449 存在感
夜の街で悪口を言う貴族にどう反撃したら、平和的でもっと打撃を与えられるかとフィリップが考えていたが、フレドリクが根城に訪れたので悪い顔は一旦解除。
魔法で体温を上げ、弱々しく咳まで出していたら、今年の式典は欠席するしかないとフレドリクの口から言わせた。その現場を見ていたカイサとオーセは「これまで咳なんて出してなかっただろ」と、なんとも言えない顔をしていた。
フレドリクが帰ったらこれで心置きなくダラダラできると、フィリップはヒャッホーと飛び跳ねたらカイサとオーセに見られていたので、ゆっくりと床に倒れた。
「ぐ、ぐるじい……」
「「噓つけ」」
さすがに2人も呆れ果てて、フィリップをその場に放置して寝室から出て行くのであったとさ。
フィリップが出席しなくとも、式典は滞りなく終わる。もちろんパーティーも何も問題ない。どちらかというと、フィリップがいないほうがパーティーはスムーズに終わったそうだ。
貴族たちの反応は様々。フレドリクの凛々しい姿に感動したり、太上皇を惜しむ声も聞こえる。
一番多い話題は、やはりルイーゼの御懐妊。男か女かと囁き、先を見据えて派閥間で話し合っている姿ばかりだ。
そのルイーゼは何をしているかと言うと、式典とパーティーに短時間だけ出席して、大きくなったお腹を見せるだけで退場。
フレドリクが妊婦の体調を気遣っているのだろうけど、フィリップがこの話を聞いたら「いつも妊娠していたら平和なのに」と思ったんだとか。マナーとかなってないもん。
例年の派閥パーティーは、皇族からの出席者はフレドリクが1人だけ。それでもおめでたの件があるから、大盛り上がり。各会場は祝福の声で溢れている。
フレドリクが感謝の言葉を残して帰って行くと、パーティー出席者はダッシュで集まってこれからの対応を話し合う。豪華なパーティーが台無しだ。
ちなみにフィリップの話題はひとつも出て来なかったよ。「なんか忘れてない?」と、存在自体を忘れられていたみたい。
全ての催しが終わり、貴族たちが全員帝都を離れた頃に、フィリップもやっと仮病をやめた。フィリップが朝から起きたのも久し振りだったので「何か悪い物でも食ったか?」とカイサとオーセでヒソヒソ言ってる。
さらに着替えをして出掛けるとか言うモノだから、2人はフィリップのおでこを何度も触っていた。
「ねえ? 僕が熱を出してる時は、そこまで心配してくれなかったよね??」
「「だって~~~」」
理由はフィリップだから。普通のことをするほうが病気に見えるらしい。それは護衛騎士も一緒。何度も「大丈夫ですか?」と聞いて来たから、フィリップもキレてた。
そのフィリップがやって来た場所は、中央館。廊下を歩くとメイドも道を開けてくれない。
「ねえ? 第二皇子様のお通りだよ??」
「「ホンマや!?」」
「何に見えてたの??」
ここもめったに来なかったから忘れられていたみたい。ちなみにメイドには、フィリップたちのことが貴族の子供か何かに見えていたらしいけど、そんなこと言うと怒られそうだから「見えなかった」と言ってフィリップを怒らせていた。
チビと言われたようなモノだもの。
フィリップがプリプリ怒って歩いていても、前方から来た人は道を開けないので、カイサとオーセの出番。
「第二皇子殿下のお通りで~す」と声を掛けて、道を開けさせる。だいたいが「どこに?」って感じでキョロキョロしていたから、フィリップはズーンッと肩を落としていた。チビ過ぎて見えないと思ったらしい。
そんなフィリップがやって来た場所は、コンラード宰相の仕事部屋。残念ながらコンラード宰相は別の仕事で外していたので、フィリップは「中で待つ」と言って強引に入った。
フィリップは一番豪華な椅子を発見すると、そこに座って机には足を乗せる。するとコンラード宰相の部下は仕事をやりにくそう。ゴニョゴニョと話し合って、1人が出て行った。
それからおよそ15分後。コンラード宰相が帰って来た。つまり部下は助けを呼びに行ったんだね。
「私の机で何をしているのですか……」
第一声は、叱責。フィリップが酷い態度で待っていたからには、コンラード宰相のおでこに血管が浮かんでいるよ。
「あ、これ、宰相の机だったんだ。ゴメンゴメン。座りやすそうだったから、ついつい。えへへ~」
「座るなら、ソファーがあるでしょう」
「あ、ホントだ。目に入らなかったな~」
「はぁ~……もういいです。とりあえずこっちに来てください」
「殴らない? 殴らないならそっち行くけど……」
「殴りませんよ。はぁ~……」
フィリップとやり取りしただけで、コンラード宰相はお疲れモード。フィリップがおっかなびっくりソファー席に移動するから、皇子より先に座ってしまったよ。
「あ、2人とも、外で待ってて。部下も出してもらっていい?」
「……外しなさい」
コンラード宰相はフィリップの能力だけは認めているから、内密の話だと気付いて人払いしてくれた。
「それで? 何を聞きたいのですか?」
部屋に2人だけになると、コンラード宰相はさっそく切り出した。
「いや~。ダンマーク辺境伯はどうなったのかな~っと思って」
「殿下も気にしていたとは驚きですね」
「そりゃ父上が心配してるの見てたもん。アソコに離れられると、いい暮らしできないじゃない?」
「はぁ~。どちらが本心なのでしょうね」
コンラード宰相はまたため息が出てしまったけど、フィリップの質問には簡潔に答える。
年末にあったダンマーク辺境伯との面会は、珍しくフレドリクが嫌そうな顔をしていたからコンラード宰相が「対応しましょうか?」と言ったら任せてくれたらしい。
元々コンラード宰相は太上皇から、できるだけフレドリクとダンマーク辺境伯との接触は避けるようにと頼まれていたみたいだ。
ダンマーク辺境伯たちが何を話していたかというと、亡き太上皇との思い出話。コンラード宰相はフレドリクの話題を避けて、時間いっぱい楽しませたそうだ。
派閥が行うパーティーの順番は、フレドリクはまた嫌そうにしていたけど、コンラード宰相が「太上皇陛下からダンマーク辺境伯を一番にしろと頼まれた」とお願いして、なんとか一番をキープ。
パーティーにもついて行き、また思い出話で乗り切ったんだって。
「それじゃあ今年もなんとかなったってところかな?」
「そうですね。繋ぎ止められた感触はありました」
「うん。ありがとう。ご苦労だったね」
「はっ……??」
フィリップは聞きたい話を聞けたから感謝と労いの言葉を掛けたが、コンラード宰相は返事をしたあとに首を傾げた。
「どうかしたの?」
「なんで殿下が労っているのかと……これ、本来なら殿下がやるべき仕事ですよね?」
「だって、僕、体調悪かったんだも~ん」
コンラード宰相、いらないことに気付いちゃった。しかしフィリップは、伝家の宝刀でバッサリ切り伏せるのであった。
コンラード宰相は信じてない顔をしてるけど……




