの3人から逃げ切ったことがあるから、厳重になっているのだ。
「ところでこれって、どうやって使う物なのですか?」
フィリップがやる気なしモードに入ってしまったので、カイサは仕事に興味を持たせようとソロバンを指差した。
「あ、そうか……使ってるところは見たことなかったんだったか」
「はい。ここの皆さん、パチパチやってるのも不思議で……」
「よし。2人に教えてあげるよ。ちょっと待ってね~」
フィリップは縄からスルリと抜け出すと、まずはカイサを座らせる。2人は「そんなに簡単に抜け出せるから厳重になるんだ」と謎が解けていたよ。
「んじゃ、この数字をそこに書いて」
「はあ……こんなことしてていいのかな~?」
「いいのいいの。オーセもよく見ててね~?」
こうしてフィリップは、仕事そっちのけでカイサとオーセにソロバンを教えるのであった……
「何してるんですか!?」
もちろんヨーセフに見付かって、こっぴどく怒られるのであったとさ。




