453 説得大作戦
「そんで……ボエルはどうなってんの?」
リネーアの結婚話からフィリップたちが地位を忘れるから「どっちもポンコツ」とカイサとオーセがヒソヒソ言っているので話を戻すフィリップ。
ボエルもポンコツって聞こえているから、その話に合わせる。
「オレたちはカロラの主人が卒業する前って決めてたんだ。それなら主人も結婚式に参加できるらしくてな。ま、形だけになるけどな」
「あの男爵令嬢って確か……僕が5年生の時に入学だっけ? てことは来年卒業か」
「ああ。やっと結婚できる~」
「嬉しそうだね~。じゃあ、もう準備万端なんだ」
「……ん??」
ボエルが珍しく乙女チックな仕草をしていたけど、フィリップが質問したらまったくわかっていない顔をした。
「いや、ほら? 帝都学院の三学期って、みんな忙しいんじゃない? テストもあるし、卒業パーティーの準備もあるでしょ? となると、今年中にやらなきゃいけないと思うんだけど。年末も社交シーズンで忙しいから、11月末がギリかな?」
「んん~??」
「んん~?じゃなくて……来年しようとしてたの??」
「そ、そうだけど……」
「このクマは……」
ボエルは貴族の常識を省いて期日ギリギリにしようとしていたので、フィリップは呆れ顔。ただ、馬鹿なフィリップにそんな顔で見られたので、ボエルはプライドが傷付いたと噛み付く。
「てか、まだ3月だから、8ヶ月もあるじゃねぇか! 余裕で間に合うだろ!!」
期日だ。こんなに余裕があるのだから、焦る必要もないと開き直った。
「時間はね。僕も詳しくないんだけど……結婚式って、式場の予約とか出席者とか料理とか、やる前がめっちゃ大変って聞いたことがあるんだけど」
「……へ? そうなのか??」
「はい。お嫁さんのために凝り過ぎると、準備で一年以上かかる場合もありますよ」
「うちのお母さん、結婚の準備だけで半年もかかったと言ってましたよ」
フィリップの言葉は信じられないけど、カイサとオーセなら信じられるからってボエルも冷や汗が垂れる。
「まぁ余裕って自分で言ってるんだから、ボエルなら大丈夫か。結婚式、楽しみにしてるね~」
ここでフィリップは話を終える。その顔は意地悪な顔をしてるから、クマには無理なんじゃないかと思ってるな。
「ああ! すっげ~結婚式にしてやるからな! 首を洗って待ってろ~~~!!」
売り言葉に買い言葉。フィリップに喧嘩を売られたと感じたボエルは、慌てて結婚式の準備に取り掛かるのであった。
「殿下、首を切られるのかな?」
「ボエルさんなりの冗談じゃない?」
「あのクマの語彙力……それはやり返す時に言う捨て台詞だろ……」
「「じゃあ合ってるの??」」
「絶対に偉い人には言っちゃダメ」
「「ですよね~??」」
ボエルがフィリップに放った捨て台詞で言葉の勉強をしたオーセとカイサであったとさ。
「助けてください! お願いしますぅぅ!!」
それから10日ほど経った頃、あんなに自信満々で捨て台詞を残したボエルがフィリップに泣き付いて来た。フィリップはからかいたくもなったが、ボエルがウルウルしているのでちょっとはかわいそうに思ってアドバイスする。
「いや、僕に言われても……お金なら用意するから、あとは友達とか同僚に聞いてよ」
「そういうことじゃないんだ!」
どうやらボエルは、まずは彼女のカロラと親への報告の話をしたそうだ。カロラは何故か渋っていたが、両親に手紙を出してくれたので返事を待っていたら「すぐ行く!」とだけ書かれた手紙が届いたそうだ。
「えっと……プロポーズしてから、今まで何してたの??」
「オレは親に言って許可を貰ったというか、オヤジと決闘して許可貰ったんだけど、カロラは言いにくいからって先送りにしてたみたいなんだ……」
「決闘したんだ……お父さん、大丈夫?」
フィリップはボエルのほうが気になったので、先に処理。決闘といっても素手だったから怪我もたいしたことがないとのこと。そもそもボエルのほうが騎士としてのランクが高いから、母親は好きにしなさいと送り出してくれたそうだ。
