450 誕生
コンラード宰相からダンマーク辺境伯の話を教えてもらったフィリップは、腰を上げようとしたけど説教をするからと止められた。
「いや、そんなこと言われて残る人いないでしょ?」
「私の部下は残ります。他の部署の者も」
「それはパワハラだよ~」
「丁寧に教えているだけです」
フィリップがちょっと反論したら説教が始まってしまったので、ダッシュで逃走。コンラード宰相は止めようとしたけど、フェイントに引っ掛かってあえなく失敗だ。
カイサたちを拾ったフィリップは、廊下も駆け足。「どけどけ~。第二皇子のお通りだ~」と大声を出してメイド等を横に追いやる。コンラード宰相が追って来そうだから急いでいたらしい。
そんなことをしなくともコンラード宰相は追ってなかったので、庭園に着いたら一休み。たまには皇族食堂を使ってみようと予約して行ったら、フレドリクとバッティング。
久し振りにフレドリクを近くで見たカイサとオーセは目がハートだ。
「あ、お兄様。なんか久し振りだね~」
「ああ。今日は体調良さそうだな。でも、廊下は走ってはダメだぞ?」
「アレは宰相が説教しようと追って来たから逃げ回っていたの~」
「何をやらかしたんだ?」
ひとまず一緒に食事をしながらフィリップはウソ。体調不良を信じてもらえず、生活態度が悪いと愚痴られたことも付け足す。半分は本当だし、フレドリクは体調不良を見ていたので信じてくれた。
「そういえばお姉様ってそろそろ?」
「予定通り行けば、もうひと月ってところだな」
「もうすぐか~……どっちだろうね? もう名前決めた? 服とかも用意してるの??」
「アハハ。フィリップも楽しみにしてくれてるのか」
「あったりまえじゃ~ん。たぶんお兄様みたいにカッコイイ男の子だと思うんだよね~」
「私としては、どちらでも健康に生まれて来てくれたら、それでいい」
「えぇ~。優等生すぎる答えだな~。あ、周りに目があるからか。僕だけ。僕だけに本心教えて~」
フィリップが近くに寄って耳を差し出すと、フレドリクは「しょうがないヤツだな」と言いながら、少し嬉しそうに耳打ちしてくれた。
「へ、へ~。そうなんだ~」
「他言無用だぞ?」
「うん。わかってるよ。早く来月にならないかな~?」
「本当にな。早く我が子をこの手に抱きたいよ」
そこからもずっと赤ちゃんの話題。男の子だったらどうするか、女の子だったらどうするかと話題が尽きない2人であった……
「「ねえねえ、殿下~?」」
根城に帰ったら、急に甘えて来たカイサとオーセ。フィリップはそういうことかと服を脱ぎ脱ぎしたけど、2人にガシッと止められた。
「アレ? 違うの??」
「当たり前でしょ」
「陛下との内緒話に決まってるでしょ」
どうやら特大のゴシップネタが聞きたかったみたい。
「内緒話って言われてもな~……ま、2人なら大丈夫かな?」
「「誰にも言いません!」」
「ちなみにだけど、たいして面白くないよ?」
「「焦らさないでよ~」」
フィリップはリクエストに応えて、本当につまらない話を披露だ。
「お兄様は女の子がいいんだって」
「へ~。意外~。てっきり世継ぎが欲しいと思ってたわ」
「ルーちゃんは男の子産まないとって言ってたのに、本当に意外ね~」
「ふ~ん。夫婦で違ってたんだ。だから口にできなかったのかな?」
「「どうだろうね~?」」
面白くない話でも、おめでたい話なので2人は微笑ましく聞いていた。ちなみにフィリップが喋っていないことがある。それはフレドリクが女の子を欲した理由だ。
ルイーゼそっくりの女の子が欲しいと言われたから、その時のフィリップは少し引いたのだ。ルイーゼが増殖したら、世界が滅ぶとか思ったんだって。
それからもフィリップが仮病を使いつつ朗報を待っていたら、ついにその時が来た。
「お兄様! 産まれた!?」
ルイーゼが産気付いたと聞いたフィリップもフレドリク邸に飛び込んだ。
「まだだ。来てくれて嬉しいけど、体調は大丈夫なのか? 朝の報告では熱が出たと聞いていたのだが……」
「こんなにおめでたい話を聞いたんだから、熱も吹っ飛ぶよ~」
「念の為フィリップは、ルイーゼと赤子には接触禁止な?」
「うっ……はい」
仮病を使っているフィリップが悪い。フレドリクに病原体は接近禁止と言われたフィリップは、トボトボと一番端の椅子に座って辺りを見回す。
「ねえねえ? ヨーセフたちは暇なの??」
そこにはメイドや執事以外に、逆ハーレムメンバーが集結。フィリップは遠回しに「自分の子供じゃないのに、こいつらなんでいるんだ?」と聞いてみた。
「暇なワケないでしょう。仕事を中断して駆け付けたのです」
「私もです。少しでも皇后様と陛下を励ますためにね」
「仕事もしてないフィリップとは違うんだ。俺たちは忙しいなか来てるんだよ」
でも、逆ハーレムメンバーには通じない。ヨーセフ、モンス、カイに反論されてしまった。
「忙しかったら仕事を優先しなよ。これだから最近の若者は……」
「「「お前が言うな」」」
ただし、カイの言い方にはトゲがあったのでフィリップは嫌味を言ってみたけどこれも通じない。フィリップはこの1年、ひとつも仕事してないもん。
3人から総ツッコミされたフィリップも黙っているワケもなく、ギャーギャー喧嘩。フレドリクはそんな皆を宥めていたら、喧嘩はピタリと止まった。
「オギャー! オギャー!!」
産声が聞こえたからだ。
「やった……産まれた……」
「お兄様、おめでとう。早く会いに行ってあげなよ!」
「そ、そうだな! ルイーゼ~~~!!」
「「「ルイーゼ~~~!!」」」
「お前たちには言ってない……」
感動で身動き取れなかったフレドリクにフィリップが声を掛けたら復活。ついでにヨーセフたちも部屋に飛び込んで行ったから、フィリップは呆れて小声のツッコミだ。
そのフィリップは遅れてカイサたちと一緒に部屋に入ると、遠巻きに逆ハーレムメンバーがルイーゼを囲んでいる姿を見ていた。
「殿下、どうしたのですか?」
「変な顔してますよ?」
カイサとオーセは喜びを伝えようとしたが、フィリップの顔が固まっていたから首を傾げた。
「な、なんでもない……よりにもよって、男の子かよ……」
「いいことじゃないですか!」
「ほら! 陛下と皇后様に声掛けないと!」
「そ、そうだね……」
斯くして帝国に世継ぎが誕生したのだが、フィリップは祝福の言葉を一言掛けたら、体調が優れないと告げてすぐにその場を後にしたのであった……




