045 イジメ
中間試験が不正だらけだったので正したフィリップであったが、寮に戻ると問題発生。
「キャアアァァ~~~!!」
テストの答案用紙をダグマーに見せてあげたら発狂したのだ。
「そんなに驚かなくても……みんなこんなもんだよ?」
「そんなわけないでしょ! 皇帝陛下に申し訳がありませ~~~ん」
「それならこっちの答案用紙もあるんだけど……」
ダグマーがいまにも泣き出しそうなので、フィリップは100点の答案用紙も出してみた。
「不正をしてバレたのですか!?」
「違う違う。不正してたのは学校のほう。僕はそれを止めて来たんだよ~」
フィリップが今日の出来事を説明したら、ダグマーもやっと落ち着いた。
「それは……不正してもらっていたほうがよかったのではないでしょうか……」
「かもね。アハハハ」
「次は頑張るのですよね?」
「うんうん。頑張るよ~。足も舐めるから、もう怒らないで~」
「そ、そんなことを殿下にやらせるわけには……もっと間も奇麗に舐めなさい」
結局この日は違うことを頑張ることで、説教を早期に終わらせたフィリップであったとさ。
それから数日はフィリップも仮病は使わずに、学校に行ったりダグマーに勉強を教えてもらったりと頑張っているアピール。そのおかげでダグマーも優しくなって来たから、そろそろフィリップもダンジョン生活に戻ろうかと思っていた。
そんな矢先、フィリップがラーシュを連れて学校の廊下を歩いていたら、ケンカの現場を目撃した。
「おお~。派手にやってるね~。貴族でも素手でケンカなんかするんだ。ねちっこい悪口でやり合うとこしか見たことないのに」
それなのに、フィリップはわくわく。ラーシュも呆れているな。
「アレはケンカではありませんよ。ただのイジメです」
「そうなの? イジメか~……僕も参加していいのかな??」
「ダメに決まってるでしょ! 殿下は帝国の第二皇子なんですよ!!」
「え~。みんなニヤニヤ見てるじゃ~ん。ちょっとだけ。ちょっとだけだから。ね?」
フィリップがどうしてもやるときかないので、ラーシュは途中で止めてやろうと思って許可する。そんな考えにも気付けないフィリップは、スキップでイジメの現場に飛び込んで行くのであった。
「侯爵家の俺に、よくも恥を掻かせてくれたな」
イジメの現場では、2年生の男子2人が1年生の男子を殴る蹴る。たまにその2年生に命令していた一番位の高い、金髪リーゼントヘアーのレンナルト・ノルドマン侯爵令息も、蹴りを1年生の腹にめり込ませている。
「ねえねえ。僕も仲間にい~れて」
「フィリップ殿下!?」
そこに頭のおかしいフィリップが登場。いきなりのことでレンナルトは跪き、周りで笑いながら見ていた生徒も続いた。
「畏まらないでよ~。楽しいことしてたんでしょ? 僕にもやらせてほしいな~??」
「あの、その……」
レンナルトも悪いことをしている自覚はあるのか言い淀んだけど、第二皇子を楽しませることができたら太いパイプが手に入ると頭が働いた。
「この楽しい遊び、このエシルス王国ノルドマン侯爵家が第二子、レンナルトが教えて進ぜます!」
「やった~。イエ~イ」
レンナルトが尊大な感じで立ち上がると、フィリップは万歳。イジメられていた1年生は、第二皇子まで加わるのかと顔を真っ青にしている。
「私の友があいつを押さえ付けておりますので、そこを存分に殴ったり蹴ったりしたらいいだけなんです。簡単ですよね?」
「そんな簡単なことで楽しくなれるんだ~。さっそくやってみよっと」
「どうぞどうぞ」
フィリップが一歩前に出るとラーシュが飛び掛かろうとしたが、途中で止まった。
「がはっ……な、なんで私を……」
フィリップが振り向き様にレンナルトの腹を殴ったからだ。
「え? いくらでも殴ったり蹴ったりしていいんでしょ? 次、行くよ~??」
「ま、待って! ぎゃっ!?」
レンナルトの待ったは聞かず。フィリップはビンタにローキック、ケンカキックを手加減して放ち、パンパンと手を叩いた。
「う~ん……思ったより楽しくないね」
「そ、それは私を殴るからです。殴る相手は、彼。彼のような負け顔を引き出さないと楽しめないのですよ」
「なるほど~」
レンナルトは痛そうにしながら説明したら、フィリップもわかったような顔をして1年生の方向を向いた。
「そこの2人。ちょっとこっち来て」
しかし、レンナルトの取り巻き2人を呼び寄せた。
「「な、なんでしょうか……」」
「さっき、レンナルトと一緒に殴ってたよね? それもやってみたいの。命令してやらせるのって楽しそうじゃない??」
「「はあ……」」
「じゃあ、僕がいいと言うまで、レンナルトを殴って蹴って」
「「「えっ!?」」」
「アレ? できないの?? そんなの楽しめないよ~。君もいいよね??」
「は、はい……やれ」
「「で、でも……」」
「いいからやれ!!」
また殴られると驚いたレンナルトだが、フィリップに言われたからにはやるしかない。覚悟を決めて、取り巻きに命令して殴られる。
「さっきより弱くな~い? もっと強く! もっと速く! 打つべし打つべし打つべし!!」
「ぐああああ……」
「アハハハハハハ」
フィリップは笑いながら指示を出し、レンナルトがボロボロになるまで続けさせるのであった……
「もういいよ」
レンナルトが鼻血ブーで仰向けに倒れたところを取り巻きに何度も踏ませたら、フィリップはようやくストップ。
「う~ん。思ったより楽しくないね」
「「「「「えぇ~~……」」」」」
あんなに笑っていたのに楽しくないと言われたからには、全員ドン引き。レンナルトに至っては、驚愕の表情で固まった。
「まぁ何度かやったら楽しくなるかもしれないね。みんなもイジメを見付けた時とかやる時は誘ってよ。今度は道具を使わせてみよっかな~? 楽しみだね~」
「「「「「ええぇぇ~~……」」」」」
さらに酷いイジメのオファーまでして去って行くので、「こいつにだけはイジメを見せてはダメだ」と心に誓った1、2年生であったとさ。




