448 伸び悩み
フィリップが根城に引きこもり、「今年は一切働かなかったな~」とか考えていたら、年末が近付いて来た。
年末年始には皇族の仕事があるから、さすがにフレドリクも体調を聞いて来たり、式典用の服も用意しないといけないとか言って来たりしていたので、フィリップも「頑張って治す」と言ってた。
でも、今年は断固、出席したくない。つまらないもん。
しかしフレドリクは体のことを心配してくれているので、出席しそうな雰囲気作りのために身体測定を受けに来てみた。
「な、なんで……」
するとフィリップは体調が悪化したのか、身長を測るなり膝から崩れ落ちて床に両手を突いた。
「で、殿下。去年より1センチ伸びてるじゃないですか?」
「142センチですよ? 私たちなんか伸びてないんですから、来年には追い越せますよ??」
「そういうことじゃないの~~~」
フィリップは泣きそうな顔で落胆の理由を語る。
「今まで毎年3センチ伸びてたんだよ? それなのに一昨年は2センチで今年は1センチって……来年が怖~~~い!!」
どうやら伸び率が2年連続で縮小したから、こんなに落ち込んでいたみたい。
「だ、大丈夫ですって、まだ18歳ですよ」
「2年もあれば、私たちぐらいは……いけるかな?」
「オーセ!!」
「オーセがイジワル言う~~~。うわ~~~ん」
「わっ! すみませんすみません」
ついに泣いてしまったフィリップ。本音が出てしまったオーセは焦って謝り、カイサは必死にフィリップを慰める。
その現場を見ていた仕立て場にいる人たちは……
「「「「「クッ……クククククク……」」」」」
笑いを堪えるのに必死であったとさ。
身長が思ったより伸びなかった事実を突き付けられたフィリップは、精神的に病んで仮病が悪化。まだ誕生日には早いのに、娼館で女を買い漁って体で慰めてもらってる。
続々と登城している貴族は、フィリップの話を聞いて大笑い。身長がまったく伸びなかったからショックで倒れたという噂が駆け巡っているんだって。
その噂をクラブで聞いたフィリップことキンさんは激怒。その場で悪口を言っていた意地汚い顔の中年貴族に金貨を一握り投げ付けて逃げてった。
「なんださっきのガキは! 俺様は男爵だぞ!!」
そんなことをされたフォイゲ男爵は激怒。フィリップは手加減して投げたけど、金貨は重いから痛いもん。
「まぁまぁ。たぶん手元が狂っただけなんで許してあげてください」
「はあ? 許せるワケがあるまい!」
「そこをなんとか。キンさんはたぶん、フォイゲ男爵様にご祝儀を渡したかっただけなんです」
「ご祝儀? ……こんなに金貨を投げ付けたのか!?」
こんなことに大量の金貨を使うなんて思いもよらなかったフォイゲ男爵は驚愕の表情で固まる。そこにクラブ嬢が耳打ちする。
「キンさんの素性はわかりませんけど、とんでもないお金持ちだとはわかっています。一晩で白銀貨を何枚も使うことだってあるのですよ?」
「な、なんだと……」
「正直言いますと、キンさんだけは敵に回さないほうがいいかと。夜の住人を全て敵に回すことになりますので……」
「クラブ嬢如きが俺様を脅すのか?」
「滅相も御座いません。事実をお話しているだけです。あ、キンさんに絡んで消えた人は、100人はいることもお耳に入れておかないと」
クラブ嬢の話を聞き終えたフォイゲ男爵が周りを見渡すと、殺気まじりの目がいくつもある。なので事実と受け取り頭を掻いた。
「ま、まぁ子供のやったことだしな。大人はそれぐらいでは怒ったりしない」
「さすがは男爵様。心が広いですね~」
クラブ嬢がヨイショしたところで、店内に雑踏が戻る。フォイゲ男爵もホッとして酒を飲むのであっ……
「ところでその金貨はどういたしましょう?」
「ふむ。拾っておいてくれ」
「はい。お勘定に当てさせていただきますね」
「それでけっこう。釣りは忘れるなよ?」
ただし、金貨のほとんどを持ち帰ったフォイゲ男爵は、夜の街ではドケチだと噂が広がったんだとか……
そんなドケチ貴族が増えるなか、フィリップの誕生日会の日になったけど、体調が優れないとドタキャン。いつも来るメンバーにはお断りの手紙を送ったが、ボエルだけ読まずに来てしまった。
フィリップは夜遊びしてたから、まったく起きず。ボエルはその幸せそうな顔を見て「本当に病気なのか?」と首を傾げて帰って行った。
夕方にそのことを聞いたフィリップは体調不良のフリをして、また夜の街に繰り出す。今日は誕生日を祝ってもらおうとキャロリーナの超絶技巧のマッサージを受けた。
「最近、荒れてるらしいわねぇ」
フィリップの液体を散々搾り取ったら、ようやくキャロリーナの世間話だ。
「まぁちょっとね。アイツら、僕の身長が止まったと言いふらすんだもん。伸びてるっちゅうの」
「ええ~。止まってないのぉ~? あたしの願いが届いたとぉ、神様に感謝してたのにぃ~」
「やめて? それ、呪いだから。絶対にやめてね??」
重度のショタコンには、フィリップの身長が伸びないことが何よりの喜び。フィリップも背が伸びないのはキャロリーナの呪いのせいではないかと疑い出した。
「冗談に決まってるでしょぉ。それより貴族に暴力振るうのやめてちょうだぁい」
「お金あげてるだけなんだけどな~……何か問題起きてる?」
「いまのところギリギリ大丈夫よぉ。金貨を持ち帰る貴族わぁ、ケチだと噂が広がってるのは怖いけどぉ」
「あら? そのまま全部使えば、タダで太っ腹と人気者になったのにバカだな~」
「そんなことできる人ぉ、少数派よぉ~」
そもそも第二皇子の悪口を平民の前で言う者なんて、性根が腐っているのだからケチに決まっている。フィリップはそう思って、物理的ダメージに加えて精神攻撃も仕掛けたのだ。
「もう飽きたからやめる。安心して」
「もっと酷いことしようと考えてなぁ~い?」
「……なんでバレたの??」
「その顔……」
フィリップの顔は悪い顔。この反撃は飽きたってだけで、次なる手を悪い顔で考えていたなら、キャロリーナに秒でバレてしまうのであったとさ。