次にカロラの実家は、アクセーン男爵領でボチボチの規模の商家。アクセーン男爵との繋がりを持つために奉公に出されたのに、勝手に結婚を決めた上に相手が女なんて言うに言えなかったんだって。
「プププ。これは揉めるぞ~?」
「だから助けてくれって言ってるんだよ~~~」
でも、そんなことを言ったらフィリップがワクワク。とんでもなく悪い顔をしているので、頼ったことを早くも後悔するボエルであったとさ。
時が過ぎ、ボエルとカロラの両親の面会日は、フィリップたちもコソコソ覗き見。というか、平民街で一番高価な料理店をフィリップが貸し切りにしたから、堂々と隣のテーブル席に座ってるよ。
こんなにガラガラなのに、平民っぽいチビッコ3人が隣のテーブル席にいるから、カロラの両親は怪訝な顔をしてるけどね。
「娘が、娘さんと、結婚って??」
最初はお店に驚き、フィリップたちを怪訝な目で見ていた両親は、やっと本題に入る。やはりネックは、ボエルの性別だ。
「混乱する気持ちは痛いほどわかります。しかし私は、皇帝陛下の近衛騎士で騎士爵もいただいております。これ、少ないですがお納めください。どうか、娘さんとの結婚をお許しください!」
しかし、ボエルは地位と金貨の山で強打。話しても無駄だろうと、フィリップがやらせたみたい。
「お、御貴族様……」
「あ、あなた。こんなにお金持ちなら、女の人でもいいんじゃない?」
「し、しかしだな。女じゃカロラを守れないだろ?」
「聞いてなかったの? 近衛騎士様だよ? あなた、失礼なことを言ったら、バッサリいかれるわよ??」
「ヒッ……」
ボエルはニッコリ微笑んだらしいけど、演技が下手なので父親に恐怖を与えてしまったっぽい。フィリップたちは「笑顔ヘタか!」って吹き出してる。
「む、娘を、幸せにしてやってください……」
「はいっ! オレが一生守り続けます! お義父さん!!」
「いだ~~~!!」
さらにボエルは勢い余って、父親と握手をしたら手を握り潰しちゃった。
「「「あわわわわわ」」」
「あ~あ……ちょっとゴメンね~」
なのでフィリップが回復ポーションを振り掛けて、事無きを得る……得られたかどうかはわからないけど、怪我は治ったのであったとさ。
「えっと……そちらの方は?」
フィリップは手を出してしまったから「もういっか」とチビッコ組も会食にまざり込んだので、両親は気になって仕方がない。
「僕? 僕はボエルのかつての主人。口下手で雑なところがあるから、心配でついて来たの~。ついて来て正解だったでしょ?」
「「はあ……」」
「ま、さっきはボエルが失敗しちゃったけど、ボエルはめちゃくちゃいいヤツなの。仕事はできるし友達もいいヤツ多いし。大きな欠点は女ってだけ。それを除けば、こんなにお買い得な物件はないよ」
フィリップがセールストークを続けたら、ボエルの目が潤む。こんなに自分を評価していたとは、初めて聞いた話だから感動したのだ。
カロラも自分の知らないボエルを知れて感動。2人はテーブルの下でそっと手を握る。
食事をしながらフィリップは喋り続け、カイサとオーセにもボエルに世話になった逸話を披露させたら、両親のボエルを見る目は変わった。
「ボエルさん。娘をよろしくお願いします」
「カロラ……幸せにね」
「「はいっ!」」
これにて、ボエルカップルの結婚を邪魔する者はいなくなった。フィリップは両手で手を取り合う4人の幸せな顔を確認したら、カイサとオーセを連れて帰って行くのであった。
「ところで……あの子供は、本当に何者なんですか?」
「いや、あの方は……」
「あっ! ボエル~~~」
父親がフィリップの正体に言及したところで、ボエルを呼ぶ声が聞こえた。そこにはドアの前に立つフィリップがカツラを脱いで人差し指を口の前に置いていた。
「僕が第二皇子って言っちゃダメだよ~?」
「「「「……」」」」
それは自分でバラしているようなもの。しかし第二皇子が目の前にいるから、誰もそれにツッコめないのであった……




